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平成という時代は今後どう語り継がれていく? 90年代リバイバル作品から読み解く

リアルサウンド

18/9/17(月) 6:00

 今年に入って、90年代を舞台にした映像作品や、当時、連載されていた漫画を映像化した作品が目立つようになってきている。その筆頭が現在公開中の映画『SUNNY 強い気持ち・強い愛』だ。

 本作は2011年に韓国で公開された映画『サニー 永遠の仲間たち』のリメイク。物語は専業主婦の中年女性が、癌で余命わずかの親友のために、現在は交流の途絶えていた学生時代の仲間たちを探し出しそうとする姿を描いたもので、主人公の青春時代である1980年代後半と現在を交差する中で当時ヒットした洋楽が流れるという構成になっている。対して、リメイク版では、舞台が現代の日本となっており、篠原涼子が演じるヒロインの青春時代は1990年代後半となっている。そこで描かれるのは当時、コギャルと呼ばれた女子校生たちの姿であり、劇中でかかるのは当時の日本でヒットしたJ-POPである。

 他にも、連続テレビ小説『半分、青い。』(NHK)、アニメ『ハイスコアガール』、映画『リバーズ・エッジ』、深夜ドラマ『宮本から君へ』(テレビ東京系)といった作品は90年代を舞台にした作品や、90年代に描かれた作品を映像化している。これらの作品に感じるのは90年代をどう終わらせるかという問題意識だ。それは平成という時代の総括と言い換えても過言ではない。

 例えば『リバーズ・エッジ』は94年に刊行された岡崎京子の漫画を映像化したものだ。舞台は漫画と同じ90年代。若者の閉塞感や鬱屈した感情を描いた青春群像劇だが、かなり原作漫画に忠実な作りとなっている。印象に残るのは「4:3」のスタンダードサイズによる画面構成だ。昔のアナログテレビのような画面で、両端は黒く潰れているのだが、もしかしたら、90年代に映画化された作品を観ているのではと、錯覚してしまう。

 一方、『宮本から君へ』は、新井英樹が90年代前半に連載した漫画をドラマ化したもので、文具メーカーの営業マン・宮本浩(池松壮亮)が恋と仕事に情熱を燃やす姿を描いた作品だ。時代はおそらく現代だが、スマートフォンやパソコンといったアイテムを極力画面に映さないことで、原作漫画のイメージを忠実になぞっている。

 一方は高校を舞台にした青春群像劇で、一方は文具メーカーの営業マンを主人公にした会社モノだが、この二作の印象は驚くほど似ている。それは原作漫画に忠実で、できるだけ当時(90年代)の空気を壊さないように作られているということだ。その結果、映像としての完成度は高いのだが、漫画版にあった激しさはなく、妙にお行儀の良いものとなっている。

 これは『SUNNY』も同様である。本作のコギャルたちは、援助交際とドラッグはご法度という健全な集団で、逆にドラッグをやったコギャルは悪役として描かれる。また、韓国映画では学生運動に燃える主人公の兄は、『新世紀エヴァンゲリオン』にハマっているオタクとして描かれている。本来、対応すべきはオウム真理教や、神戸で殺人事件を起こした14歳の少年ではないかと思うのだが、90年代の負の部分は背後に追いやられている。

 余談だが、アニメオタクの兄は揶揄の対象として扱われているが、90年代以降の日本のポップカルチャーの流れを見た時、生き残ったのはコギャルではなくオタクだったと言えよう。ゲームセンターで格闘ゲームばかりしている中学生が主人公の『ハイスコアガール』が明るいのは、ゲームにハマっている彼に未来があるからだ。

 原作に忠実な『リバーズ・エッジ』だが、最後の印象だけは大きく違う。エンディングで流れる小沢健二の「アルペジオ(きっと魔法のトンネルの先)」は、小沢が岡崎京子との個人的な思い出を回顧する歌であると同時に、原作漫画(が発表された90年代)のその後のイメージが歌われており、この曲を配置することで、90年代という暗いトンネルをくぐり抜けたわたし達の物語として『リバーズ・エッジ』を上書きしようとしているように感じた。

 『SUNNY 強い気持ち・強い愛』でも小沢健二の「強い気持ち・強い愛」が象徴的な楽曲として使われるのだが、役割はとても似ている。

 今思うに、小沢健二の楽曲が持つ明るさは90年代後半の空気とはズレたものだった。時代を体現していたのは小室哲哉の楽曲や『新世紀エヴァンゲリオン』であり、そのカウンターとして小沢健二は居たのだと思う。だから、90年代という絶望の果てに、小沢健二を希望として召喚したくなる気持ちはわからないでもない。

 『半分、青い。』における星野源の主題歌「アイデア」も同じ役割を果たしている。本作は71年代まれの女性を主人公にしたドラマで、序盤は80年代末から90年代初頭を懐かしむ懐古的なムードが強かったが、それが後ろ向きに見えなかったのは、主題歌によるところが大きい。

 おそらくみんな、90年代のイメージを健全なモノに上書きしたいのだろう。その気持ちはわからないでもないが、その結果、失われるものがあることを忘れてはならないと、あの時代に思春期を過ごした一人として思う。

■成馬零一
76年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)がある。

■公開情報
『SUNNY 強い気持ち・強い愛』
全国東宝系にて公開中
出演:篠原涼子、広瀬すず、小池栄子、ともさかりえ、渡辺直美、池田エライザ、山本舞香、野田美桜、田辺桃子、富田望生、三浦春馬、リリー・フランキー、板谷由夏
原作:『Sunny』CJ E&M CORPORATION
監督・脚本:大根仁
音楽:小室哲哉
配給:東宝
(c)2018「SUNNY」製作委員会
公式サイト:http://sunny-movie.jp/

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