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『いだてん』中村勘九郎から阿部サダヲへ、役所広司から松坂桃李へ つながり続けるスポーツへの情熱

リアルサウンド

19/12/2(月) 12:30

 12月1日に放送された『いだてん~東京オリムピック噺(ばなし)~』(NHK総合)第45回「火の鳥」。第1回から続いてきたスポーツに向き合う人々の情熱がつながる粋な演出が印象的な回となった。

参考:『いだてん』“俺たちのオリンピック”はどこにたどり着く? 美談だけにはしない“危うさ”も描く面白さ

 まず1つ目の粋な演出は、金栗四三(中村勘九郎)が手渡した日本地図だ。聖火ランナー最終走者に立候補するため、岩田(松坂桃李)の前に現れた四三。「田畑(阿部サダヲ)さんに、これば」と四三が手渡したのは、四三が走った日本全国の記録だった。

 ベルリン五輪に参加できなかった四三は、その悔しさを糧に日本全国を駆け抜け、「もう、日本に走る道はなか」と発した。四三は3度オリンピックに出場するも、不本意な結果に終わっている。けれど、彼の走ることへの情熱が、日本全国を駆け巡る聖火リレーの道筋へとつながったのだ。

 次に印象的だったのは、次々と独立を果たしたアフリカ諸国を東京オリンピックに招待するため、自らアフリカ諸国へ赴いた岩田の姿だ。オリンピックの趣旨を説明するために、コンゴ共和国へやってきた岩田は、「オリンピックはスポーツと平和の祭典です」とフランス語で説明する。

 その姿に重なるように映し出されたのは、フランス大使にオリンピックと「paix(ペ)=平和」の説明を受ける嘉納治五郎(役所広司)の姿だ。治五郎が田畑に託したストップウォッチとpaix(ペ)の概念は、田畑から岩田へ、そして新たな参加国へと受け継がれていく。「どんな国でも、1人でもスポーツマンがいれば参加資格がある」と田畑は言った。日本もかつては金栗四三と三島弥彦(生田斗真)の2人だけで参加していたのだ。第1回からの時の流れが胸を打つ。

 そして忘れてはいけないのが「東洋の魔女」と呼ばれた女子バレーボールの再始動だ。世界選手権で宿敵ソビエトを下し、世界一となった日紡貝塚女子バレーボールチーム。全国民が東京オリンピックでの金メダルを期待した矢先、監督の大松(徳井義実)が辞意を表明した。

 世界一になり、“燃え尽き症候群”となった大松。大松は田畑の前で「青春を犠牲にして、いたずらに婚期を遅らすのはどないやねん」と選手たちへの思いを話していた。だが後日、田畑と対峙した大松はこうも発した。

「俺がやるて言うたら、あいつらはついていくって言いよんねん!あと2年、大事な青春の全てを全部犠牲にして、ついてきよんねん!」

 選手たちの将来を思うと「ついてこい」とは言えないと話す大松。そんな中、主将・河西昌枝(安藤サクラ)が口を開いた。

「青春を犠牲にして……そう言われるのが一番嫌いです!だって……これが私の青春だから!」
「私たちは青春を犠牲になんかしていない!」

 河西を筆頭に、自らの思いを口にする選手たち。選手たちの意志は、大松の心を動かした。

 選手たちは「自分のため」に戦うことを決めていた。「国のため」ではなく「自分のため」に。そんな選手たちの姿を見て、田畑は「変わったよねえ」と口にしたが、菊枝は「変わったんじゃない。変えたんです」と言った。彼女たちの意志は「変えようとする者」から引き継がれたものだ。スポーツに情熱を掲げたシマ(杉咲花)、たった一人で陸上を駆け抜けた人見絹枝(菅原小春)、「がんばれ」を背負いながら泳ぎ続けた前畑秀子(上白石萌歌)。

 彼女たちによって敷かれたレールを、選手たちは走り、また次の人々へとつなげていく。人見の「私は、走ることが大好きです!」という言葉が思い出される。河西の「私たちは青春を犠牲になんかしていない!」という懇親の叫びは、シマ、人見、前畑ら、スポーツを愛した人たちと同じ、スポーツへの情熱に満ち溢れた台詞である。

 「いだてん紀行」に出演した東洋の魔女メンバー・谷田絹子氏は「『勝ってよかったね』ってみんな喜んでくれているけど、あんたのためやない、自分のためやって」と言った。

「人のために、できますか?」と。

 四三も田畑も「国のため」というプレッシャーや責任に押しつぶされる瞬間はあったが、彼らもまた「自分のため」だからこそ情熱を掲げることができた。

 第1回からつながり続ける、人々のスポーツへの情熱。最終回まで残りわずかだが、この情熱が「いだてん」のように駆け抜けるのだと思うと胸が高鳴る。(片山香帆)

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