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年末企画番外編:ナマニクの「2019年 年間ベストホラー映画TOP10」 昨年に引き続き豊作の1年に

リアルサウンド

19/12/31(火) 12:00

 リアルサウンド映画部のレギュラー執筆陣が、年末まで日替わりで発表する2019年の年間ベスト企画。映画、国内ドラマ、海外ドラマ、アニメの4つのカテゴリーに加え、今年輝いた俳優たちも紹介。今回は、番外編として2019年に日本で上映された(Netflixオリジナル映画含む)洋邦のホラー作品から、ZINE『残酷ホラー映画批評誌 Filthy』発行人である、ホラー映画に造詣深いライター・ナマニクが独自の観点で10本をセレクト。(編集部)

1.『CLIMAX クライマックス』
2.『ミッドサマー』(第32回東京国際映画祭にて上映)
3.『ザ・マミー』
4.『ゴーストランドの惨劇』
5.『ザ・バニシング-消失-』
6.『ハイ・ライフ』
7.『セーラ 少女のめざめ』
8.『ハッピー・デス・デイ』、『ハッピー・デス・デイ 2U』
9.『ハウス・ジャック・ビルト』
10.『IT/イット THE END “それ”が見えたら、終わり。』

 エンタメからマニアックなインディペンデント、定番のスプラッター、異国ダークファンタジー、リブートにリバイバルまで、昨年に引き続き今年もホラーは豊作の年だった。ベスト10を選べといわれても困るぐらいだ。

 そこで今回は、見ていて楽しい映画を極力排除し、本来、ホラー映画が持つ「暗くて、怖くて、厭な」タイトルを中心に選出を行った。少しヒネたように感じられるかもしれないが、読者皆様のホラーライフ充実の手助けとなれれば嬉しい。

10.『IT/イット THE END “それ”が見えたら、終わり。』

『IT/イット THE END “それ”が見えたら、終わり。』(c)2019 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

 本年の娯楽ホラーの代表的作品。169分の長尺にも拘わらず、全く退屈させない質実剛健な作りは見事。ペニーワイズの強烈なビジュアルは総登場時間が10分程度であるにも拘わらず、全ての観客にピエロ恐怖症のトラウマを植え付けた。

 御存知の通り、スティーブン・キング原作の『IT』は元々2部構成。前作が幼少編、本作が大人編に当たる。最初、筆者は本作の出来に期待していなかった。というのは、中学生のときに観たTV映画版、それと同時に読んだ原作の”大人編”に全く面白味が感じられなかったからだ。ところが自分が歳を取った今なら、本作から“背負うモノがある”苦しみ、悲しさをヒシヒシと感じることができる。もはやホラーを通り越して、大河ドラマである。面白い面白くないというよりも「大人にならないと分からないってこと、ホントにあるんだなぁ」と妙に納得させられてしまった。悔しい、悔しいぞ!

9.『ハウス・ジャック・ビルト』

『ハウス・ジャック・ビルト』(c)2018 ZENTROPA ENTERTAINMENTS31,ZENTROPA SWEDEN,SLOT MACHINE,ZENTROPA FRANCE,ZENTROPA KOLN

 精密にやるときもあれば運任せや雑になるところもあるし、思っていたものと違うものができることがある……。家を建てることと、映画を創ることと殺人を同じアートとして扱い、芸術の見方を定義している。無用に暴力性を高めて“気が狂っている”ように見えるが、絵画や古典小説はもちろん、犯罪史などあらゆる知識をトコトン詰め込んだ、悪趣味なホラー哲学。

8.『ハッピー・デス・デイ』、『ハッピー・デス・デイ 2U』

『ハッピー・デス・デイ 2U』(c)Universal Pictures

 “ただ殺すだけ”のスラッシャー映画では満足できなくなったホラージャンキーの清涼剤として話題になった作品。1作目の『ハッピー・デス・デイ』は2017年製作の古い映画だが、本国で今年続編にあたる『ハッピー・デス・デイ 2U』が製作され、バーターでようやく日本公開に漕ぎ着けた。

 誕生日の夜に殺されては、朝に巻き戻されてしまうタイムループに陥ってしまった主人公が“いかに殺されないか?”を試行錯誤しながらループ脱出を試みるストーリーは、ホラーファン以外にも多くの人々に受け入れられ、期間限定上映であったにも拘らず期間延長となった。「ホラー映画はちょっと苦手で……」という方に是非観てもらいたい連作。

7.『セーラ 少女のめざめ』

『セーラ 少女のめざめ』(c)2014 ASTRAEUS PICTURES,LLC ALL RIGHTS RESERVED

 ようやく日本公開に漕ぎ着けた2014年製作のインディペンデント映画。当時は『スリーデイズ・ボディ 彼女がゾンビになるまでの3日間』をはじめ、何故か“女性が腐る”というプロットが大流行しており、本作も“女性が腐る”映画群の1作。だが、並み居る同プロットの作品の中ではトップクラスのクオリティを持つ。

 売れない女優が、カルト教団に取り込まれ、悪魔の器になる過程で体が腐っていく。とにかく腐りゆく体の描写が強烈だが、実は緻密に作り込まれた作品だ。タイトル表示はモチロンのこと、音楽や効果音に注意していると様々なイースターエッグが隠されているに気が付くだろう。ケヴィン・コルシュとデニス・ウィドマイヤーというコンビ監督は本作で注目され、リブート版『ペット・セメタリー』の監督に抜擢。来年、日本公開予定だ。

6.『ハイ・ライフ』

 あまりにも断片的な情報のみが提示されるため、難解かつ退屈な作品と言及されることが多い作品。しかし、突き詰めれば宇宙船という究極の刑務所で、長期間暮らすことを強制された受刑者が気が狂うだけの話だ。「これはホラーなのか?」と問われたら、私は「ホラー」だと答える。血と乳と愛液と精液、糞尿、あらゆる分泌物を偏執的に描く様は、まさにホラーだ。

 ホラー映画はエクストリームかつ即物的な残酷描写ばかりに着目されることが多いが、本作はそのカウンターだといえる。宇宙空間を“落下”する死体、乗組員を骨抜きにする自慰マシン、ブラックホール……異様な世界観。そしてジュリエット・ビノシュとミア・ゴスの目。あれはまさに狂人の目だ。

5.『ザ・バニシング-消失- 』

『ザ・バニシング‐消失‐』(c)1988 Published by Productionfund for Dutch Films

 “人が消える”という事象を“消された側”からの視点と“消した側”からの視点で描く。

 “消した側”(誘拐犯)は驚くほど論理的な行動を取り、“消された側”は、何故人が消えたか? という“解”を求め続けるあまりに逸脱した行動を取る。本作は両者の差を冷徹に描いている。もちろん前者の行動は常軌を逸しているのだが、妙に納得させられてしまうのが恐ろしい。そして後者の喪失感に苛まれる苦しみを取り除く、至福かつあまりにも残酷な結末は、観客の心までも消し去る。

 1993年の作品だが、当時はビデオスルー。HDリマスターに合わせて本年、晴れて劇場公開となった。

4.『ゴーストランドの惨劇』

『ゴーストランドの惨劇』(c)2017 – 5656 FILMS -INCIDENT PRODUCTIONS -MARS FILMS -LOGICAL PICTURES

 『トールマン』(2012年)以降、沈黙していたパスカル・ロジェの6年ぶりの監督作。『マーターズ』(2008年)から続く、女性への過剰な暴力描写は更に加速、変態性を爆発させている(ちなみに撮影中、主演女優の顔面に怪我を負わせてしまい裁判沙汰になっている)。さらに今回は現実と妄想、時間軸を巧みに交差させる映像トリックを駆使。二転三転するストーリーは、何度も観客を絶望のどん底に突き落とす。まさに悪夢を体現した作品。

3.『ザ・マミー』

 麻薬カルテルの抗争に巻き込まれた子供達の物語。女、子供に容赦なく死が訪れ、この世が常に冷たく無情なものとして描かれる。あまりにも悲惨で悲しくなる。この情け無用の物語はギレルモ・デル・トロの初期作品『デビルズ・バックボーン』を彷彿とさせ、実世界の辛い現実を直視せざるを得ない。超自然的な描写はあれど、もはやこれはドキュメンタリーである。

 やたらリアリティがあるのは、オーディションで選んだド素人の子役達に脚本を一切読ませず撮影に臨ませるという挑戦的な手法をとっているからだ。

2.『ミッドサマー』

『ミッドサマー』(c)2019 A24 FILMS LLC. All Rights Reserved.

 2020年2月公開の作品だが、本年めでたく復活した東京ファンタで上映済みであるためランクイン。本作は言わば“明るい『ヘレディタリー/継承』”だ。スクリーンは明るいのに、主人公が置かれたシチュエーションそのものが、辛くて怖くて厭という純粋なホラー。もはや残酷描写などオマケに過ぎない。生きるのが辛いなら、みんな捨ててしまえば良い、死んでしまえば良い。そんなことを本気で思わせる作品は多くはない。ドラッギーな映像も必見。

1.『CLIMAX クライマックス』

『CLIMAX クライマックス』(c)2018 RECTANGLE PRODUCTIONS-WILD BUNCH-LES CINEMAS DE LA ZONE-ESKWAD-KNM-ARTE FRANCE CINEMA-ARTEMIS PRODUCTIONS

 冬の夜。リハーサルの打ち上げパーティで盛り上がるダンサーたち。ところが酒にLSDが混入していたため、彼らは知らぬ間に幻覚地獄に陥る。誰がLSDを盛ったのか? というミステリーはあるものの、描きたいのはLSDの効果よって本性向きだしで舞い狂う人間の生き地獄。終わらない痴話喧嘩、肥大化する被害妄想、押さえられない怒りと高揚感、性欲、鬱、憎しみ、嫉妬。心も体もカメラも字幕も全てがグルグルと回転し続ける様に呆然とさせられる。

 以上、10作品だ。今回選出していて、ホラー映画は日本で公開されるまでやたらと時差があることに改めて気づかされる。日本劇場公開作品として限定してしまうと、どうしてもホラー映画の最新トレンドには乗れないのだ。ドラッグが吸血鬼を産み出す『Bliss』、新婚初夜に死のかくれんぼ『Ready or Not』、A・シュワルツェネッガーの息子が多重人格を演じる『Daniel isn’t Real』等々、海外サイトで2019年ベストに選出されているホラー映画には傑作が沢山ある。来年は時差を感じさせないベスト選出が行えることを祈っている。

■ナマニク
ライター。ZINE『残酷ホラー映画批評誌 Filthy』発行人。『映画秘宝』にて「ナマニクの残酷未公開 Horror Anthology」連載中。単著に『映画と残酷』(洋泉社)がある。2011年シッチェス映画祭に出展された某スペイン映画にヒッソリと出演している。

■公開情報
『CLIMAX クライマックス』
公開中
監督・脚本:ギャスパー・ノエ
出演:ソフィア・ブテラ、ロマン・ギレルミク、スエリア・ヤクーブ、キディ・スマイル
配給:キノフィルムズ/木下グループ 
2018/フランス、ベルギー/スコープサイズ/97分/カラー/フランス語・英語/DCP/5.1ch/日本語字幕:宮坂愛/原題:CLIMAX/R-18
(c)2018 RECTANGLE PRODUCTIONS-WILD BUNCH-LES CINEMAS DE LA ZONE-ESKWAD-KNM-ARTE FRANCE CINEMA-ARTEMIS PRODUCTIONS
公式サイト:http://climax-movie.jp/

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