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『スカーレット』の“生々しさ”はいかにして生まれた? 制作統括&チーフ演出が語る制作の意図

リアルサウンド

20/1/6(月) 6:00

 年末年始の放送休止期間を挟み、本日1月6日から再スタートとなるNHK連続テレビ小説『スカーレット』。12月の放送では、喜美子(戸田恵梨香)と八郎(松下洸平)の結婚、2人の子供の誕生、父・常治(北村一輝)の死まで怒涛の展開で描かれた。

 視聴者からも“生々しい”“リアル過ぎる”など、称賛の声が送られている本作だが、その理由は一体どこにあるのか。制作統括の内田ゆき、チーフ演出の中島由貴の両名に、『スカーレット』に込めた思いから、制作の裏側まで話を訊いた。

参考:『スカーレット』における“料理”の役割とは? 細部までこだわり抜かれた生活のリアル

●「“生活者としてのリアリティ”は絶対に失いたくない」

ーー内田さん、中島さんは2017年に放送されて人気を博した『アシガール』でもタッグを組んでいます。今回の『スカーレット』はどんな形で企画がスタートしたのでしょうか。

内田ゆき(以下、内田):「2019年度後期の“朝ドラ”を担当する」ということだけは先に決まり、誰に脚本をお願いするか、どんなお話にするかは何も決まっていませんでした。“朝ドラ”を手がけるのであれば、主人公の青春時代から50代頃までしっかりと描きたいという思いがまずありました。そこで、女性の生き様を描くことでは定評がある水橋文美江さんに脚本をお願いできればと。ご連絡したらすぐに「やりたいです!」と言ってくださり、本当に感動しました。

――水橋さんとは「好きな作品の傾向が同じ」と別のインタビューで語っていましたが、具体的にはどんなテーマの作品だったのでしょうか。

内田:スケールの大きいお話というよりは、小さいコミュニティの中で少しずつ変化が起きていくようなお話ですね。不完全な人たちが善意を動かすことによって、幸せが生まれていくような。水橋さんはそういったお話は作るのは非常に難しいと語っていましたが、『スカーレット』は最初に共有したイメージ以上のものを作り上げてくださっています。

――確かに『スカーレット』は怖いぐらいの“生々しさ”を感じるシーンが随所にあります。本作のそういったトーンは演出チームでも意識されているのでしょうか。

中島由貴(以下、中島):“生活者としてのリアリティ”は絶対に失いたくないと思って制作しています。作品によっては、「この人たちはいったいどんな生活をしているんだろう」と思ってしまうものがあります。また、ヒロインに関してもお姫様のように扱われて、周りの登場人物が引き立て役だけになるようなことにはしたくありませんでした。視聴者の皆様と同じ目線にこのドラマの世界はあると思ってもらえるように心がけています。

 水橋さんの脚本は、単に台詞が書いてあるわけではなく、細かくト書きで「何々しながら~」と書かれていることが多いんです。やっぱり私たちの生活でも、誰かと話すときに棒立ちでまっすぐに向かい合って話すのではなく、洗濯物を畳んでいたり、何かを見ていたり、料理していたり、みんな「何かをしながら」が多いと思うんです。なので演出部としては、そういった何気ない動きを役者の皆さんにも気にしてもらうようにお願いしています。何より水橋さんが生み出す言葉のひとつひとつが本当に強度のあるものなので、それが視聴者の方々にも“リアル”と感じてもらえているんだと思います。

――喜美子は本格的に陶芸家への道を歩み始めましたが、“女性陶芸家”を題材にすることは水橋さんとの話し合いの中で決まったのでしょうか。

内田:歴代の朝ドラヒロインはさまざまな職業に就いてきましたが、自分の手で何かを生み出す女性を今回は描きたいという思いがありました。いろんな物作りの職業の中に、信楽の陶芸がありました。実際に取材をさせていただくと、“手”から力が伝わり作品となっていくんだなと実感したんです。映像的にも地味なようで、“何かを生み出す”という点においてかなり説得力があるのではないかと。そして何ができるか分からない面白さもあります。それは人生とも似ていますよね。思っていたものと違ったものが生まれたとしても、決してそれは失敗ではない。加えて、タイトルにもしているように、炎のイメージが主人公の生き様と重ねればいいなと思い、この題材となりました。でも、実際に撮影に入ってみたら予想以上にいろいろと大変で、演出陣は日々大変な思いをしています。

中島:喜美子や八郎が作る陶器は撮影のために新たに作ってもらっています。大体2週間は制作期間としてかかるので、撮影の前に早め早めに準備をしないといけません。台本と照らし合わせながら、このシーンを撮るためにはどれだけ前に陶器が完成していけないか、日々確認しています。

――八郎が陶芸展で入選した作品もゼロから作られていたものだと。

中島:そうですね。現時点で喜美子と八郎が作っているものは基本的に、ドラマのために新たに作ってもらったものです。だから陶器が出てくるシーンでは、ゼロからデザインも考えないといけないですし、絵付けなどもしなくてはいけない。陶芸指導、絵付け指導の先生方には、本当に多大な協力をしていただいており、日々感謝しています。

●理不尽な世の中にどう立ち向かっていくか

――ここまでの『スカーレット』を振り返ると、喜美子が最短距離で陶芸家の道を目指すのではなく、個性豊かな登場人物たちと出会う「荒木荘」パートが非常に大きな役割を担っていたんだと感じます。

中島:幼少期から陶芸家になるきっかけは随所に描いていましたが、一足飛びに「陶芸やりたい!」となるのではなく、いろんな人たちとの出会いによって初めて夢が生まれるということを大事にしたいと考えていました。今後は喜美子が陶芸家として一人前になっていく展開ではありますが、それと同時に人間としての成長も描かないと意味がないと思っています。荒木荘パートでは、芸術的な陶芸に繋がる要素はほとんどありませんでしたが、喜美子の人間修行期間として重要な位置づけでした。

ーー荒木荘といえば、視聴者からも反響が大きかったのが大久保さんを演じた三林京子の存在です。

中島:三林さんは会った瞬間に「あ、大久保さんがいる」という感じでした。フカ先生役のイッセー尾形さん、草間役の佐藤隆太さんも、「この人しかいない」というキャスティングでした。水橋さんの台本の力が大きいのはもちろんですが、俳優さん自身の人柄や雰囲気がそのままキャラクターと合致してくれました。“演出をする”というよりも、俳優力を信じる方に重きを置いています。

内田:“朝ドラ”はどの作品でも“人との繋がり”が描かれてきましたが、本作では横の繋がりと同時に縦の繋がりをしっかり描きたいという思いがありました。上の世代から受け取ったものを今度は下の世代に渡していく。草間さん、大久保さん、フカ先生と、師匠が入れ替わり立ち替わりやってきて、喜美子に何かの影響を与えていく。そして次は喜美子が陶芸家として、母として次の世代に伝えていく。水橋さんには縦のつながりのイメージだけをお伝えしていたのですが、個性豊かなキャラクターたちによって見事に物語として組み込んでいただきました。

――一方、前半戦の『スカーレット』では、喜美子は家計を支えるために進学を諦めたり、大阪で夢を掴んだと思ったら信楽に戻ることを余儀なくされたり、非常に苦しい部分も描かれていました。近年の“朝ドラ”が「家を飛び出て自分の夢に邁進する」という展開だったこともあり、余計に際立っていたように思います。

内田:誰だって家族に温かさを感じることもあれば、自分を束縛する存在と感じることはあると思うんです。そういった束縛があるからこそ、子供から大人へと成長できるわけでもあるので。

 瞬間だけを切り取れば、父・常治も母・マツ(富田靖子)も喜美子を信楽に縛り付ける存在に見えたかもしれません。でも、根底には喜美子への揺るぎない愛情がある。常治の横暴な振る舞いも、マツが常治の言うことに異を唱えないことも、“家族のために”が第一にあるからなんですよね。今の時代の私たちからすると違和感がある部分もあるかもしれませんが、それを含めてこの時代をリアルに描きたいという意識はありました。

中島:喜美子がそうだったように、理不尽なことは世の中にいっぱいあると思うんです。それでも喜美子は家の外に彼女を支援してくれる人たちがいて、さまざまなことを学ぶことができた。常治は喜美子に向けて、「女は学など必要ない」ということを度々言いましたが、常治の言葉はそのまま“世間の言葉”でもあったわけです。そんな理不尽な世の中にどう立ち向かっていくのか、乗り越えていくのか、それを描くことが“朝ドラ”の重要な点だと思っています。喜美子も家を飛び出て父を非難するのではなく、いつも対話をして、ちゃんと和解していく。常治は素敵なお父さんとは言えないかもしれませんが、そんな父を受け入れ乗り越えていく喜美子の姿を見ていただきたいですね。

●想像を超えていた戸田恵梨香の演技力

――常治の死は今後の喜美子にどんな影響を与えるでしょうか。

内田:常治が亡くなることによって、喜美子の中で劇的な変化が訪れるわけではありません。ただ、「お父ちゃんが言うんだからしょうがない」と諦めることができたものも、今後はなくなるわけなので、本当の意味で大人になっていくといえると思います。

――戸田さんは15歳から喜美子を演じていますが、年齢にともなう変化はどのように相談されているのでしょうか。

中島:年齢が大きく変わるたびに衣装合わせやメイク打ち合わせをして、その都度話し合っています。最初は15歳だったので、ちょっと太ってほしいなと思っていたら戸田さん自ら体重を増やしてきてくれました。そこから年齢を重ねるにつれてまた落としていって。戸田さんご自身が喜美子と同じようにすごく努力家な方なので、撮影を重ねるごとにその姿が喜美子の成長と重なっているように感じます。

 本作のオファーを決めた時点で戸田さんには信頼を寄せていましたが、その想像以上の演技をここまで見せてくれています。戸田さんは喜美子という人間を熟知して、自分を美しくみせようということを一切しないんです。喜美子の髪型にしても、乱れなく1日中過ごしているなんてことはないからもっと乱れているほうがいいんじゃないか、と彼女から意見を言ってくれます。衣装に関しても、喜美子は働く女性だからもっと動きやすいものを選んでいるはずだと。ここまで客観的に自分の役を見て意見を言える方はめったにいません。

――陶芸も吹替なしで戸田さんご自身が行っているんですよね。

中島:陶芸指導の先生方もお世辞抜きで褒めています。実際、相当練習をして望んでくれているので、彼女のプロ意識があるからこそなんですが。先程“生々しい”と言っていただきましたが、「戸田恵梨香が陶芸をしている」ではなく、「喜美子が陶芸をしている」と見ていただけるからですね。

――『スカーレット』後半の注目ポイントとして、『アシガール』コンビの伊藤健太郎さんと黒島結菜さんが登場します。

内田:2人を選んだのも『アシガール』で一緒に仕事をしたからというわけではなく、いまの2人に挑戦していただきたい役が『スカーレット』でたまたまあったというだけです。2人とも『アシガール』とはまったく違う役柄なので楽しみにしてもらえればと思います。

中島:特に黒島さんは個性的な役柄になっています。『アシガール』では高校生を演じていた黒島さんが、大人の匂いが香る女をどう演じるのか。その点、期待してもらえたらと思います。

――2人の登場が楽しみです。最後に後半の見どころを教えてください。

内田:喜美子が本当の陶芸家にどのようになっていくのか、そこが一番の見どころだと思います。また、陶芸家として成功した後の喜美子の人生にも注目していただけたら。何かを成し遂げてもそれで終わりではなく、また谷があって山があって、またそれを残り超えて……と。伊藤健太郎さん演じる息子との関係性も含めて、中年の女性の人生模様をしっかりと描きたいと思っています。

(取材・文=石井達也)

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