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星野源、「うちで踊ろう(大晦日)」に表れた“価値観のアップデート”の結実 ソロ活動で一貫して歌ってきたテーマ

リアルサウンド

21/1/2(土) 18:00

 座りながら静かに弾き語りを始めた星野源。大晦日ならではの歌詞でワンフレーズだけ歌い終えるとカメラに笑顔を覗かせた。そして、軽やかなギターリフをきっかけに、車座になったサポートメンバーのいる円形の舞台へ移動し、いつものメンバーたちと、いつものスタイルで、まるでいつかのライブのようにあたたかな空間を繰り広げた。

 先日放送された『第71回NHK紅白歌合戦』(NHK総合)の「うちで踊ろう(大晦日)」の一幕である。昨年4月にInstagramに投稿されるや否や瞬く間にSNSで拡散された「うちで踊ろう」は、一般人から著名人まで多くの参加者を集めて一躍社会現象となった。紛れもなく2020年を代表する一曲である。今回、この曲に特別に新しく2番の歌詞が加わったことで、以前までのバージョンとはまた違った景色が広がっていた。歌詞全文は公式アカウントが投稿しているのでチェックしてほしい。(参考

 まずなによりも、〈常に嘲り合うよな 僕ら〉から始めているのがなんとも強烈だ。同じように新たに加えられたメロディ部分の〈愛が足りない こんな馬鹿な世界になっても〉についてもそうだが、2番以降の歌詞の根底には世界に対する失望感があるように思う。目を背けたくなる出来事や耳を塞ぎたくなるニュースの多かった2020年。「うんざり」だとか「愛が足りない」と感じる場面がいくつもあった。単なる希望の歌では照らし切れない蝕まれた私たちの心を、この曲はすくい取ろうとしている。

 特筆すべきは、だからと言って全体の印象として暗いものにせず、むしろ爽やかに目の前の生活に専念する風景を浮かび上がらせている点だ。

〈飯を作ろう ひとり作ろう〉
〈風呂を磨いて ただ浸かろう〉
〈昼食を済まそう〉

 会食を禁じられ、大きなイベントも中止になった今、多くの人々にとって最もリアリティのある歌詞だろう。何も起きることなくただ淡々と過ぎていく毎日。そのありふれた日常の一コマを、彼らしいさっぱりとした手つきで讃えていく。さらに彼は、こうも歌う。

〈僕らずっと独りだと 諦め進もう〉

 10年前の「ばらばら」でも歌っていた通り、これはデビュー初期から彼の作品に通底するメッセージである。“世界はひとつ”だとか“みんな同じ”といった安易な表現を彼は用いない。個々の違いを認め、人と人との距離を常に意識している。独りのまま、進む。その上でどう“重なる”ことができるのか。それが彼のソロ活動10年で一貫して歌ってきたテーマであった。

 ……というのはいささか短絡的だが、少なくとも当時と今現在はそうだし、「Family Song」や「恋」にしても、多様化の加速する社会の中で一歩一歩着実に価値観をアップデートさせているように見えた。その意味において、歌そのものとしても、取り組みとしても、社会にもたらした効果としても、長年の積み重ねが結実したのが「うちで踊ろう」だったように思う。表面上は自粛期間の退屈を紛らす娯楽だったこの歌は、これで明確に社会との向き合い方の歌になった。

 「ありがとう」と叫び大きく腕を広げた最後のシーンで、明滅する無数の照明が一斉に光り輝いたとき、あの企画を真っ直ぐに受け取った人々の思いがステージに形になって現れたような気がした。

 2021年がはじまる。世界を襲う未曾有の災禍は未だ収束の気配を見せない。あなたは今年、どんな生活を送り、どんな生き方をするだろうか。

〈変わろう一緒に〉

 新しく付け加えられたこの言葉が、胸のうちで響いている。

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