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ペンギンラッシュ、メジャーデビュー作で鳴らす“自分たちらしさ”「考える力や想像力が大事だということに気づいていけたら」

リアルサウンド

20/9/2(水) 12:00

 名古屋発の4ピースバンド、ペンギンラッシュがメジャーデビューアルバム『皆空色』をリリースする。ジャズ、ファンク、ボサノバなどの要素を織り交ぜた独自の音楽性、個性的かつテクニカルなプレイがせめぎ合うアンサンブル、そして、凛とした意思と深いメッセージ性を織り込んだ歌詞。先行配信された「turntable」「色彩」「高鳴り」「本音」を含む本作でペンギンラッシュは、そのポテンシャルを初めて全開にしたと言っていいだろう。

 「ひとつの集大成であり、新しい始まりでもあると思っています」(望世)という本作について、ボーカリストの望世、キーボードの真結に聞いた。(森朋之)

「意識していたのは、瞬間的な感情や衝動を大事にすること」

ーーメジャーデビューアルバム『皆空色』、素晴らしいです。音で身体的な気持ち良さを得られ、歌詞によって思考を刺激される作品だなと。

望世:ありがとうございます。嬉しいです。

ーーまずは『皆空色』というタイトルについて聞かせてください。前作『七情舞』に続き、漢字3文字。どちらも仏教に関する用語がもとになっていますね。

望世:そうなっちゃいましたね。ちょっと狙った部分もあったんですよ。いくつか候補はあったんですけど、「3つの漢字のタイトルにすると、シリーズみたいでおもしろくない?」って(笑)。

ーー仏教に興味があるんですか?

望世:興味はありますね。お経を唱えるような行為的なことではなくて、仏教の考え方や概念が自分に近い気がして。

真結:“空”(くう)もそうだよね。

望世:うん。すごく大きい概念なんですけど、意味を調べてみると自分に重なる部分があるというか……。

ーーすごく簡単に言うと、仏教における“空”は、“実体はない”という考え方ですよね?

望世:そうですね。特にそのことを意識するのは、負の感情を持ったときで。負の感情、陰と陽の“陰”の部分って、結局は自分から創り出しているのもので、もともと存在してないんですよ。つまり考えすぎなんですよ、大体のことは(笑)。

真結:そういう話をときどき望世がしてくれるんですよ。『皆空色』というタイトルになって、改めて“空”という概念に触れたんですけど、私にとってもしっくり来るものがありました。自分の考え方によって、まったく別のものになり得るというか。固定されたものや実体はなくて、何にでもなり得るし、何でもないという考え方なんですよね。実体はないけど、実は“空”が全てを構成してる、ということだよね?

望世:そうそう。上手(笑)。

ーーそういう話、普段からしてるんですか?

望世:私の周りには、そういう人が多くて。常にこういう話をしてますね。バンドのメンバーだと……真結には話してますね、一方的に(笑)。

ーー探れば探るほど深みがある言葉ですが、『皆空色』をタイトルにしたのはどうしてなんですか?

真結:歌詞じゃない?

望世:それもあるね。あと、このアルバムには二つの意味が同時にあると思っていて。アルバムとしては3枚目になるんですけど、メジャーデビューのタイミングもあるんですよね。いったんの締め、終着点でもあり、始まりでもあるっていう。アルバムができ上がって、聴いてみたときにそう思いました。

ペンギンラッシュ – 高鳴り(Official Music Video)

ーーバンドにとっても節目のアルバムになると思いますが、制作が始まったときはどんなビジョンがあったんですか?

望世:テーマ的なものは相変わらず、あまりなくて。メンバーと話し合いはしたけど、これまで通り「今やりたいことをやりたいままにやりましょう」ということになりました。いろいろ考えたんですけど、作りたいものを作るのが一番だなってことが明確に見えましたね。

ーー作曲編曲のクレジットはすべてペンギンラッシュ。前作『七情舞』と同様、メンバーそれぞれがモチーフを持ち寄って、セッションで制作したんですか?

望世:そうですね。

真結:もとになるフレーズだったり、デモ音源を誰かが持ってきて。

望世:最終的にはセッションで作っていくことが多いです。デモもいろいろで、しっかり作ってくるパターンもあるし、メロディが入ってないこともあって。そこから作っていくので、結果的に全員の要素が入ってるんですよね。

真結:なので作曲者は“全員”です。

ーーメンバーそれぞれのやりたいことも込められている、と。望世さん、真結さんが今回のアルバムでやりたかったことは?

望世:よりリアルでいよう、ということかな。言葉選びはしましたけど、核心的なことを隠さず明確に表現しようと。歌詞においても、曲においても。

ーーそう思ったのは、何かきっかけはあったんですか?

望世:はっきり言わないと伝わらないなと感じたんですよね。前作でも言いたいことを詰めたと思ったんですけど、伝わり切らなかったところもあって。これは良いことでもあるんですけど、私たちのバンドは、歌詞よりも先に音が入ってくるみたいなんですよね。そうなると、歌詞はあまり読んでもらってないだろうなって。実際、聴いてくれた人たちと話しても、そういうことを感じることがあったんですよね。

ーーなるほど。真結さんはどうですか?

真結:意識していたのは、瞬間的な感情や衝動を大事にすることですね。完成図に向かって作るのではなくて、その場で出てきた音、その瞬間にしか生まれない音をどんどん入れたくて。

「周りでも「何かがおかしいよね」って気づく人が増えてきた」

ーー今回のアルバムは演奏自体にもすごく臨場感がありますね。収録曲についても聞かせてください。まず1曲目の「本音」は望世さんの「よりリアルに」という思いがはっきりと表れた曲名ですね。

望世:そうですね(笑)。歌詞の内容は、色恋なんです。強さと艶っぽさの両方がある曲なので、そういうテーマが合うかなと。もちろん(恋愛の)相手だけに向けられた歌詞ではなくて、自分の感情も込めていて。アルバムの始まりにも合っていると思います。

ーー真結さんのピアノもめちゃくちゃ奔放で。

真結:ピアノ感を全面に出したかったんですよ。この曲はベースの浩太郎さんがデモを持ってきてくれて。ボサノバのテイストが印象的だったから、そこも意識しながらアレンジしました。もちろん“望世の声に合うように”ということも考えて、ボサノバ、ジャズに寄り過ぎないようにして。

ペンギンラッシュ – 本音(Live Video)

ーーそのバランスもペンギンラッシュの個性ですよね。ジャズ、ファンク、ボサノバなどのテイストがありつつ、完全にそっちに寄らないっていう。

真結:そうですね。寄り切る力量もないんですけど(笑)、ジャズやボサノバをそのままやるのは、ペンギンラッシュとしてはちょっと違うのかなと。

ーー続く「二〇二〇」は渋めのベースラインから始まるナンバーで、濃厚なバンドグルーブと〈思考を止めることは 解放ではない〉という強いフレーズの対比が印象的でした。

望世:これも本音です。もともとは未来のことを書こうと思っていたんですけど、制作を進めていくうちに「これは現在のことだな」と思って、題名を「二〇二〇」にしました。いまは激動の時代だし、毎日のように状況が動いているので……。

ーーコロナ禍以降の社会も反映されている?

望世:それもあるし、これまでのことも含まれていると思います。たぶんですけど、私たちの世代はずっと思考力を失わせられてきたんじゃないかと感じていて。私、当たり前のように進んでいくことに対して、いちいち疑問を持ってしまう面倒くさい学生だったんですよ(笑)。でも、最近はいろんなことが浮き彫りになってきて、自分の周りでも「何かがおかしいよね」って気づく人も増えてきて。私自身もまだまだですけどね。

ーー確かにそうですね。政治、経済、格差や差別の問題など、いろんなことが表面化してきて。

望世:考える力や想像力が大事だと思うんですよね。そのことも「二〇二〇」の歌詞には落とし込んでいて。この曲が何かのきっかけになって、みんなで気づいていけたらなと。

真結:〈想像力を絶やすな〉という歌詞もあって。すごく好きですね、この曲。

ーー叙情的な雰囲気の「月草」も印象的でした。言葉、メロディ、サウンドの絡みが本当に素敵で、セッションでしか生まれ得ない一体感だなと。

真結:この曲は私が大元を持っていったんですけど、最初はサビの部分から作り始めて。ほんとにサビのメロディしかなかったので、あとはメンバーと一緒に作っていきました。

望世:ずっとメロディを考えてましたね。

真結:レコーディング当日までね(笑)。歌詞が先にできて、それに合わせてメロディを付けた部分もあるので。

ーー1曲のなかにメロ先、詞先が共存している、と。すごく密接な共作ですね。

望世:そうですね。アレンジやフレーズに関しては、メンバーを信頼していて。特にベースの浩太郎さんはすごく耳が良くて、サウンドのことはほとんど任せているので。

ーーなるほど。「月草」は〈目の前に用意された欲望と指針〉というフレーズから始まって、かなり官能的なラブソングのように聴こえますが……。

望世:私としては、ラブソングのつもりではなくて(笑)。でも、確かにそういう解釈もできますね。

真結:それぞれが解釈してアレンジしているから、歌詞の話はあまりしないかも。

望世:それもおもしろいところですね。浩太郎さんは時々、歌詞のことを聞いてくるんですよ。“夜”という文字を使ってる曲で、「これは“よる”なの? “よ”なの?」とか。

ーー歌詞を先に書くことはないんですか?

望世:あります。アルバムでいうと「冴えない夜に」がそうですね。

真結:みんなで共有しているフォルダーに歌詞が入ってたんですよ。後は早いもの勝ちというか……。

望世:着想を得た人が曲を付けて(笑)。

真結:そう(笑)。「冴えない夜に」のデモは浩太郎さんが作ったんですけど、実は私も取り掛かろうとしていて。先を越されました(笑)。

ーー制作スタイルが多彩ですね。

望世:そうかも(笑)。詞先だといい曲になることが多くて。「冴えない夜に」もすごく気に入ってます。音数が少ないのも好きですね。

「ポップな曲には重たい歌詞を乗せたくなる」

ーー「turntable」はクラブの光景を描いたダンスチューン。この曲はもともと高校時代に作ったそうですね。

望世:はい。クラブには行けない年齢だったんですけど、当時からクラブミュージックが好きで、よく聴いてたんですよ。テクノ、ハウスもそうだし、ヒップホップも。その頃にはジャズも聴き始めてたんですが、逆にバンドの音楽はあまり聴いてなかったかも。

真結:そうだね。

ペンギンラッシュ – turntable (Official Music Video)

ーークラブミュージックの入り口はどのあたりだったんですか?

望世:サカナクションですね。高校生のときからめちゃくちゃ好きで、山口一郎さんがSNSでシェアしたクラブミュージックを全部聴いてたんです。高校生のときに真結と組んでたバンドでも一番多くカバーしてました。ありがとうございます! という感じですね(笑)。

ーー意外なルーツですね。ペンギンラッシュは生演奏主体で、今のところのエレクトロの要素はあまり感じられないので。

望世:そうかもしれないですね。でも、当時掲げてたコンセプトは、ファンクとクラブミュージックの融合だったんです。「turntable」も最初は、サカナクションの曲のリズムを参考にしていました。

真結:今回収録してるバージョンは、私達らしいアレンジになってます。おもしろいリズムになってるので、ぜひ聴いてほしいですね。

ーーそして「淵」は、バンドとしての魅力がすごく感じられる曲だなと。演奏能力の高さ、アレンジメントの個性が際立っていて。

望世:この曲は真結っぽさが出てますね。

真結:私がデモを作ったんですが、いままでとは違ったアプローチなんです。イントロを作っているときに、歪んだギターのイメージが浮かんで、とにかくギターがメインの曲にしようと。メンバーにギタリストはいないんですけど、誰にも反対されませんでしたね。

望世:4人の音だけでやらなくちゃいけないわけじゃないので。金管楽器なども、曲に必要だったら入れてみたいし。幸い、「ペンギンラッシュの曲で弾きたい」と言ってくれる人が多いんですよ。そういう会話のなかから、「だったら、こういう曲もやれそうだな」という発想につながることもあって。

真結:私も鍵盤を使ってできることなら、何でもやります(笑)。たとえば「高鳴り」は下にシンセベースがあって、ローズピアノでコード感を出していて。そのうえでピアノを弾いてるんですよ。

望世:1曲1曲が濃いし、「違うアーティストがやってるんじゃないか?」というくらい幅のあるアルバムになりましたね。メンバーそれぞれルーツが違うし、「やりたいことをやればいい」という感じなので。

真結:新しいアイデアを思いつくと、「これをペンギンラッシュでやったらどうなるだろう?」って。

ーー望世さんには、「自分が歌えばペンギンラッシュになる」という意識もありますか?

望世:変わらないのはそこだけですからね。ただ、それは私だけではなくて、4人のフィルターを通せば自ずとペンギンラッシュの曲になるので。

ーーアルバムの最後に収録されている「色彩」についても聞かせてください。曲はかなりポップですが、この曲も歌詞が強くて。

望世:そうですね。「色彩」の歌詞は「書けたな」と思いました。

ーー軸になっているテーマは何だったんですか?

望世:うーん……現代かな。あとは、今の人。「二〇二〇」もそうだし、先ほども少しお話したように思考力を奪われている人が多いんじゃないかという思いがあって。具体的に言うと、お金のための仕事だと割り切っていても、心はどんどんすり減ったり。私の周りにもしんどそうな人が結構いるんですけど、かなり麻痺しちゃってるんですよ。

真結:うん。私の周りにもそういう子はいますね。

望世:自分の幸せを考えない人が多いというか。この曲を書いたあと、私自身にもいろいろあって。「これが理想だ」と思って進んでいたんだけど、違っていたことに気づいて……。そのときに「色彩」を聴いたら、歌詞が突き刺さってきましたね。「eyes」もそうですけど、ポップな曲にはこういう重たい歌詞を乗せたくなっちゃうんですよ(笑)。

真結:「eyes」「色彩」のサウンドも、実は明るいだけではなくて。そこは歌詞とリンクしていると思います。

ペンギンラッシュ – 色彩(Official Music Video)

ーーサウンドも歌詞も強く伝わるアルバムですよね。まだまだライブが思うようにできない時期が続きそうですが、今後の活動のイメージについて教えてもらえますか?

望世:いろんなことを考えているんですけど、イメージしたそばからどんどんダメになっていく日々ですからね。ただ、「新しさを見出したもの勝ち」というか、面白いことをやった人が目立つ時期ではあると思っていて。毎日のように状況が変わるので、やれることをやりつつ、新しい表現を探したいですね。8月1日の配信ライブのときにダンサーに参加してもらったんですが、私としてはかなり良かったと思っていて。音楽だけではなくて、いろんなジャンルのアーティストと一緒にやりたいという気持ちもあります。

真結:配信ライブもたくさんの人に見てもらえたし、得られたものもたくさんあって。ポジティブに考えながら、やれることを見つけていきたいです。

■リリース情報
ペンギンラッシュ 3rdアルバム『皆空色』
2020年9月2日(水)発売 ¥3,000+税
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<収録曲>
01 本音
02 二〇二〇
03 あいだ
04 冴えない夜に
05 月草
06 turntable
07 eyes
08 woke
09 淵
10 高鳴り
11 喫水
12 色彩

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