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「本物の○○を食べさせてやる」 『美味しんぼ』山岡士郎、権力者を唸らせた料理4選

リアルサウンド

21/1/22(金) 10:00

 『美味しんぼ』の代表的な場面に、山岡士郎が出された料理に苦言を呈し、「○日後、本物の○○を食べさせてやる」と啖呵を切るシーンが一種の名物として定着している。その後山岡が「本物の料理」を紹介し、相手を唸らせるのだ。そこで今回は代表的な「山岡の啖呵」と本物の料理を振り返ってみたい。

アンキモ

 究極のメニュー担当者となった山岡と栗田は、大原社主から会食に呼び出される。そこには食通といわれる作家、食味エッセイスト、料理学校校長などが勢揃い。

 食通たちは「フォアグラを究極のメニューに加えるべきだ」と主張し、山岡に意見を求めるが、「日本の食通と奉る人間は滑稽だねえ」「外国人が上手いって言うからその尻馬に乗ってありがっているけど、有名ブランド商品をありがたがるのと同じ。中身じゃなくて名前をありがたがってんじゃないの?」と山岡が啖呵を切る。

 1人の食通から「君は私たちがフォアグラの味がわかるのかと言ったな。じゃあ君はわかるのかね?」と忠告を受けた山岡は、「一番美味しいと思うフォアグラを用意しな。それより遥かに美味いものを食わせてやる」と再び啖呵を切り、「じゃあ1週間後」と去っていってしまった。

 山岡が向かったのは茨城県の那珂湊沖。船に乗り、あるものを獲ろうとするが、なかなかうまく行かず、漁師たちは「季節が違う」とあきらめムード。しかし山岡は「海の中に叩き込むぞ」と気合を入れる。

 その後ようやく目的だった季節外のアンコウが釣り上げられる。山岡は自慢の包丁さばきでアンコウの肝を取り出し、会食場へ。アンキモを見た食通は「くだらない」「大笑いだ」とバカにするが、東西新聞社のメンバーはそれを食べると「フォアグラよりも美味しい」と絶賛した。

 山岡が「病的に育てられたフォアグラより、とれたばかりでその場で調理したアンキモのほうが美味しい」と説明する。しかし食通たちは「フォアグラは世界が認めた」と譲らない。その様子を見た大原社主は「食通の先生方には新しい美味を発見する気構えが見受けられない」として、「究極のメニューは君と栗田くんでやりたまえ」と方針を転換した(1巻)

 このエピソードは山岡が権力者に暴言を吐き、後に本物を食べさせる最初の回となった。そのせいか、後に発売されたファミコン版『美味しんぼ』でこの話が採用され、警察官相手に「アンキモ、アンキモ、アンキモ」と叫びゲームオーバーになってしまう描写がある。

野菜

 栄商グループの板山社長が出店したニューギンザデパートを訪れた山岡と栗田。生鮮食品コーナーでトマトをかじりポイ捨てすると、大根を2つに割って食べ、「見てくれだけか」と言って捨てた。その後レストランコーナーにもクレームを付けた山岡は板山社長を怒らせてしまい、栄商グループは東西新聞社への広告出稿をストップしてしまう。重役から絞られた山岡は、「今更俺をどうしても仕方がないでしょ」と話し、板山社長の元へ向かう。

 高級車に乗り込もうとする板山社長に「あんたが金も力もない一匹狼だった頃、巨大な金の力と権力を振り回して得意になっている人間に対してどんな気持ちを抱いていたか覚えていますか?」と声をかける。そして「野菜の活造りをご馳走したい」とし、農場へと車を向かわせた。

 山岡はここでもぎたてのトマトを振る舞い、続けて土から抜いてすぐの大根を食べさせる。味の違いに驚く板山社長に、山岡は「お宅のトマトはまだ青くて熟していないときに積まれたものです。長い流通経路を経て店頭に並んだ時に赤くなるために」「野菜は土から出たら死ぬ」と説明する。

 それを聞いた板山社長は「儲けのヒントを掴まされてもらった」ととんぼ返り。デパートの生鮮品を土から出てすぐに流通し販売するシステムを構築し、生鮮食品コーナーは大人気になった。この後、板山社長は山岡の能力を高く評価し、懇意となり、お互いに助け合う関係になる。(1巻)

 大会社の社長に怯まず立ち向かい、話をつけて納得させた山岡。その度胸は素晴らしいものがあった。

シマアジ

 日本最大の電機メーカー大日エレクトロン黒田社長の別荘に招かれた東西新聞社の谷村部長、山岡、栗田。黒田社長は料理が趣味で、得意先に加え自社の成績優秀者を招き、腕を披露する。巨大ないけすからシマアジを取り出した黒田社長は、見事な手際で魚を下ろす。しかも丸形になった調理場が回転し、双方向から捌く様子が観覧できるという演出までついていた。

 味見をした成績優秀者の子供は、社長に感想を聞かれると「ちっとも美味しくない」と「三崎のおばあちゃん家で食べてるからわかる」などと正直に答えてしまう。社長は成績優秀な父親に「会をぶち壊してくれた」と怒る。ここで山岡が「その子の言うとおりですよ、このシマアジはちっとも上手くない」と断言。怒る黒田社長に「本当に美味いシマアジを持ってくる」と啖呵を切った。

 山岡は三浦半島の三崎に向かい、魚屋でシマアジを見かける。するとすぐに購入意思を見せ、活け〆にするよう頼む。栗田はこれを見て、「生きているシマアジに死んだシマアジは敵わない」と強行に反対をする。山岡はその発言に耳を貸さない。

 そして黒田社長の調理場に戻った山岡は活け〆にしたシマアジを振る舞う。「死んでいるシマアジが美味いはずがない」と高をくくった黒田社長だが、出席者の評価は死んだ山岡のシマアジのほうが美味しいというもの。

 山岡は黒田社長のいけすに入ったシマアジがエサをもらっていないことを指摘。餌を与えられず痩せ細っていたため、鮮度が落ちていたのだ。黒田社長は素直に非を認め、「まずい」と指摘した子供にディズニーランドの招待券を贈ったのだった(2巻)

 子供の窮地を救った山岡の行動と、非を素直に認めた黒田社長。どちらもアッパレであった。

古酒

 究極のメニューについて文芸評論家の古吉に取材することになった山岡と栗田。根っからの酒好きで、ウォッカやバーボンを好んでいる古吉だが、日本の酒にはスピリッツがない。だから日本にはロクな文学がないと憤りを見せる。

 古吉はアルコール度数40度以下の酒はスピリッツがないと豪語。山岡は「沖縄の泡盛がある」と話すが、それも否定した。すると山岡は「酒を文学に例えていながら、酒についての知識がこの程度じゃあんたの文芸評論家としての底が見えたな」と啖呵を切る。

 さらに「西洋かぶれのインテリは情けないぜ」と追い打ちをかけると、怒った古吉は東西新聞社に圧力をかけ多くの作家に執筆拒否を強要した。大原社主に叱られた山岡は「あのおっさんの酔いを覚ましてやる必要がある」と、沖縄行きを提案。沖縄では、山岡が「東西新聞社をクビになった」としてタクシー運転手になり、泡盛の酒蔵へと向かう。

 酒蔵で100年寝かせた古酒を見た古吉はそれでも小馬鹿にしていたが、飲んでみると絶賛。すっかり古酒にハマってしまい、文学なんかやってられないとまでいうようになってしまった。(10巻)

 相手がどんなに権力を持っていたとしても、自説を曲げず味で評価を覆す。山岡の真骨頂だ。

自信と知識、そして目上を恐れない姿勢が魅力

 一見喧嘩を打っているように見える山岡だが、その発言は確固たる自信と知識があってのもの。そして噛み付く人間は、常に自分より権力を持つ人間である。そんな自信と知識、そして目上の者を恐れない姿勢が、読者の支持を集めた要因なのかもしれない。

 

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