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マーティ・フリードマン×萩原健太が語る、クイーン後期の変貌と80’s音楽シーンの潮流

リアルサウンド

19/9/28(土) 16:00

 タワーレコードが開催するセミナー「タワーアカデミー」の人気企画で、QUEENを題材にした『ボヘミアン・ラプソディ』のPart.3とPart.4が、9月7日に東京・音楽の友ホールで開催された。ディスクジョッキーの矢口清治が進行を務め、前回のPart2にも出演している音楽評論家の萩原健太が解説、Part3のゲストにはギタリストのマーティ・フリードマンが登壇。そのPart.3では、1978年にリリースされたアルバム『Jazz』から1984年の『The Works』までの時代をテーマに、総額数百万円のオーディオで代表的な楽曲を聴きながら、時代の空気感や楽曲の魅力を伝えていくというもの。マーティの歯に衣着せぬストレートなコメントに、来場者は「分かる分かる」とうなずきながら、トークと共に珠玉のナンバーを楽しんだ。(関連記事:ROLLY×萩原健太が語る、世界を魅了し続けるクイーンの偉業「違和感のようなものが彼らの本質」

洗練とワイルドがせめぎ合った1980年代のQueen

 1980年前後の時代について萩原は、「ディスコが流行りパンクが生まれ、TOTOなどのヨットロックが人気を博した。ロックがビッグビジネスになり、ロックに対する要望もどんどん増えていった」と、ロックシーンに転機が訪れたことを解説した。例えばMVの存在が人気を左右する重要な要素になったこともその一つで、それについてマーティは「MVがロックを完全に殺した。ロックが水割りになった」と、笑いを交えながらも、「予算、イメージ、偉い人の意見が何より重視された。ハードロック好きの連中は、僕も含めてみんながっかりした」と、当時のシーンに辛辣だ。萩原は当時MTVの日本版番組でMCを務めており、「ファンクバンド・ZAPPのロジャー(・トラウトマン)がゲスト出演してくれたことがあった。アメリカでは出してもらえなくて、日本で出られたことが嬉しいとすごく喜んでいた」というロジャーのエピソードを引き合いに出し、アメリカの音楽シーンで当時起きていた変化を説明した。

 また、デジタルレコーディングが導入されるようになったことも、1980年前後の大きな変化の一つだと萩原は続け、それは結果的にQueenの魅力を失わせることに繋がったと指摘した。そんなレコーディング技術の変化にまだ抗っていると感じるさせるのが、1978年に発売されたQueenのアルバム『Jazz』だという。

Queen – Don’t Stop Me Now (Official Video)

「『ボヘミアン・ラプソディ』でも描かれていたが、70年代のQueenは、メンバー3人が一つのマイクに向かって歌い、それを何重にも重ねていた。80年代はそれが1人でできてしまうようになり、個人でレコーディングするようになっていったことで、バンドとしての魅力だった“一体感”が薄れていくことになる。しかし、それでもまだ『Jazz』の頃は、“みんなでやってる感”があった」(萩原)

 同作からは、フレディのエモーショナルなボーカルと巧みなコーラスワークが聴きどころの「Don’t Stop Me Now」を、ゴージャスなオーディオセットで流し、「6度コードの7th。CARPENTERSが使いそうなコーラスがいいね!」と萩原。来場者も目を閉じて聴き入った。

「地獄へ道づれ」は、新しい時代を生み出した

 続く1980年の『The Game』は、マーティが好きな作品だとのこと。「僕の思い出がいっぱい詰まっている作品。ラジオでも毎日のように流れていた。妹も好きな作品だった」と、それが当時の自分の人生のBGMだったと話した。

 萩原によれば当時は2つの流れがあり、一つはディスコが流行ったことによってどんどん洗練されていった流れ。もう一つは、パンクが流行ったことで、ワイルドに立ち返っていった流れ。「それらをQueenがどう突き詰め考えていったかが、この『The Game』というアルバムに表れている」と解説した。

Queen – Another One Bites the Dust (Official Video)

 同作の代表的なナンバー「Another One Bites the Dust(地獄へ道づれ)」は、ディスコのリズムを大胆に取り入れた。萩原は、メンバーからは賛否があったが、マイケル・ジャクソンの薦めもあってシングルカットされることになったという経緯に触れながら、「結果として新しい時代を生み出していく人に影響を与えた曲になった」と、その後の音楽シーンを決定づけるものだったと話した。

Queen – Crazy Little Thing Called Love (Official Video)

 また「Crazy Little Thing Called Love(愛という名の欲望)」のロカビリーを取り入れたサウンドについては、「パンクのバック・トゥ・ワイルドの精神をQueen流のやり方で表現したもの」とし、「この曲のポップさには、日本の多くのバンドが影響を受けました」と萩原。マーティは、エルビス・プレスリーなど1950年代の音楽が好きだったとのことで、しかし当時は周りからはなかなか理解されなかったと話し、「でもこの曲がヒットして、ざまあみろ! と思った」と、当時を振り返る。「60年代のプレスリーの声が優しくなった感じと、50年代のコーラスが合わさっている曲」(マーティ)。「ゴスペルのコーラスには、シャレ心を感じる」(萩原)

 また「Play the Game」は、マーティもカバーしたことがあるとのこと。「Queenが冒険していた時代と、日和ってしまった時代の両方の感覚が上手く混じっている」(マーティ)。

マーティ・フリードマンのお薦めは「Somebody To Love」

 イベントでは、事前に集めたマーティへの質問にも答えた。「好きなギタリストは?」という質問には、まずはBostonのトム・ショルツを挙げ、「A Man I’ll Never Be(遥かなる想い)」は、鳥が鳴いているような美しいメロディのギターが印象的とのこと。2番目には、The Carsのエリオット・イーストン。「Touch and Go」を挙げ、「ギターソロは変態のメロディ(笑)。ブルージーだけどいろんな解釈のできる、その曲にとって意味のあるメロディだ」と評した。そして最後にパット・ベネターの「Wuthering Heights(嵐が丘)」のギターを弾くニール・ジェラルドを挙げる。「ギターソロはケツが大事。曲につながるケツがある」と、けだし名言。

 このイベントの根底のテーマである映画『ボヘミアン・ラプソディ』については、「ギターの音に感動した」とマーティは話す。「映画館でぜひ聴いてほしい。これ以上の良い音はない。“これは天国の音です”」。また映画が始まる時の、20世紀FOXのロゴが表示される時の音も、Queenのブライアン・メイがそのためにわざわざ弾いているとのこと。「歪んだギターの音は、美しいとウザイの絶妙なバランスを保っている。こんなに音に感動した映画はこれが初めてだった」と語った。

Queen – Under Pressure (Official Video)

 また「カバーしてがっかりした曲」として、1982年のQueenのアルバム『Hot Space』に収録された「Under Pressure」を挙げた。デヴィッド・ボウイとQueenによる豪華なコラボによる楽曲だが、「まるでウナギとアイスクリーム。両方好きだけど、合わせると美味しくなくなる」と、絶妙な例えを繰り出して会場を笑わせた。

Queen – Somebody To Love (Official Video)

 そんなマーティのおすすめのQueenナンバーを問われると、ブライアン・メイのプレイを例に挙げながら、「Somebody To Love(愛にすべてを)」と答えた。「彼の演奏はギターの元祖と言える。例えば『Killer Queen』もそう。メロディアスでチューニングも良いし、そういうギターを弾く人はそれ以前にいなかった。ギターソロにおけるひいおじいちゃんだね。自分でもそう弾きたいのに弾けない、だからこそ憧れます」(マーティ)。

 来年1月には、Queenのオリジナルメンバーでギタリストのブライアン・メイとドラマーのロジャー・テイラーが、ボーカルのアダム・ランバートを加えて来日公演を開催する予定。ますます盛り上がりを見せるQueen熱に寄せて、次回も開かれることを期待したい。

(取材・文=榑林史章/写真=stereo)

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