川本三郎の『映画のメリーゴーラウンド』
佃の渡しの話から、勝鬨橋、『銀座カンカン娘』…『幸福の黄色いハンカチ』につながりました。
隔週連載
第25回
19/5/28(火)
佃の渡しが出てくる忘れ難い映画がある。この映画を御存知の方がいればうれしい。独立プロの地味な作品であまり語られることがないから。『愛すればこそ』。
昭和三十年(1955年)公開。オムニバス映画で、三話から成る。第一話「花売り娘」(乙羽信子主演、吉村公三郎監督)、第二話「とびこんだ花嫁」(香川京子主演、今井正監督)、第三話「愛すればこそ」(山田五十鈴主演、山本薩夫監督)。
第一話「花売り娘」に佃の渡しが出てくる。乙羽信子演じる主人公は、銀座のバーで働いている。夫に甲斐性がなく苦労が絶えない。それでも優しい女性で、店に花を売りにくる貧しい少女(町田芳子)から花を買ってやる。
苦労の甲斐なく夫は自殺してしまう。気落ちした彼女は店をやめ、家に引きこもる。家は佃島にある。
ある日、訪ね人がある。いつか花を買ってやった少女。親切にされた御礼に来た。思いがけない少女の訪問に、落ち込んでいた彼女の心が和む。ふと窓の外を見ると、遠くに見える勝鬨橋がちょうど開いているところ。その姿が彼女と少女を励ましているように見える。
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