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w-inds. 橘慶太×NONA REEVES 西寺郷太 対談【後編】 楽曲制作を支える信頼できる仲間の存在

リアルサウンド

19/2/3(日) 12:00

 3人組ダンスボーカルユニット・w-inds.のメンバーであり、作詞・作曲・プロデュースからレコーディングにも関わるクリエイターとして活躍中の橘慶太。1月からはKEITA名義で12カ月連続シングルリリースすることを発表するなど今年も積極的な音楽活動を行っている。そんな彼がコンポーザー/プロデューサー/トラックメイカーらと「楽曲制作」について語り合う対談連載「composer’s session」の第4回ゲストは、マイケル・ジャクソンや80年代音楽シーンの愛好家・研究家としても知られるNONA REEVESの西寺郷太。後編となる今回は、最近の曲作りや2組のメンバーの作品への関わり方、さらにはポップスの歴史における大きなターニングポイント“1985年”にまで話題が及んだ。(編集部)

(関連:w-inds. 橘慶太×NONA REEVES 西寺郷太 対談【前編】 楽曲制作への目覚めと活動原点振り返る

■信頼できる仲間の存在が楽曲制作を支える

橘:西寺さんは曲作りのどの作業がいちばん好きですか?

西寺:積み木じゃないですけど、集中して音を無心で打ち込んでいって、自分の思うかたちに構築してゆく瞬間そのものがまずは楽しいですよね。自宅のスタジオで全部機械を揃えたデスクの隣にマイクがあって、作ったらそのまま歌ってってエディットして、っていうのを夢中でやって作曲するのが最大の趣味です(笑)。

橘:曲作りはどのように進めています?

西寺:NONA REEVESではアコギの弾き語りで渡す時もあるし、いろんなパターンがありますね。小松(シゲル)のドラム、奥田(健介)のギターやキーボードをどうやって絡ませていくかということをみんなでアイデアを出し合いながら、自分で最初に作ったものがどんどん変わっていったりもしますし。

橘:みんなで作っていく。

西寺:メンバーとの付き合いも学生時代からで長いので、ひとつのやり方に飽きたら新しいことを試したり、逆にひとつ前のやり方に戻してみようという時もあります。ギタリストの奥田も作曲家でアレンジャーなんで、彼の作ってきたBメロとサビに僕がAメロを考えたりする「合体」型の作曲もありますし、あまり煮詰まった経験はないですね。もちろんいつも自分たちが新鮮でいられるように努力はしてるつもりですけどね。例えば前作のアルバム『MISSION』の制作はPCからいったん離れて、曲を作ったらスタジオにドラムとベースとキーボードとボーカルとギターで入って。リハーサルをしながらアレンジしてみたり、久しぶりにそういうアナログな作り方をしましたね。

橘:最近の曲作りは?

西寺:例えば、今、この大画面に僕のLogicのデモが映ってますけど、3月13日に出る『未来』というアルバムで「フィジカル」という曲。これは、生ドラムの変拍子を使った面白い曲ができましたね。クリス・デイヴもそうですけど、ドラマーが今、大ヒーローじゃないですか。小松に思いっきり叩いてほしくて。この曲は自転車に乗ってる時に変拍子のベースラインがまず思いついて、信号待ちの瞬間にiPhoneにベースラインだけ歌って録音しておきました。で、家に帰ってすぐに8分の7拍子のリズムを組んで。テンポは、僕の好きな97です。w-inds.についても聞きたいんですけど、慶太くんが曲を作り始めてから正式に作品としてリリースするまでに時間はかかったんですか?

橘:3、4年ぐらいは自分が納得したもの以外は出したくなくて、ずっと研究してました。中途半端なかたちで出したくなかったんです。自分で作った曲を例えばiTunesにあるような曲と比べると劣ってるのが一目瞭然でしたし。そうやっていろいろな曲と自分の曲を比較しながら、ある程度聴かせられるようになるまでは出してないです。だから最初は練習としていろいろな曲を作って、あとはw-inds.が海外のトラックメイカーから曲を提供してもらう時にデータをもらって、それをずっと見ながら独学で勉強していました。

西寺:『100』の「Dirty Talk」とか最初にYouTubeで見た時から印象に残ってるんですけど、制作はどういう感じなんですか? 基本は全部シンセサイザーとプログラミング?

橘:僕は全部打ち込みです。

西寺:ギターは?

橘:ギターは全部自分で弾いて録ります。アコギも録ってますね。僕はDAW上で編集するのが大好きで。音を録ってもどうやったら一番リアルに聞こえるかを考えるし、打ち込みも研究する派です。

西寺:曲を作るのは早いんですか? 出来上がるまでが早いのか、煮詰めるのか、作るまでは早いけど途中から色々こちょこちょやるのが好きなのかとか。

橘:僕はめちゃくちゃ早いですね。途中からいじるのはあんまり好きじゃなくて。

西寺:おー(笑)。あと気になったのが、w-inds.は、3人組のグループじゃないですか。他の2人はどういう感じなんですか? 自分も曲を作りたいっていうのか、「慶太、お前に任せるわ」っていう感じなんですか?

橘:もう完全に任せるわ、ですね。

西寺:2人とも?

橘:2人ともですね。

西寺:潔くてカッコいいですね。それは。2人は歌やラップは書くんですか?

橘:歌詞は書いたりするので、この曲は歌詞を書いてほしいという時にはお願いしてます。

西寺:ということは、2人がラップしているパートも慶太くんが書いてるってこと?

橘:「Dirty Talk」は僕が書きましたね。でも個人が書く曲もあります。そう、うちのメンバーは「ザ・いい人」なんですよ。

西寺:「ザ・いい人」(笑)。2人とも?

橘:2人ともです。よく言ってるんですけど、僕が生きてきた中でこれ以上のいい人を見たことがないワンツー(笑)。僕がメインボーカルだった時、最初に2人に歌ってほしいって言ってたんですよ。僕はグループとして3人で出ていきたいから、メインボーカルとダンサー、みたいなのがすごい嫌だっていう話をして。でも「いや、僕たちは支えることに美学を感じてます」って。それを聞いて「そんなグループある?」って思いましたけど(笑)。

西寺:若いのに、それが言えるってむしろ超かっこいいですよ(笑)。普通、頼まれてないのに「俺が目立ちたい!」ってなって無茶苦茶になることが多いから。話を聞いていて思い出したんですけど、慶太くんのスタンスって、僕が尊敬しているWham!のジョージ・マイケルとも重なる部分があるんですよ。彼は作詞も作曲もリード・ボーカルも打ち込みもやる。ソロになってからは、80年代当時1億円ぐらいしたシンクラビアっていう電子楽器を買って、全部プログラミングを自分でやるような人だったんです。で、最初にデビューしたグループのWham!は2人組で、相方のアンドリュー・リッジリーは学校の友達なんだけど、彼はジョージに音楽的なことは何にも言わないんですよ。「ジョージ、お前天才だからひとりでやれよ」、曲を聴かせても「お前すごいなぁ」って大絶賛するだけ。出来上がった音を聞いた時に「めっちゃいいやん!ジョージ最高!」って言うだけなんですが、それが結構重要な役割で(笑)。

 w-inds.と細かい部分はだいぶ違うけど、とにかく僕はそうやって「思い切り任せることが出来る姿勢」がすごいと思っていて。普通のバンドだと「自分の曲も入れろ」とか「B面は自分の曲にしてくれ」とかで揉めて崩壊していくものですけどね。最終的に、Wham!は円満解散して。ジョージ・マイケルはソロになって、1st『Faith』で大成功したんですけど、その後悩みに入るんです。レコードの出る枚数がWham!の時代よりめっちゃ減ってしまって。結局、完璧主義なんで自分で合格ラインが出せなくなるんです。ソロになってから30年近くでアルバム4枚しか出してないですからね。全部いい作品なんですけど、アンドリューみたいに「めちゃくちゃ最高」とか「お前天才だな」って対等な立場で言ってくれる信頼できる仲間の重要性というか。

橘:僕もそれよく思うんですよ。やっぱり近くにいる人にいいって言ってもらえるって、すごい自信になるなって。本当に同じような話なんですけど、曲を持ってったら絶対2人から「いやー、天才だな」「いやー、さすがだな」って言ってもらえるんですよね。

西寺:すごい(笑)。でもそりゃ、言うだろうけどね、慶太くんからあのレベルのサウンドと楽曲を聴かされれたらね。

橘:ちょっと気持ちいですもん(笑)。でも本当にそんな感じですね。どんな曲がいいって聞いても、「うーん、慶太がいいと思ったやつがいいと思う。絶対間違いないと思うから」みたいな感じで。

西寺:それでもダンスとかラップは全力でやって。カッコいいし(笑)。めっちゃいいやん(笑)。

橘:僕が作った曲を、本当に自分が作ったかのように思ってくれるんです。

■NONA REEVESメンバーの役割と西寺がw-inds.に思うこと

西寺:ちなみに、2人はもともと友達だったんですか?

橘:2人は同じスクールを出ていて、そのスクールから東京に出てきた時期と、僕がオーディションで受かって東京に出てきた時期がたまたま一緒だったんです。僕は最初ソロのシンガーソングライターでデビューしてくださいって言われてたんですよ。

西寺:え?(笑)。シンガーソングライターでデビューって急に?

橘:はい。オーディションでも説明はなかったんです。歌って踊って合格したはずなのに、合格したときにもらった商品券で「ギター買ってください」っていきなり言われて。ギターはギターでそっちがくれればいいのにと思いながらも(笑)、ギターを買って練習して、2カ月後に東京に呼ばれました。

西寺:それが、今役立ってると(笑)。

橘:そうなんですよ。頑張って買ってギター持って出ていったら、社長が「君たち3人並んでくれ」ってパシャって写真を撮って「これだ」って(笑)。買ったギターをどうすればいいんだろうと思ってたんですけど、そのギターはうちのメンバーのロック好きな子がのちに「ちょっとギターを貸してほしい。そういう音楽が好きになってきた」って言ってきて、そのギターを貸したらどんどんロックが好きになって。バンドでも今ギターをやってます。まさか買えって言われて買ったギターがこんなにも今になって活きてくるとは(笑)。

西寺:結果、社長の見る目がすごいってことですかね(笑)。w-inds.のレコーディングはどんな感じなんですか?

橘:普段は基本的に僕が作って、歌録りも僕が録るので、2人の歌も録ります。それで自分でエディットして。Melodyne派なんですけど、基本的に全部自分で仕上げます。

西寺:歌録りまで(笑)。僕は、ボーカル素材のChopはするけど、MelodyneとかAutoTuneは使ったことがなくて。そこに行くのは完全に客観性を失いそうで怖い(笑)。なので、その辺の調整は、兼重哲哉っていうエンジニアに全権任せてます。NONA REEVESはバンドなのと、3人ともプロデューサーなんで、それとは違う審判みたいな人がいてくれた方がいいっていうのもあって。エンジニアが実質的には、その役を担ってますね。あとはさっきも話したけれど、自分がやっぱりどちらかというとリズムとリフの得意な人間で、ギターの奥田はコードとかサウンドの積みが得意。で、僕と奥田が曲を作る。バンドの中ではドラムの小松が編集者というか、審判になってくれて、意見したりするから。僕がインタビューや本を書いたり、メディアに出る回数は多いから主導してる感じで伝わってますけど、実際NONA REEVESに関しては、3人完全に平等ではありますね。

橘:なるほど。僕も同じグループに自分みたいな性格の人がもう1人いたら多分続いてないだろうなって思いますね。曲に対しては引くくらいのわがままなので。スネアの音色1個違うと気に入らないとか。なんでこの曲にこのスネアの音なのかとか。

西寺:でもそれで判断の速度が速いならいいですね(笑)。僕は、決断が速い人が大好きなんですよ。自分も速いんですが、日本で色んな人が絡んでちゃんとCDを作ったり宣伝しようとするとどうしてもレコーディングからリリースまでも含めて遅くなっちゃうので。

橘:そうなんですよね。速くどんどん出せるっていうのがすごく大切。海外の人たちはみんな早いですもんね。

西寺:それで塵も積もればじゃないけど、どこでどの曲を誰が気に入ってくれるかわからないのが今の時代なのかなと思ってて。

橘:まさに。海外でも月に1曲新曲を出たりしてる人がいるので、そういうことをやりたいなってずっと思っていて。僕も速度を上げるためにどうしたらいいんだろうっていうのはこの1年ずっと悩んできました。だからこそDAWをPro Toolsにして、そのままバウンスしないで曲を出せたりしたら速くなるのかとか。色んなソフトやプラグインも使って自分でプリセットを作って効率を上げることはずっと課題としてやってますね。少しでも速く曲が作れるように。

西寺:打ち込みばかりの世界からちょっと出てトライしたいというのはないんですか? 例えばブルーノ・マーズ、マーク・ロンソン、なんでもいいんですけど、生演奏と打ち込みの融合みたいなものもリスナーとしては聴くんですよね。

橘:めちゃくちゃ興味あります。でも、僕、人と一緒に曲を作ると気を使っちゃう節があって。「これどう?」って言われてダメって言いづらいんですよね。

西寺:え? わがままなのに? w-inds.は3人とも結局「ザ・いい人」ってこと?(笑)。

橘:(笑)。仲良くなればいいんですけど、よろしくお願いしますみたいな状態だと言えないんですよね。あと自分の方が上手いことに関しては意見を言えるんですけど、自分の方が劣っていると思った瞬間に言えない。だから例えばスネアの音色とかだと、音色の選び方は絶対自分の方が詳しいだろうなと思うとそのスネアじゃないよって言えるんですけど。ギターのプレイになって自分より上手いギターを弾いてる人に対して、それちょっと違うなって意見して、お前やってみろよと言われたらどうしようみたいな。もちろんそんなことにはならないんですけどね(笑)。でも、そういう気持ちになるんじゃないかなとか思っちゃうと言えないんです。それがひとつ自分の中の課題というか嫌な部分ですね。

西寺:その話に通じることでもあるかもしれないけど、実は僕は、今回の対談は難しいなって正直思ってたんですよ。デビュー年で考えれば大した差はないんだけど、年齢的に12歳も年上のプロデューサー、ミュージシャンである西寺郷太がw-inds.の慶太さんと初めてちゃんと話す。そうなった場合、「作詞も作曲も、ミックスもやるなんてすごいなぁ」っていうことに結局集約されてしまうんじゃないかなって。でも普通にミュージシャン同士で会った時に、全部演奏してても曲を作ってても「すごいなぁ」とは言わないじゃないですか。当たり前というか。

橘:それはそうですね。

西寺:だから今も、本当は慶太さんに対して「音楽ちゃんと作っているなんて、すごい」と言うのはかえって失礼なことだなって思ってるんです。だけどw-inds.として歌って踊ってるのを小さい時から見ていて、それで途中から曲を作り始め、打ち込んでミックスもしてるなんて改めて聞くと、ね……。デビューが早い分、幼い頃のことがなんとなくみんなのイメージにあって、その先入観をぶち壊しながら今違う道を歩んでることに対して、やっぱり結局「すごい!」と思ってしまうというか(笑)。なかなか歌録りやミックスまでやる人って少ないから(笑)。一種の筋トレと同じというか音楽的スキルをストイックに追い込んで、学んで。全部自分でやることでしか証明できないことが慶太さんなりにあったんだと思うし、w-inds.のここ数年の活動は日本の音楽界にとっても絶対必要なプロセスだったんだろうなと思っています。

 でも、またマイケルの話でいうと(笑)、マイケルには、「Billie Jean」「Don’t Stop ’Til You Get Enough」「BAD」みたいな自作曲もあれば、ロッド・テンパートンが作詞作曲した「Rock With You」や、テディー・ライリーと組んだ「Remember The Time」のような曲もある。自分で仕切る曲と、いろんな人とうまくコラボレーションする曲とがいいバランスで組み合わさればいいなぁ、とは、w-inds.に対して思うことかもしれませんね。例えば、今ご自身でやってるミックスなんかもいろんな人のものと混ぜていくとか。そういうことでまた違った最強につながっていくんじゃないかなと思いました。まだ全然「w-inds.」物語は途中なんだろうなっていうのを感じるし。

橘:ありがとうございます。まさかそんなにw-inds.のことをしっかり考えてくれていたとは(笑)。

西寺:いやいや(笑)。まぁ、でも色んな人から楽曲をもらい、プロデュースされることはひとしきり経験されましたもんね。慶太さんのソロ曲もだいぶ前ですけど聴いたことがあって。その時にも慶太さんの歌がすごいなって思った記憶があるんですけど、R&Bシンガーに徹してやってましたよね。

橘:いつでもその時いいと思ったものをやりたいだけなんですけど、僕はとにかくいろんな曲が好きすぎて、どうしたらいいんだろうって思う時はちょっとあります。グループはこれ、ソロはこれってできればいいのかもしれないですけど。

■1985年生まれの世代がポップスを変えていく?

西寺:そう言えば、ちなみに慶太さんって1985年生まれですよね? ブルーノ・マーズと同い年だし、Queenの映画『ボヘミアン・ラプソディ』でまた注目されている『ライブ・エイド』があった年だし、「We Are The World」も出て。85年ってすごく「いい年」なんです。

橘:すごい出てくる。さすが(笑)。

西寺:『ウィ・アー・ザ・ワールドの呪い』っていう本で85年にいろんなポップスの歴史が変わったっていうことを書いてるんですけど、85年までは“みんなが好きなポップス”、共通認識というものがあったんです。84年のクリスマスに、バンドエイドっていうイギリスのアーティストが集まったアフリカを救済するプロジェクトが「Do They Know It’s Christmas?」を発表して、そのムードがアメリカにも伝播したのが85年で。85年の1月にレコーディングされたのが「We Are The World」。85年の夏に世界をひとつにした祭典『ライブ・エイド』なんです。でも、皮肉なことに85年はヒップホップがロックやポップスを抜かして、オーバーグラウンドになっていく飛躍の年でもあった。だからブルーノ・マーズが85年生まれだと聞いた時に、85年生まれの彼がヒップホップを取り入れながらも、老若男女をひとつにするポップスをまた戻しに来てくれたんだと思いましたね。だから、個人的に85年生まれの世代ってすごいって思ってます。

橘:僕は多分そこの枠ではないと思う(笑)。

西寺:完全にその枠でしょう!(笑)。それくらいすごいことをやってますもん。

橘:その枠はちょっと恐縮しちゃいますね(笑)。

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