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『東京タラレバ娘2020』に漂うリアリティ 3年ぶりに描かれた“傷つき切ること”の大切さ

リアルサウンド

20/10/8(木) 6:00

 3年ぶりに『東京タラレバ娘』(日本テレビ系)がスペシャルドラマとして帰ってきた。東村アキコ原作で、そもそも「2020年東京オリンピックをこのまま独身で迎えるのはまずくないか?」との不安に駆られた30歳の主人公たちが恋に仕事に悪戦苦闘する日々が描かれた前作。そこから3年が経ち、東京オリンピック開催は延期となったものの、倫子(吉高由里子)、香(榮倉奈々)、小雪(大島優子)は、33歳になっていた。

 バンドマンの元カレ・涼ちゃん(平岡祐太)ではなく、高校教師のゆう(渡辺大知)とスピード結婚した香。同じく、倫子は年下金髪モデルのKEY(坂口健太郎)が俳優業のために渡米した後、図書館司書の朝倉(松下洸平)という新しい彼氏が出来ていた。

 この3年で、パートナーとして選ぶ人もバンドマンやモデルから、公務員や司書と随分地に足がついた堅実な職業になり、華やかさはないものの随分リアリティのある存在に変化した。「結婚相手が一番好きな相手だったかと言えば……でも焦って結婚した訳でもないし不思議だ」という香の心の呟き、「楽しさと苦しさ、幸せと切なさが背中合わせなのが恋と思っていたけれど、少しずつじわじわ好きになっていく恋もある」という倫子の心の声に、この3年間での彼女らの心境の変化が窺える。

 しかし、現実とはこうも世知辛いものなのか。多くを望んだ訳でも高望みしたつもりもないのに、ようやく手近なところにあった幸せに気づけたと思ったのも束の間、結婚式当日に相手に逃げられたり、結婚した男がかなりのマザコンだったりするのだ。

 それにしても結婚式当日に逃げ出されるというまさかすぎる展開だったが、それを爽やかで実直な松下洸平が演じるがゆえ、視聴者もあり得る流れだと受け入れ、タラレバ娘3人も朝倉のせいではなく、問題は朝倉のあざとい元カノにあると言うのだった。

 「朝倉さんのことを好きにならなければ」。この言葉が思わず口をついて出てしまうのは、もしかすると倫子が本気で欲しかったものではなく、彼にとことん向き合い切れていなかった証拠だと言えるかもしれない。

 また、香の夫役に渡辺大知を配置したのもやけにリアリティがある。決して悪い人ではないもののその無関心さや鈍感さによる“気付いてもらえなさ”が積もった先に、“2人なのに1人”という他人にはわかってもらえない得も言われぬ孤独感が待ち受けているのだろう。

 “幸せじゃないかも”、“こんなつもりじゃなかった”とそれらしき理由や要因を並べるのは簡単で、それを外部環境や他人のせいにするのはさらに誰でもできることだ。ともすれば無駄に過ごしてしまったと思える時間を取り返したくなり、きちんと傷つき切らずに見て見ぬふりをして、なけなしのプライドを守ろうとする。

 そんな中、倫子の元カレの早坂(鈴木亮平)は、倫子との失恋があったからこそ今度こそちゃんと向き合おうと思い、今の妻と出会えて結ばれた、だからこそ「倫子さんと出会えて良かった」と、ある意味“傷つき切ること”の大切さを教えてくれる。

 私たちは、最後まで自分とは別れられないし離れられない。過去の失敗もみっともない自分も嫌いな部分もしっかりと抱きしめて、自分で自分のご機嫌をとりながら、人生の舵を誰かに委ね切ってしまうことなく、地続きの人生をたくましく自分の足で歩み進めていくしかない。

 選択肢が増えたことは贅沢なことだが、どんどん枝分かれしていく「女の人生」にとって、どうしたって“選ばなかった側の幸せ”が頭を過ぎることは避けられない。そんな時に自分を救ってくれて何とか納得させてくれるのは“足掻いて傷つき切って何とか出した結論”という事実に他ならないから。そんな時にやっぱり失敗もトラブルも一緒に笑い飛ばしてくれる女友達の存在は時にありがた迷惑にもなり得るが、だけれどもなくてはならない必須の存在だと言えるだろう。

■楳田 佳香
元出版社勤務。現在都内OL時々ライター業。三度の飯より映画・ドラマが好きで劇場鑑賞映画本数は年間約100本。Twitter

■放送情報
スペシャルドラマ『東京タラレバ娘2020』
日本テレビ系にて、10月7日(水)21:00〜22:54放送
出演:吉高由里子、榮倉奈々、大島優子、坂口健太郎、平岡祐太、石川恋、加藤諒、あ〜ちゃん(Perfume)、松下洸平、渡辺大知、金田明夫、田中圭、鈴木亮平
原作:東村アキコ『東京タラレバ娘』(講談社『Kiss』連載)
脚本:松田裕子
音楽:菅野祐悟
主題歌:「TOKYO GIRL」Perfume(ユニバーサルJ/Perfume Records)
チーフプロデューサー:加藤正俊
プロデューサー:鈴木香織(AXON)
演出:鈴木勇馬
制作協力:AXON
製作著作:日本テレビ
(c)日本テレビ

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