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太田和彦の 新・シネマ大吟醸

ラピュタ阿佐ヶ谷で観た『ジャズ娘誕生』、新文芸坐の『ジャズ・オン・パレード』、江利チエミの”ジャズ映画”!2本。

毎月連載

第19回

20/1/2(木)

『ジャズ娘誕生』
ラピュタ阿佐ヶ谷
特集「昭和の銀幕に輝くヒロイン[第93弾]江利チエミ」(12/1~2/8)で上映。

1957(昭和32年)日活 77分
監督:春原政久 脚本:松村基生・辻眞先
撮影:姫田真佐久 音楽:村山芳男
美術:木村威夫
出演:江利チエミ/石原裕次郎/青山恭二/小杉勇/殿山泰司/二本柳寛/丹下キヨ子/刈屋ヒデ子/西田佐知子/東郷たまみ

太田ひとこと:楽団ユニバーサルの団員へ公演延期を言う丸の内劇場支配人に「その方がいいですよ」と返事する劇場関係者風が美術・木村威夫の本人出演でびっくり。(私は木村さんと面識あり)

大島紬に首手拭い、伊豆で椿油を行商する丹下キヨ子ひきいる娘たち一行は歌が得意。幼い兄妹連れの江利チエミは地方巡業中の楽団ユニバーサルに引き抜かれ、丸の内劇場の支配人・二本柳寛の目にとまり、レビュー『ジャズ娘誕生』で華々しくデビューするシンデレラ物語に、顔も知らない父が楽団のピエロ役だったという泣かせ話も入る。

音楽映画らしく冒頭から娘たちが歌い「あー、そうずらそうずら」の合いの手が楽しい。トラックで来た楽団ユニバーサルがその歌をバカにするので、チエミが一人で歌い始めるとどんどん人が集まってくる。その声に「案外やるな」と言うようにトラックの荷台でギター伴奏を始めるのが裕次郎。この、その他大勢の中にいる裕次郎登場がいい。

前年に『太陽の季節』にちょい役でデビューした裕次郎は、二作目『狂った果実』の太陽族不良で注目されるが、三作目の文芸映画『乳母車』では育ちの良い好青年を演ずる。日活は売りだし方にまだ迷いがあり、音楽映画にもゲスト出演させてみた、と思っていたら実際は堂々の準主役だった。つまりデビュー間もない裕次郎が、あまり重い役ではなく共演している初々しさを見られる。

主演のチエミは民謡に浪曲にジャズに踊りにと大活躍。すました美人とはいえない庶民顔ながら、夜霧の港の逢引でひとり恋心を歌い、遠くで裕次郎が聞いているシーンなどほほえましく、よい感じを盛り上げる。

たっぷりあるショウステージ場面に裕次郎はぴしっとタキシードを決め、高い背を隠すようやや猫背に肩を揺らし、左足を引きずるような独特の歩き方でポケットに手を突っ込んで悠然と現れ、入れ替わる華やかなダンサーを適当にあしらい歌う一曲は、素人ぽさをたたえてじつに魅力だ。

戦後間もない作品ゆえ劣化したフィルムを予想していたが、白黒スタンダードの画面はぴかぴかにシャープ。冒頭のゆっくり横移動するタイトルバックは、大ステージホリゾントに遠い地平線の荒野を描き、ピアノやドラムセット、ギターを立てかけたミロのヴィーナス像などを点々と配してサルバドール・ダリの超現実絵画を思わせ、すばらしい。

そこから始まる木村威夫の美術は才気が煥発する。子役・刈屋ヒデ子が、新橋あたりのガード下の靴磨きで見事なタップを見せる後ろの煉瓦壁に、野口久光の名イラスト映画ポスター『我が青春のマリアンヌ』『汚れなき悪戯』が貼ってあるうれしさ。

モダンな美術デザインは様々に繰り広げられる数々のショウステージに開花する。本水の雨を降らせた水たまりの間を縫って雨傘とレインコートで歌い踊る『雨に歩けば(ジャスト・ウォーキニング・ザ・レイン)』、メキシカン風の『ジャンバライヤ』、三階建ての『家においでよ(カモナ・マイハウス)』など、大勢のダンサーの衣装も踊りも最高だ。

さらに撮影・姫田真佐久の野外シーンなどの画面づくりのうまさ。簡単な立ち話だけでもアップ、手前に何かを置いてなめる大ロングとカットを割り、映画撮影を存分に楽しんでいる。

音楽映画は都会調があたりまえだが、これは前半のどさ回り芝居小屋との対比もおもしろく、軽いジャズものくらいの気持ちで見に行ったが、撮影、美術、衣装、俳優、若き日活の自由と才能が結集したみごとな音楽映画だった。




『ジャズ・オン・パレード』はチエミのワンマンショー。月丘夢路、新珠三千代、北原三枝、南田洋子様々、日活女優陣が特別出演!

特集「『芦川いづみ 愁いを含んで、ほのかに甘く』出版記念 芦川いづみ映画祭」のチラシ

『ジャズ・オン・パレード 1956年 裏町のお転婆娘』
新文芸坐
特集「『芦川いづみ 愁いを含んで、ほのかに甘く』出版記念 芦川いづみ映画祭」(12/5~12/11)で上映。

1956(昭和31年)日活 92分
監督:井上梅次 脚本:吉田広介
撮影:間宮義雄 音楽:多忠修
美術:木村威夫
出演:江利チエミ/長門裕之/フランキー堺/岡田真澄/芦川いづみ/浅丘ルリ子/菅井一郎/内海突破/沢村国太郎/森川信/市村俊幸/高英夫/月丘夢路/新珠三千代/北原三枝/南田洋子

太田ひとこと:菅井の屋敷から二人組をつまみ出す大男はジャイアント馬場。日活撮影所で電話を受ける月丘夢路の後ろで大坂志郎と山村聡が何か話している。

三文興行師の二人は、興行界の大立者・菅井一郎の屋敷に会いに行くが門前払い。そこに落ちていた葉書を拾うと家出した孫娘が菅井にあてたもので、歌の勉強をしているので探さないでくださいとあった。

同じく歌を夢見て上京した江利チエミは無銭飲食のかわりに歌って喝采をあび、客からたくさん金をもらう。そのチエミを菅井の孫娘と思った二人組は、その孫娘を売り出す大ステージショウを組むとでっちあげ、あちこちから資金を出させる。

そうとは知らぬチエミが身を寄せた、身寄りのない子を育てている慈善の家には、大舞台を夢見る男三人(長門裕之・フランキー堺・岡田真澄)、まだ子供の浅丘ルリ子のほか、菅井の孫娘・芦川いづみも手伝っているが正体は誰も知らない。

地主やくざから慈善の家は取り壊すから出て行けと言われたチエミらは、ショウで窮状を訴えようと二人組の話にのり、「子供たちを助ける」と銘打った企画に大物スター(月丘夢路・新珠三千代・北原三枝)も賛同出演と大きく新聞に出る。それを見た菅井は新聞写真のチエミは孫娘ではない、詐欺だと激怒。大物スターは出演を取り消し、菅井は屋敷を訪れたチエミらの懇願もはっきり断るが、一行に隠れていた芦川いづみは「この子たちのために私からもお願いします」と言い出て、菅井は探していた孫娘に出会う。

インチキくさい興行師、やくざのような流しのチーム、大舞台を夢見る男たち、欲の皮の突っ張った連中、泣かせ話もおりまぜた、まさにハリウッド調ミュージカル映画。

話の途中でいきなり歌いだすのがミュージカル。カレーライスを三杯食べたチエミは、そこにいた流しグループや長門・フランキー・岡田の三人組に手を取られ丸テーブルを飛び歩き朗々と最初のナンバーを歌う。内海突破の口車に乗る森川信の強欲な質屋など、あれこれどたばたあって最後はもちろん盛大なステージショウ。それもセットを変えた四部構成。まずフランキーと長門の水兵が世界の港を回って女の品定め。そのハワイ編でなんと南田洋子のセクシーなフラダンスに大ニコニコ。芸達者の長門を相手にしたチエミのワンマンショーは秋の枯葉の木一本と貧しき恋人・長門など世界の歌めぐり。

次の“銀座の女スリ対男スリ、三人同士の対決”は、高級銀座夫人(月丘夢路)、妖艶マダム(新珠三千代)、男性的ないい女(北原三枝)が次々に見事なファッションと決めポーズで登場。対する男組は、キレ者風の長門裕之、わざと田舎者にみせる市村俊幸、しゃれたプレイボーイ岡田真澄。スリ対決(三者三様に小芝居)はみごと男組が勝つが、スラれた美女三人の「返して頂戴」の誘惑にたちまちめろめろになり財布を差し出す。

最後はシャンソン歌手・高英男の歌声に全員登場で歌い踊り、バックダンサーたちが皆、背の高い美女ばかりで、じつにまったく豪華に酔わせる。全身セクシータイツ美女群の、特に真ん中の人をもう一回見たい! DVD出たら買いたい!

美術監督・木村威夫は重厚リアリズム(熊井啓監督ら)、明治の風俗再現(豊田四郎監督ら、)特異な表現派(鈴木清順監督)と何でもござれだが、音楽映画のステージデザインもすばらしい。また音楽エンタテインメントのうまさは井上梅次をおいて他はなく、まさに“若さの日活”ここにあり。

美女が踊って誘惑するほど良いものがこの世にあろうか。もう一回書こう、私メは、月丘夢路、新珠三千代、北原三枝、南田洋子様々に完全に悩殺されました♡


プロフィール

太田 和彦(おおた・かずひこ)

1946年北京生まれ。作家、グラフィックデザイナー、居酒屋探訪家。大学卒業後、資生堂のアートディレクターに。その後独立し、「アマゾンデザイン」を設立。資生堂在籍時より居酒屋巡りに目覚め、居酒屋関連の著書を多数手掛ける。



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