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金子大地×藤野涼子が体現した青春の痛み 再放送中『腐女子、うっかりゲイに告る。』の挑戦

リアルサウンド

20/7/4(土) 8:00

「ファンタジーだね」

 三浦(藤野涼子)のBL(ボーイズラブ)本をめくった純(金子大地)がぼそっとつぶやく。昨年放送され、大きな反響を呼んだNHKよるドラ『腐女子、うっかりゲイに告(コク)る。』の一場面だ。

 現在再放送中の本作をあらためて振り返ってみたい。

 『腐女子~』の原作は浅原ナオトの長編小説『彼女が好きなものはホモであって僕ではない』。このタイトルが示す通り、ドラマで描かれる軸のひとつが“エンタメとしてBLを消費する”女子高生・三浦と、“ゲイであることを自身が受け容れ切れていない”高校生・純の交流と葛藤の模様である。

 高校3年生の安藤純は母親(安藤玉惠)と二人暮らし。ゲイであることを自認しているが、それを完全には受け容れておらず、親友・亮平(小越勇輝)や同級生たちにも黙っている。純の年上の恋人・誠(谷原章介)には家族がおり、ふたりは秘密の関係だ。

 純は書店で偶然出会ったことをきっかけに、クラスメイトの三浦と交流を持ち、男女のグループで遊ぶ中“恋人”としても付き合い始める。

 が、人として三浦に好意を持ってはいるものの、彼女を恋愛対象としては考えられない純と、恋人として一歩先に進みたい三浦の間に微妙な空気が生まれる中、ある事態が起き、三浦は純が同性愛者だと知ってしまう。

 18歳、大人でもあり子供でもある微妙な年齢。“普通”に生きることが良しとされる価値観の中、自らの性的指向について悩み続ける純と、エンタメとして消費してきたBLとは異なる当事者の葛藤を目の当たりにして揺れる三浦。ふたりが真摯、かつ必死である分、その痛みはより深く突き刺さる。

 本作で純を演じる金子大地を観た時、それが2018年のドラマ『おっさんずラブ』(テレビ朝日系)のマロと同じ俳優だとは当初気づかなかった。髪型や服装が違ったせいもあるが、なにより醸し出す空気感がマロの時とはまったく異なっていたからだ。マロのちょっとトボけた明るさは消え、そこにいたのは必死でクラスメイトに溶け込もうとしながら、それができずに孤独にもがく18歳の高校生だった。

 三浦と男女の関係を結ぶことで、違う自分になれるかもしれないとイメージトレーニングを重ねる純。母が買ってきた中華まんを女性の胸に見立ててひとり練習(?)するシーンは、非常にリアルでありながら可笑しさと哀しさ、痛みのすべてが混在していた。切ない。

 三浦紗枝を演じる藤野涼子。宮部みゆき原作の映画『ソロモンの偽証』で主演デビューし、NHK連続テレビ小説『ひよっこ』などでもその存在感を発揮してきた新進女優である。『腐女子~』の三浦もそうだが、『ソロモンの偽証』藤野涼子役や『ひよっこ』兼平豊子役など“真面目で正しい、だがウザい”キャラクターを演じさせたら若手の中では一番だと思う。ドラマの後半、全校生徒の前で演説するシーンは彼女以外に成立させられない。

 このドラマで描かれるのはパステルカラーの青春ではなく、どこかくすんだ青味の強い世界である。残酷で繊細でエネルギーを持て余し、未来の自分が想像できない高校生たち。純の幼馴染、亮平を演じる小越勇輝がとてもいい。じつは三浦に惹かれながら、ふたりのことを応援してきた亮平は「純がいなくなったら誰の股間を揉めばいいんだよ」と大阪に発つ純にむかって笑う。純の性的指向を知っても子供のころと変わらない笑顔で普段と同じ軽口をたたく彼は天使だ。

 地上波のドラマでLGBTQの人々が描かれる際、これまで多かったのがいわゆるおネェキャラとして扱われるパターンである。見た目もデフォルメされることがほとんどで、どちらかというと笑いの部分を担って登場することも多い。

 そんなありきたりで薄っぺらいパターンを『腐女子、うっかりゲイに告(コク)る。』は真っ向からブチ壊した。家族と同性の恋人の両方を持つことを「僕はコウモリだから」と哀しい笑顔で語る誠、PC上で純とやり取りをし、不意に自らの命を絶ったファーレンハイト(声:小野賢章)、そして純。3人それぞれの葛藤が静かに、またリアルに紡がれ、それに三浦をはじめとする周囲の人たちが呼応する。

 NHKのよるドラは『腐女子~』に加え、『ゾンビが来たから人生見つめ直した件』や『だから私は推しました』『伝説のお母さん』など、社会的なテーマを織り込んだ脚本をキレっキレの演出で放送しているNHKのチャレンジ×新世代枠だ。現在は新型コロナウイルスの影響で新作のOAが止まってはいるが(9月12日より『彼女が成仏できない理由』放送決定)、これからも観る側の脳と心に何かを強く撃ち込むようなドラマを放送してほしい。(上村由紀子)

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