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現代に蘇った元祖スラッシャー・フィルム 『ハロウィン』は新旧ホラーファンを歓喜させる出来に

リアルサウンド

19/4/18(木) 10:00

 迷走に迷走を重ねていた『ハロウィン』シリーズが、ついに正統路線にカムバック! スラッシャーフィルムの基礎を作った作品にも関わらず、ジェイソン・ボーヒーズのようなカリスマ性やフレディ・クルーガーのようなギャグ路線への変更ができなく、微妙な立ち位置でフランチャイズを増やしていった『ハロウィン』ですが、『ハロウィンII』(1981)以降の出来事を完全になかったことにして再びスラッシャーフィルムの金字塔として返り咲きました。

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 しかも、なかったことにしつつ、『II』以降へのリスペクトは忘れずオマージュがてんこ盛り。ファンからは「勘弁してくれ」と言われているロブ・ゾンビ監督のリメイク版『ハロウィン』からも、その研ぎ澄まされた暴力描写をオマージュしています。ローリー・ストロードとも一応の決着をつけさせていますし、昔ながらのスラッシャーフィルム・クリシェも満載。パターン化されたスラッシャーフィルムやスプラッターフィルムを真っ向から否定するような「一捻りホラー」が多い今の世の中で、ど直球な展開を次から次へと繰り出してくれる『ハロウィン』はとても新しく感じましたよ!

 では、私がべた褒めする『ハロウィン』(2018年)はどんなストーリーなのか、ざっと紹介していきましょう。

 舞台はオリジナル『ハロウィン』の40年後。ルーミス医師に撃退されるも姿をくらましたマイケル・マイヤーズでしたが、何らかの方法で捉えられ施設で暮らしています。40年もの間沈黙を貫いてきたマイケルは、別の収容所に移送されることになりました。一方、前作の被害者でありファイナル・ガールだったローリー・ストロードは、再びマイケル・マイヤーズと対決する日が来ると信じて綿密に準備を進めてきました。そして、マイケルが移送途中で脱走したことで二人の最終決戦が幕をあけることとなったのです。

■スラッシャーフィルムとしてのあるべき姿がここに
 スラッシャーフィルムには、一定のルールが存在します。

1)サイコパス・キラーがナイフを使ってグループを殺しまくる
2)ファイナル・ガールが最後にキラーと対峙
3)キラーの方が人気が出る

 また、被害者になりやすい特徴やクリシェも存在します。

1)セックスしていると殺される
2)誰かの所有物を触ったりしていると殺される
3)別行動すると殺される

 このルールは1978年に公開したオリジナル『ハロウィン』が作ったと言われています。スラッシャーフィルムは、こういったルールやクリシェを理解した上でツッコミを入れたり、フラグが回収されていくのを楽しむものです。そして本作は、ツッコミに関してもフラグに関しても満足度高しだったんです。

●ツッコミどころ1)高齢キラー
 本作は1978年の『ハロウィン』の直接的な続編で40年後を描いているので、マイケル・マイヤーズは61歳。定年退職してもおかしくない年齢なのに、マイケルったら姿勢はいいわ、筋肉の衰えはないわ、びっくりするほど短絡的で暴力的だわ、と規格外高齢者なんです。パワー系キラーのマイケル・マイヤーズは、素手やナイフで人々を血祭りにあげるのですが、どのシーンも「これで61」「これが61」「ここまでして61!」と年齢へのツッコミが止まりませんでした。

 マイケル・マイヤーズって、他のスラッシャー・アイドルと違って「あくまで生身の人間」という設定があるからか、パッとしなかったんですよね。しかし、反対にいえば、他のモンスターと違って「年を重ねられるキラー」ということになります。今回はその「年」がいい効果を発揮しました。製作のジェイソン・ブラムはオリジナルの『ハロウィン』の大ファンというだけあって、マイケル・マイヤーズを魅力的に見せる術を理解しています。本当、あんな61歳、ツッコミを入れずに見ていられませんよ。

●ツッコミどころ2)拗らせたローリー
 本作には、オリジナルキャストのジェイミー・リー・カーティスが再びローリー・ストロード役を演じています。ローリー・ストロードといえば、真面目で性に奥手で最後にモンスターと対峙するファイナル・ガールの代名詞。しかし、40年の時を経てアラ還になったローリーは、来るべきマイケルとの最終決着に向けて、家を改造し、銃の訓練をし、娘にもサバイバル技術を叩き込む戦う女になっていました。ところが周囲からは常軌を逸した行動にみられ、娘は保護されてしまいます。誰にも理解されることなく、マイケルの影に怯えて暮らすローリーは、いつしかマイケルの中に自分の存在意義を見出すようになってしまいました。

 そのため、来るべき日のために備えているといいつつ、的を射ていないのです。例えば、彼女がマイケルを家に誘い込んで殺そうとしているのであれば、死角が多い広い家なんてもってのほか。また、隠れ場となるクローゼットもドアは取っ払って見通しをよくしておくべきです。彼女は射撃訓練用に顔が白いマネキンを使っていましたが、マイケルが家にやってくることを考えれば外見がそっくりな人形を庭に置いておくなんて言語道断。前作であんな恐怖体験をしたというのに、それが全く活かされていなくて、もうどこからツッコんでいいのやら……。

 自らフラグをたてまくるローリーの行動を見ていると、マイケルを殺したいというのは口ばかりで、本当は40年前の出来事を再現して欲しい、なんなら『トムとジェリー』並みの関係になることを望んでいるのではないかとすら思えてくるのです。

●ツッコミどころ3)コッテコテな犠牲者の方々
 今回、マイケルとローリーのシャレにならないじゃれ合いを彩ってくれる犠牲者の方も、お約束通りのスラッシャーあるあるで楽しませてくれます。他人の家で一戦交える、他人の持ち物を勝手に触る、殺人者の能力を軽んじて挑発してみる、といった殺人フラグをたてまくり。最近は、予想外の展開を楽しむホラーばかりだったので、この時代にこんなド直球クリシェにツッコミを入れられるなんてと、感無量でした。

■一周回って目新しいゴア暴力シーン
 近年は『ソウ』シリーズや『ファイナル・デスティネーション』シリーズのように、いかにユニークな殺し方ができるかを競うような作品がもてはやされていて、『13日の金曜日』のジェイソン坊やや『悪魔のいけにえ』のレザーフェイスといったパワー系スラッシャーは新生ホラーファンの中で木偶の坊(でくのぼう)扱いされることがあります(確かにそう感じるのも否定できません)。

 しかし、今回の『ハロウィン』では、パワー系だからこその勢いのあるデスに圧倒されること間違いなし。特にジャーナリストのトイレ・デスと、マイケルマニアのザクロ・デスは一見の価値あり!(このキーワードが気になった人は劇場へGO!)。ザクロ・デスに至っては、デヴィッド・クローネンバーグ監督の人体破壊美学すら感じさせましたね。ここ最近こんなに単純で大胆で本能に忠実でパワー任せなキル・シーンを見たことがなかったので新鮮味がありました。

■シリーズへのオマージュとローリーの変化
 先にも触れた通り、本作はオリジナルの続編でありながら『II』以降のシリーズへのオマージュがたくさん登場します。ネタバレになってしまうので詳しく書けませんが、シリーズの中でも「良し」なアイコニック・シーンや要素が登場します。

 ただ、『ハロウィン』(78年)のオマージュはユニークな方法で使われています。というのも、どうやらローリーはマイケルの中に自分の存在意義を見出しているうちに、彼女自身もマイケルのようなモンスターになってしまっていたのではないか、と解釈できるオマージュが出てくるのです。その部分はご自分の目で確かめてほしいので、本作を鑑賞する前に、是非オリジナルをチェックすることをオススメします。

■中川真知子
ライター。1981年生まれ。サンタモニカカレッジ映画学部卒業。好きなジャンルはホラー映画。尊敬する人はアーノルド・シュワルツェネッガー。GIZMODO JAPANで主に映画インタビューを担当。

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