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『下町ロケット』は現代版『プロジェクトX』? 日本人の琴線に触れる普遍的なドラマ

リアルサウンド

18/10/14(日) 6:00

 2015年に日曜劇場で放送されて好評だったドラマ『下町ロケット』(TBS系)の続編が10月14日から放送される。

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 『下町ロケット』の主人公は、かつて宇宙科学開発機構の研究員だった佃航平(阿部寛)。父親が亡くなったことで実家の精密機械工場・佃製作所の後を継いだ航平は7年間、経営を続けてきたが、主要取引先の大手企業から突然、取引終了の通知を受け取り、メインバンクからも融資を渋られ、その上、ライバル会社からも特許侵害で訴えられる。そんな時、帝国重工の宇宙航空開発部の部長・財前道生(吉川晃司)から新型水素エンジンに必要な佃製作所が所有するバルブシステムの特許を売ってくれと持ちかけられる。

 物語は二部構成となっており、一部が佃製作所の技術がロケットエンジンに、第二部では心臓弁膜症患者向けの人工弁を開発するガウディ計画に使用される。大企業やメガバンクに対して、中小企業がものづくりの技術と従業員の団結力で立ち向かい、苦難の末に逆転勝利するというカタルシスのあるドラマに仕上がっていた。

 原作小説は池井戸潤の『下町ロケット』と『下町ロケット2 ガウディ計画』(ともに小学館)。第一作は2008年から2009年に『週刊ポスト』で連載されたもので、この作品で池井戸潤は2011年上半期に直木賞を受賞している。2006年に『空飛ぶタイヤ』で、2010年に『鉄の骨』で池井戸は直木賞にノミネートされたが、受賞には至らなかった。どちらも優れた作品だが、この二作ではなく『下町ロケット』で直木賞を受賞したのは、過去作とは違う大衆娯楽小説にふさわしい前向きな空気が本作にあったからだろう。

 また、第二作が連載されたのは『朝日新聞』で、連載時期は10月3日からスタートし、11月5日に単行本が発売されるというドラマの放送時期と同時進行だった。こういったリアルタイムのイベントが成立したのは、池井戸潤ブランドが小説という枠を超えて盛り上がりを見せはじめたことの現れだと言えよう。

 今や、多くの作品が映画化、ドラマ化されている池井戸潤の小説だが、初期の映像化作品は、WOWOWやNHKの土曜ドラマといった渋めのドラマ枠で作られる大人向けの重厚な作品だった。どの作品もドラマとしての完成度は高いのだが、どこか爽快感に欠けるものが多かった。それが大きく変わるきっかけとなったのが、2013年にTBSの日曜劇場で放送された『半沢直樹』である。

 メガバンクで繰り広げられる、権力闘争を描いた本作は、主人公の銀行員・半沢直樹(堺雅人)の「倍返しだ!」という台詞が話題となり、最終回の平均視聴率が42.2%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)という、お化けドラマとなった。それ以降、池井戸潤の原作小説は日曜劇場を筆頭に様々なテレビ局で引っ張りだことなるのだが、この『半沢直樹』の成功だけでは、今の池井戸潤ブランドの盤石さは生まれなかったのではないかと思う。

 おそらく『半沢直樹』は池井戸潤作品の中でも特殊な位置づけで、同時期にヒットした連続テレビ小説『あまちゃん』(NHK)と同様、2013年に日本人が感じていた東日本大震災以降の鬱屈した空気を鋭くえぐったからこそ、あれだけ多くの視聴者を巻き込んだのだろう。まぐれ当たりとまでは言わないが、おそらくチーフ演出の福澤克雄を中心とするドラマチームにとっても、再現不可能な、奇跡の作品だったと言えるだろう。

 その意味でも、本当の意味での、日曜劇場における池井戸潤ドラマの必勝パターンを確立したのは、その次の『ルーズヴェルト・ゲーム』で、そしてこの『下町ロケット』だ。横暴な大企業と、そこに立ち向かう中小企業。そして間で蠢く銀行と外資系企業、池井戸潤のドラマは大体この4者の関係と、主人公の家族のドラマで成り立っている。当初は組織の汚職に立ち向かう個人というモチーフが強く出ていて、『半沢直樹』ではメガバンクの内部闘争が物語の中心だったが、『ルーズヴェルト・ゲーム』では、社会人野球と会社の立て直しのドラマが同時進行で進み、最終的には、ものづくり精神が問題解決に向かうという結末となっていた。

 つまり、組織内で潰し合うのではなく、技術革新が人々を救うという前向きな方向へと舵を切ったのだ。この路線は『下町ロケット』、『陸王』にも引き継がれていき、物語の中心にいる人々も、中小企業の社長と工場で働く技術者たちへと変わっていった。

 『下町ロケット』や『陸王』を見ていて思い出すのは、2000年代にNHKで放送されていた『プロジェクトX~挑戦者たち~』だ。本作は、終戦直後から高度経済成長期に起きた、製品開発プロジェクトの内幕を紹介するドキュメンタリーで、そこに登場する人々の多くは無名の技術者たちだった。『下町ロケット』のカタルシスは、さながら現代を舞台にした『プロジェクトX』と言えるだろう。これがフィクションでしか見ることができなくなっていることに、今の日本の厳しい現状が見え隠れするが、だからこそ、多くの日本人の琴線に触れる普遍的なドラマとなったのだ。

(成馬零一)

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