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立川直樹のエンタテインメント探偵

ドキュメンタリーが面白い! 河村隆一のコンサート、勅使川原三郎のダンス公演も“本物”という言葉を足して語りたい素晴しさ

毎月連載

第14回

河村隆一

 水先案内にも書いたが、今年の秋口から来年にかけて公開される映画を見ると、本当にドキュメンタリー映画がおもしろいというか、充実したラインナップになっている。音楽ものから料理人のものまで凄い数になる。

 そして、それはテレビについても言える。12月8日からさかのぼっていくと、NHK BS1の『映像の世紀プレミアム』の第2回『戦争 科学者たちの罪と勇気』はノーベルの「この世に悪用されないものはない。科学技術は常に進歩ととなり合わせだ」というノーベルの言葉に始まり、エジソンからアインシュタインという登場人物たちと、電気を使った様々なアトラクションが売りの巨大遊園地の全盛期の姿をはじめとする見たこともない映像が加古隆の素晴しい音楽にのって紹介されていく1時間半は圧巻だったし、その2日前には『映像の世紀プレミアム』にも登場していたヒトラーが“レーベンスボルン計画”という名のもとに純血の子供たちを大量生産するプロジェクトを進めていたことを追いかけたフランス制作の『ヒトラーの子どもたち』という、とんでもないものを見ることができた。

 その3日前にはNHK BS3の『アナザーストーリーズ』(進行役が沢尻エリカから松嶋菜々子に替わっていた。沢尻エリカの方がトーンが合っていたのに残念)で、登場する証言者の発言とヴィジュアルが強烈だった『ホワイトハウスの陰謀~ウォーターゲート事件 46年目の真実~』。その生々しさが絵空事のような映画には絶対にないインパクトとリアルさがあってぐいぐいと引き込まれていったが、その生々しさということでは11月30日にキリスト品川教会で観た河村隆一の『No Mic,One Speaker Concert 2018 #003』も強力だった。

 タイトル通り、全くマイクを使わずにギターとピアノだけをバックに讃美歌の『久しく待ちにし』からアンコールの『マイ・ウェイ』まで1時間半見事に歌いきった歌の底力。何はともあれ“うまい”ということはジャンルに限らず、僕のエンタテインメント全般に対する価値判断の基準であり、それは12月4日に東京芸術劇場で観た勅使川原三郎と佐東利穂子、マリアンヌ・プスールのコラボレーションに息をのまされたダンス公演『月に憑かれたピエロ』や恵比寿のギャラリー“LIBRAIRIE6”(小さいけれどいいものをいつもやっている)で観た細江英公が60年代から70年代にかけて撮影した芸術家たち(稲垣足穂、金子國義、唐十郎、澁澤龍彦、土方巽、三島由紀夫、横尾忠則etc)のポートレートが並ぶ『芸術家たちの肖像』展も、そこに“本物”という言葉を足して語りたいものだったのである。

 でも、うれしいと思うのは、勅使川原三郎の公演もほぼ満席だったし、泡やオイルも“彫刻化”してきた彫刻家の名和晃平の新作『Biomatrix』が展示された谷中のSCAI THE BATHHOUSEにはいつもよりもずっと多い人がつめかけていた。

『月に憑かれたピエロ』photo by Sakae Oguma
『ロスト・イン・ダンス-抒情組曲-』photo by Sakae Oguma

 そして、床のプールに不規則に気泡が現れる不思議な魅力を持った作品は、絶対に自分の目で観なければわからない。東京オリンピックに向けて大工事が進み、街の様相がどんどん変わっていくTOKYOでは、渋谷駅前の再開発に伴い、来年取り壊される旧“エピキュラス”で12月2日まで『ARIGATO SAKURAGAOKA』なるアートイベントが開かれていたり、その未来に向けてのどこか強引過ぎる感じもする都市開発とは真逆ともいえる『アラン・ロブ=グリエ レトロスペクティブ』のようなイベントが催されているので、“家でぼんやり”などということは死ぬまで言えないなと思うが、ジャン=ルイ・トランティニャン主演のロブ=グリエの1966年の映画『ヨーロッパ横断特急』を観に行った時は同じ種族の人たちと出会ったし、12月9日にTBS赤坂ACTシアターで観た『赤坂をどり』の会場にいた人たちは誰もロブ=グリエのことなんて知らないというのがまたおもしろい。

 ロブ=グリエはあと5本どんなに忙しくても観に行くつもりだし(12月28日までイメージフォーラムで上映中)、12月24日まで東京オペラシティアートギャラリーで開催中の田根剛の『未来の記憶』展も絶対に見逃すことはできない。本当に時間を売っていたら買いたいと思っている。

『ヨーロッパ横断特急』ジャン=ルイ・トランティニャン (C)1966 IMEC

作品紹介

映像の世紀プレミアム 第2集『戦争 科学者たちの罪と勇気』

放送日:2016年8月13日
    2018年12月9日(再放送)
NHK BS1(初回はNHK BSプレミアムにて放送)

BS世界のドキュメンタリー『ヒトラーの子どもたち』

放送日:2018年12月6日
    2018年12月12日(再放送)
NHK BS1

アナザーストーリーズ『ホワイトハウスの陰謀~ウォーターゲート事件46年目の真実』

放送日:2018年11月27日
NHK BSプレミアム

『No Mic,One Speaker Concert at Church Tour 2018 #003』

日程:2018年11月30日
会場:キリスト品川教会 グローリア・チャペル(東京)

芸劇dance 勅使川原三郎『月に憑かれたピエロ』『ロスト・イン・ダンス-抒情組曲-』

日程:2018年12月1日~4日
会場:東京芸術劇場 プレイハウス
ダンス:勅使川原三郎/佐東利穂子
歌:マリアンヌ・プスール
指揮:ハイメ・ウォルフソン
フルート:多久潤一朗/クラリネット:岩瀬龍太/ピアノ:田口真理子/ヴァイオリン:松岡麻衣子、甲斐史子/ヴィオラ:般若佳子/チェロ:山澤慧

『アラン・ロブ=グリエ レトロスペクティブ』

日程:2018年11月23日〜12月28日
会場:シアター・イメージフォーラム

プロフィール

立川直樹(たちかわ・なおき)

1949年、東京都生まれ。プロデューサー、ディレクター。フランスの作家ボリス・ヴィアンに憧れた青年時代を経て、60年代後半からメディアの交流をテーマに音楽、映画、アート、ステージなど幅広いジャンルを手がける。近著に石坂敬一との共著『すべてはスリーコードから始まった』(サンクチュアリ出版刊)、『ザ・ライナーノーツ』(HMV record shop刊)。

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