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ムーンライダーズ、圧巻のバンド演奏で聴かせる瑞々しいパフォーマンス 40周年迎えた『カメラ=万年筆』再現ライブレポート

リアルサウンド

20/9/4(金) 18:00

 今ではすっかりおなじみとなった「名盤再現ライブ」だが、まさかこのアルバムで聴けるとは夢にも思わなかった。

 ムーンライダーズ、1980年発表の5作目『カメラ=万年筆』。当時、従来のロックや既存の概念を打破し、新しいものを生み出そうとして世界的に大流行したニュー・ウェイヴの影響を強く受け、「とにかくトガったことを」という題目のもとで制作された作品である。サンプリングやポストプロダクションなどのデジタル技術がない時代に、アイデアと演奏技巧の限りを尽くして作ったアバンギャルドな音像は、初期の傑作として今に至るも人気が高い。

 その『カメラ=万年筆』の発売40周年を記念しての祝祭、2016年から活動休止中のムーンライダーズにとって実に4年ぶりとなるバンド単独のスペシャルライブは、折からのコロナ禍により無観客の配信ライブとして行われることになったのだった。

 開演時間、ステージ袖に静かに佇む鈴木慶一の映像はモノクローム。まさに『カメラ=万年筆』の世界観を司るヌーヴェルヴァーグ映画のような雰囲気で、彼の佇まいや面差しに、結成45年の時の重みを見る思い。

 メンバーはステージではなくフロアに、お互い向き合う形で輪になっており、袖から歩いてきた慶一がそこに加わる。円環が完成しただけで早くも熱くなる胸。今夜は観客に向けてのライブでもあるけれど、それ以前に、何よりも各々が「ムーンライダーズ」としての演奏を愉しむためのライブなのではないか、そんなことを感じさせるポジショニングである。

 フリースタイルのインプロ~「地下水道」を経て、アルバムのオープニングナンバー「彼女について知っている二、三の事柄」が始まった。疾走感のあるビートが久々にムーンライダーズのライブを見る感激をさらに盛り立てる。

 曲の終盤には中央にバケツが置かれ、中の水を鈴木博文が繰り返しすくい、パシャパシャと音を鳴らす。アルバムにも同様の音色が使われていたが、その水音が演奏と絡み合う様を目の前で見るのはなんともシュール。11曲目「ロリータ・ヤ・ヤ」の前にも登場したこのバケツは、2013年に亡くなったメンバー、かしぶち哲郎がかつて演奏に使用するために所望し買ったものだそうで、ここもファンにとってはたまらなくグッとくるポイントだったと思う。

 全体的に、無観客ということもあるのか、音の響き方が通常とは異なり、各々の出している音がすごくクリアに聴こえるのが興味深かった。

 特に「無防備都市」や「太陽の下の18才」では白井良明のギターが極立って聴こえたのだが、幾何学的なフレーズが主メロと関係なく暴走しまくる様は圧巻の一言。他のメンバーの演奏も自由を極めたような闊達ぶりで、こんな音像をバックにボーカルはよく歌えるな、と改めて思ったりも。『カメラ=万年筆』は40年前の作品だけれど、そのスピリットたる“トガり”は今もって健在にして有効。ヤケドしそうな奇天烈さである。

 「超絶技巧のニュー・ウェイヴ」というと語義矛盾のようだけど、本当にこのバンドは演奏が巧い。巧い人たちが本気を出して変なことをしようとしたら、それすなわち無双なのは当たり前の話なのだ。

 6曲目「インテリア」に移る前には、これまた奇天烈な「ウェアオー」というコーラスを全員で行い、慶一が掃除機を持ってそれぞれの声を吸いに行くという、いかにもニュー・ウェイヴ(というか前衛!?)っぽい演出もあった。そうかと思うと後半にはマスクをつけたメンバーが咳き込んだり息をあげたりする、まさに「今様」なパフォーマンスもあり、過去と現代の心象が縦横無尽に交差する。

 音楽界でのポジションからいってもムーンライダーズはもっと老獪な手堅さを前面に出してもいいはずなのに、彼らの関心事は常に「今」だから、いつまで経っても瑞々しい。

 8曲目の「幕間」ではムーンライダーズとゆかり深い佐藤奈々子がスペシャルゲストとして登場。赤いドレスに身を包み、変わらぬアンニュイなウィスパーボイスで詩を朗読した。妖艶なエロキューションの中にも純粋さが滲む声は耳に心地よい。アルバムでは電話越しの声が録音されていたが、この日のボーカルパートは生歌唱で、13曲目の「欲望」では慶一とのデュエットも披露した。

 個人的に最も心揺さぶられたのは、武川雅寛がボーカルをとる「水の中のナイフ」。この日は病気の影響もあってか、声に往時のような調子はなかったけれど、彼が歌う姿は、どんな技量をも凌駕する力と熱さに満ちていて、命の輝きを感じた。チャットルームを見ると同じ感想を抱いたファンが多かったようで、温かい声援が次々に飛んでいた。

 彼とバンド内ユニット「ガカンとリョウメイ」をやっている良明が、ギターソロを弾きながら武川に笑顔で目配せしている様子も胸熱。

 合間にはメンバー同士が和やかに会話する時間もあり、各々が久しぶりのライダーズを楽しんでいることが伝わってくる。その中でドラムスの夏秋文尚が着ているジャケットが、鈴木慶一が40年前に着ていたものだということが明かされたりも(ご本人は今は着られないそうです)。

 ミニコント(ボケて同じメンバーの紹介を何度も何度も繰り返す)もぶっ込んだラストには、ボブ・ディランの「Subterranean Homesick Blues」のMVのごとく、慶一が告知の書かれた画用紙を順繰りに見せていく。そこにはニューアルバムを制作すること、および10月31日に中野サンプラザでワンマンライブを行うことが書かれており、思わず叫んでしまった。

 来年リリースされれば、『ciao!』以来、10年ぶりのアルバムとなる新作の内容は慶一曰く「ポストパンクかな」だそうで、実験精神溢れるものになりそうな予感だ。

 いつでも「今」に従事して来たバンドが、このディストピア感溢れる現代に、どのようなサントラをつけてくれるのか、楽しみでならない。

■美馬亜貴子
編集者・ライター。元『CROSSBEAT』。音楽、映画、演芸について書いてます。最新編集本『ビートルズと日本〜週刊誌の記録』(大村亨著/シンコーミュージック刊)が発売中。

■セットリスト
ムーンライダーズ Special Live『カメラ=万年筆』
2020年8月25日(火)東京・渋谷クラブクアトロ
01.彼女について知っている二、三の事柄
02.第三の男
03.無防備都市
04.アルファビル
05.24時間の情事
06.インテリア
07.沈黙
08.幕間
09.太陽の下の18才
10.水の中のナイフ
11.ロリータ・ヤ・ヤ
12.狂ったバカンス
13.欲望
14.大人は判ってくれない
15.大都会交響楽

出演:ムーンライダーズ
(鈴木慶一/岡田徹/武川雅寛/鈴木博文/白井良明/夏秋文尚)
ゲスト:佐藤奈々子
演出:ムーンライダーズ/石原淳平(DIRECTIONS)

■関連リンク
ムーンライダーズ 公式Facebook
ムーンライダーズ 公式Instagram
ムーンライダーズ 公式Twitter(@moonriders_net)

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