和田彩花の「アートに夢中!」
河鍋暁斎 その手に描けぬものなし
毎月連載
第11回
幕末・明治の動乱期に独自の道を切り開いた絵師・河鍋暁斎(1831~89)の画業と足跡を展望する、サントリー美術館で開催中の「河鍋暁斎 その手に描けぬものなし」(3月31日まで)。数え7歳で浮世絵師・歌川国芳に弟子入りし、その後、駿河台狩野派の前村洞和や、洞和の師・狩野洞白陳信に入門し、高い絵画技術で優れた作品を残した。破天荒で反骨の画家と言われるが、実際には「狩野派絵師」としての活動と「古画学習」を大きな軸としながら、作品と真摯に向き合った暁斎。その画業を、和田さんはどのように捉えたのだろうか。
展覧会を通して、暁斎という人は本当になんでも描けてしまう人、そしてその作品はとても造形的だと改めて思いました。会場には色鮮やかな絵はもちろん、凄みのある水墨画、そして画題もさまざまな上、仏画、花鳥画、美人画、戯画などたくさんのジャンルの絵が並び、暁斎の頭の中はどうなっていたのかと、のぞいてみたくなるほど。
今回は、暁斎がいかにして生まれたのか、そしてその根底にある、先人たちが描いてきた作品への深い理解を紹介する展覧会だったのですが、暁斎が日々の修練を怠らず、古画に向き合い学習してきた、その勉強熱心で真摯な姿を知ることができました。
デザイン・バランスの妙
《枯木寒鴉図》
まず紹介したいのが、《枯木寒鴉図》(写真右)です。
これは、明治14(1881)年の第二回内国勧業博覧会で、妙技二等賞牌(絵画では事実上の最高賞)を受賞した作品。皆さんもご存知の飴屋さん、榮太樓總本鋪が当時としては破格の100円という値段で購入しました。当初100円という値段に非難が殺到しましたが、「これは絵の値段ではなく、自分の長年の苦学の値である」と答えた暁斎。この作品によって暁斎の名は国内外に広まり、同様の画題の依頼が殺到したそうです。
私は必要なものだけを描き、無駄なものが一切描かれていない画面や、描かれた情報が少ないのに、場の雰囲気が掴みやすいのが好きなんです。この絵の雰囲気は特別なものという訳ではないですが、ちょっとだけさみしげで、孤独感のようなものがあるなって。一気に描かれた筆の線はとても力強く、どこか鋭さも持っていますし、濃淡があまりないように見えながらも、じっくりと画面を見ると、カラスの濡れたような羽の美しさにもハッとさせられます。
それにデザイン的な配置も、絶妙なバランスもいいなと思います。ある意味合理的というか(笑)。
カラスがとまっている枝も不思議な形ですよね。枝の右側はどんなふうになっているのか。カラスも自然なように見えて、ちょっと不自然にも感じませんか? 周りの風景が見えてこないし、本当にこんなカラスいるのかなってそれを想像するのも楽しいですよね。
この水墨画は本当に計算されているというか……暁斎は計算してないかもしれませんが、この画面を作り出すセンスにも驚かされました。
自然? 不自然?
《鯉魚遊泳図》
次はこの9匹の鯉が描かれた《鯉魚遊泳図》(写真右)。
とても不思議で不自然な構図だと思いませんか? 水の中を泳いでいる自然な鯉の姿ではありませんよね。そもそもいったい暁斎はどの視点からこれを描いたのか……。 しかも中央右の鯉は正面を向いていて、こちらをじっと見ているかのようなんです(笑)。なんとも言えない顔。
実は私、小さい頃から鯉が好きで。家の隣にあった池に鯉がいたんですが、私が餌をやる係だったんです(笑)。 だから鯉の観察をずっとしていたので、この絵から場面のリアルさも感じつつ、リアルな鯉がする行動や姿をコラージュして貼り付けたようにも見えるんです。いろんな視点が混在している。 実際にこの9匹の姿を一回で見ることはできないと思います。