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『アンサングシンデレラ』原作はドラマとどう違う? 薬剤師の実態に迫るアプローチ

リアルサウンド

20/8/6(木) 11:00

 一人の病院薬剤師を通して見る“病院”の姿こそが本作の魅力だろう。『アンサングシンデレラ 病院薬剤師 葵みどり』(コアミックス)は、総合病院を舞台に奮闘する薬剤師の物語だ。作者は荒井ママレ、医療原案を総合病院薬剤科の現役薬剤師・富野浩充が務める。

 本作を原作としたドラマ『アンサング・シンデレラ 病院薬剤師の処方箋』がフジテレビ木曜劇場にて、石原さとみ主演で放送中だが、コミックはドラマとはまた違ったアプローチで病院薬剤師の仕事を描写した。

関連:【写真】ドラマ『アンサング・シンデレラ 病院薬剤師の処方箋』の場面写真

 主人公の薬剤師・葵みどりをはじめとする萬津総合病院薬剤部のメンバーやナカノドラッグの小野塚綾の仕事観や人生観にフォーカスしながら、薬剤師の視点から見た医療の現場を描く。

 ドラマ放送中ということもあり、石原さとみ演じるみどりのひたむきで快活な姿から、“前向きな主人公と患者との感動的な医療物語”を想像する人も多いことと思う。しかし原作コミックでは、みどりの成長劇や涙を誘うような展開よりも、薬剤師の仕事の実態がリアルに描かれているように感じた。

 病院薬剤師、ドラッグストア薬剤師、MR(医薬情報担当者)、開業した者から、果ては認定資格取得についてまでかなり丁寧に踏み込んでいる。さらには妊娠を経験した薬剤師や、シングルマザーの薬剤師、新人から中堅、ベテラン、それぞれの薬剤師がどういった志を持ち、どんな医療を薬剤師としてのゴールに見据えているのかの違いまで描き分けた。

 入念なリサーチによって作り上げられた『アンサングシンデレラ』の世界は、これから薬剤師を目指す人にとっての指標となることはもちろん、日々生活の中で何気なく手に取る「薬」に対する心持ちが変わるきっかけにもなるだろう。

 実は我々は薬について誤った認識を持っていたり、情報を全く知らないことさえもある。わからないから、難しいからと服用することに恐怖心を持つ者もいれば、逆に不用意に誤った使い方をして身体を壊してしまうこともあり得るのだ。

 『アンサングシンデレラ』では、こうした患者目線でのエピソードが各話に散りばめられており、改めて日々の生活における“薬”の役割を再認識させられる。そして薬剤師の仕事のおかげで、我々が安全に薬を使用できているという現実を理解することができるのだ。

 薬剤師という職業を知る職業漫画としても、患者とのエピソードを描く医療漫画としても楽しめる一方で、『アンサングシンデレラ』は日本の抱える薬や医療にまつわる様々な問題にも切り込んでいる。放送中のドラマと合わせて原作を読むことで、より深く薬剤師の世界を理解し作品に没入することができるだろう。

 なお、本作での登場人物については、ドラマと描かれ方の違うキャラクターも多い。ドラマでは登場率が高く、後輩として常にみどりをついて回る相原くるみ(西野七瀬)は、コミックでは自分なりの仕事のやり方を模索するタイプであり、みどりにいつも指導を受けているわけではない。

 さらにみどりの先輩薬剤師・瀬野章吾(田中圭)はドラマでのクールな印象とは対照的に、熱く患者と向き合い薬剤部と病院の関わり方を改善しようと努める熱血キャラだ。

 こうした違いは作品のイメージに反映し、暖かくポップに描くドラマと、繊細に合理的に描くコミックとで受け取り方が大きく変化するだろう。どちらも薬剤師という仕事について関心をそそる内容であり、感動し心を動かされるものだが、アプローチが違うため楽しみ方もそれぞれ。ぜひ手にとってドラマと比較してみて欲しい。

 自分の生活の中にも実は密かに関わりのあることが多い薬剤師という職業。謎多き薬の専門家たちが、普段どのような業務に勤んでいるのか、ぜひ覗き見てみてはいかがだろう。この作品との出会いは、薬を受け取りに行く薬局の景色を大きく変えるかもしれない。

(文=Nana Numoto)

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