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年末企画:小田慶子の「2020年 年間ベストドラマTOP10」 エンタメを提供しつづけた作り手にリスペクト

リアルサウンド

20/12/30(水) 8:00

 リアルサウンド映画部のレギュラー執筆陣が、年末まで日替わりで発表する2020年の年間ベスト企画。映画、国内ドラマ、海外ドラマ、アニメの4つのカテゴリーに分け、国内ドラマの場合は、地上波および配信で発表された作品から10タイトルを選出する。第16回の選者は、ライター/編集者の小田慶子。(編集部)

1.『スカーレット』(NHK総合)
2.『MIU404』(TBS系)
3.『#リモラブ ~普通の恋は邪道~』(日本テレビ系)
4.『麒麟がくる』(NHK総合)
5.『今際の国のアリス』(Netflix)
6.『半沢直樹』(TBS系)
7.『知らなくていいコト』(日本テレビ系)
8.『70才、初めて産みますセブンティウイザン。』(BSプレミアム)
9.『30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい』(テレビ東京系)
10.『光秀のスマホ』(NHK総合)

 「運動会は参加することに意義がある」というような平等主義はどうかと思うけれど、コロナ禍の2020年だけはこう言いたい。ドラマの撮影中断、放送延期や休止が相次いだ状況下で「ショウ・マスト・ゴー・オン」の精神でエンターテインメントを提供しつづけたキャストとスタッフの皆さんはえらい。その苦労に比べれば、自宅という安全圏から皆さんにリモート取材をしていた私なんて、『鬼滅の刃』で逃げを打っているときの我妻善逸のようなヘタレぶりである。お、俺はなぁ、ものすごく弱いんだぜ、なめるなよ……。そんな己の立ち位置と作り手へのリスペクトを忘れないようにしつつ、今年も連続ドラマの中から感動と驚きをくれた10本選ばせてもらった。

1.『スカーレット』

 こんなに不満のない朝ドラは久しぶり! 最初から最後まで飽きずに観られ、毎朝の放送が楽しみだった。陶芸を仕事にした喜美子(戸田恵梨香)が芸術家として目覚め、その自分の業に苦しみながらも力強く生きていく。『みかづき』(NHK総合)でも主人公を欠点も多いが仕事していきたい女性として描いた脚本家・水橋文美江にぴったりのテーマだった。戸田恵梨香は、ここ数年、民放の出演作では当たり外れがあったが、ワンアップした感じあり。彼女が生き生きと演技しているところに、夫役に抜擢された松下洸平が彗星のように現われ、漫才コンビのようなやり取りやエモいイチャラブを繰り広げる。2人の化学反応が楽しかった。息子役の伊藤健太郎も、病に襲われるという悲劇的な役どころを真摯に体現してみせた。役者の表情で語らせる演出もよかったし、「神は細部に宿る」というが、陶芸の手法をしっかり描き、観
ているうちに穴窯や釉薬などの知識が増えたのもうれしかった。『MIU404』とどちらを1位にするか悩んだが、半年という長丁場を持たせた点と、脚本家の内包するテーマが前面に出ていた点でこちらを選んだ。

2.『MIU404』

 今年最もワクワクしながら観た作品。『アンナチュラル』(TBS系)の脚本・野木亜紀子、演出の塚原あゆ子らによる刑事ドラマで、魅力的なキャラクターとリアルなセリフのやりとり、緻密な構成、スピーディーな展開に興奮。海外ドラマのようなこのクオリティで社会問題をも提起するドラマは現状、このチームにしか作れない。そこに今回は綾野剛と星野源がインして積極的に演技も提案し、男女混合チーム的にバランスが取れた作品になった。取材もたくさんさせてもらったのだが、これまでの記事に書けなかったことをひとつ。本作のテーマは最終回での桔梗隊長(麻生久美子)のセリフ「小さな正義をひとつひとつ拾ったその先に、少しでも明るい未来があるんじゃないですか」に込められているのではないか。劇中で描かれる警察組織が保守的であるように、世界はそう簡単に変わらないけれど、伊吹(綾野剛)と志摩(星野源)がそうしたように、ひとりひとりが見いだした正義を成していくしかない。明るい未来をあきらめてはいけない。それは、コロナ禍の今だからいっそう胸に響くメッセージになった。

3.『#リモラブ ~普通の恋は邪道~』

 このドラマには「コロナ禍によく適応したで賞」を進呈したい。他のドラマが回避したマスク着用での演技を敢行し、ニューノーマルの生きづらさを笑いにまで昇華していた。詳しくは最終回後にアップされた記事に書いたので、よろしければご一読を(参考:マスク着用で通した『#リモラブ』が構築した新しい恋愛ドラマの形 ニューノーマルの先駆的作品に

4.『麒麟がくる』

 最終回は2021年に持ち越しになってしまい、果たして主人公の明智光秀(長谷川博己)は「敵は本能寺にあり!」と言うのか、言わないのか? そこが肝心なのだが、期待を込め4位に。ベテラン脚本家・池端俊策らしい小ネタなしの直球の歴史劇で、40歳近くまで歴史の脇役だった光秀は、劇中でも存在感が強くはない。その分、前半を引っ張ったのは道三を演じた本木雅弘、突然の代役で火中の栗を拾った帰蝶役の川口春奈、そして、顔かたちはパブリックイメージの信長と違うのに、今や信長そのものにしか見えなくなった染谷将太。美しく魅力的なキャストと絵画のような映像を見せてくれるカメラ、そして室町とは、戦国とはどういう時代だったのかという歴史観に裏打ちされた物語が見応え充分だった。乱世が収まるときに現われるという麒麟とはいったい何なのか? その哲学的な答えが明かされるのが楽しみ。

5.『今際の国のアリス』

 Netflixのオリジナルドラマは『全裸監督』など題材が内向きのものが多かったが、ようやく世界市場に向き合ったものが出てきた。主人公が渋谷駅のトイレに入った間に世界から人が消えてしまい、無人のスクランブル交差点が映し出される。後半では車が1台も走っていないレインボーブリッジを主人公たちが自転車で渡る。VFXを使っているとしても、こういうスケール感のある“画”が実写ドラマで見たかった。これはいわゆるシネフィルからはスルーされながらも、漫画原作の映画を本気で作り続けてきた佐藤信介監督だから成し得たこと。その佐藤監督と映画『キングダム』に続いて組んだ山崎賢人演じる有栖は、狂った異世界に迷い込み、理不尽にも大切な人たちを失い、それでも優しさを失わずに生き抜こうとする。そんな『鬼滅の刃』とも共通する設定が、どう考えてもたいへんな未来を生きる若い世代にとってはリアルなのかも。

6.『半沢直樹』

 7年ぶりの続編となったが、こんな不思議なドラマは他にない。リアルなビジネス劇のはずが、主人公の半沢(堺雅人)らエリート銀行員は、ヤクザのように怒鳴り合いながら相手を罵倒する。スーツ姿の歌舞伎役者が見栄を切る。LGBTQへの理解が広まる中で時代に逆行するようなキャラが登場。いちいち落差が激しくてクラクラするのだが、パワフルな演技と演出で全部、持っていかれてしまう。負けました。正直、銀行グループ内での抗争は勝手に内輪もめしてくださいという気になったが、後半、半沢が市民代表として私利私欲に走った政界の黒幕を糾弾する場面や、江口のりこ演じる大臣が政治家としての初心に返るところなど、ドラマオリジナルの展開が訴えかけてくることには大いに共感した。

7.『知らなくていいコト』

 雑誌の売り上げが激減する今、雑誌販売のみで大きな利益が出せているのは、新聞やテレビ報道に先んじて政治家の汚職や芸能人の不倫をスクープする取材力を持つ『週刊文春』ぐらいではないか。その文春を連想させる週刊誌の編集部を舞台に、有能な美人記者・ケイト(吉高由里子)のタフな仕事ぶりと、元カレのカメラマン(柄本佑)との間で再燃する恋を描いた。脚本家・大石静によるオリジナル作だけに、先の展開が読めずに最後まで引きつけられた。吉高由里子は本作でお仕事ものの絶対ヒロインに。しばらく『私の家政夫ナギサさん』(TBS系)の多部未華子との2強時代が続きそう。佐々木蔵之介の演じた理想的な編集長、色男モードの柄本佑と元カレを演じた重岡大毅(ジャニーズWEST)の怪演も忘れられない。

8.『70才、初めて産みますセブンティウイザン。』

 70歳の女性が自然妊娠で出産というありえない設定をリアリティのある描写でとことん描き通す本調有香の脚本と演出の本気度がすごかった。原作コミックには出てこない老夫婦の周囲の人々をうまく配し、夫婦だけの子育てのたいへんさも描き出して普遍的な物語に仕上げた。竹下景子が演じるどうしても我が子を生みたいと願う女性の姿に、不妊治療を経験した者としては涙を流さずにはいられなかった。倉本聰による『やすらぎの郷』(テレビ朝日系)が若い女性と恋したいというおじいちゃんのロマンなら、本作はおばあちゃんのロマンなのだ。

9.『30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい』(『チェリまほ』)

 BLコミック原作によるBLファンのための実写BLドラマ。筆者はそう観た。先駆的作品の『おっさんずラブ』(テレビ朝日系)は結局BLにカテゴライズしていいのかどうか分からなくなってしまったし、『ポルノグラファー』(FOD)はBLドラマの初期作品としてはハードすぎた。『きのう何食べた?』(テレビ東京系)は原作からして脱BLを目指したもの。初めて「これはたいへんよくできたBLですね」と安心して楽しませてもらったのが本作だ。内気だった会社員の主人公がスパダリ(完璧な彼氏)な同期の男性から思いを寄せられ、彼と付き合うことになって人間的にも成長するという胸キュンストーリーと、童貞に始まり童貞卒業に終わるというバカバカしさが両立。これぞBLだ。安達役の赤楚衛二は嫌味がなく応援したくなったし、黒沢役の町田啓太は『今際の国のアリス』など、どの作品でもそうなのだが、常に演技がそのジャンルにおける最適解ですごい。加えて柔らかなトーンの映像が内容にぴったりだった。この完成度に仕上げた風間太樹監督に今後も注目したい。

10.『光秀のスマホ』

 最後に圏外から滑り込んできたミニドラマ。あの明智光秀がもしスマホを持っていたら……という“とんでも設定”で、TwitterやLINEを連想させるSNSアプリの中で織田信長家臣団の人間関係が展開していく。その様子はまるで現代のブラック企業そのもの。上意下達を絶対とする日本型組織が健在なのは、私たちがこういう封建社会の呪縛から逃れられていないということなのかもしれない。ナイスなスタンプや送信取り消しなど、メッセージアプリのあるあるも楽しい。よくできているなぁと笑いながらクレジットを確認してみれば、光秀の声を演じたのは山田孝之。脚本は筆者にとって最恐ホラーだった『山田孝之のカンヌ映画祭』(テレビ東京系)の竹村武司。またあなたたちですか……。やられました。

 今年の変化として、メジャーな漫画雑誌の連載作品よりWebコミック発のものが多くドラマ化されるように。『私の家政夫ナギサさん』しかり、『おじさんはカワイイものがお好き』(読売テレビ・日本テレビ系)しかり、『チェリまほ』しかり。おそらくWebの場合、ワンセンテンスで説明できるハイコンセプトと、ギャップの激しいキャラクター設定が必要になる。その手法がドラマ業界にも浸透してきた感があった。例えば『光秀のスマホ』には「戦国武将がスマホを使いまくる」というギャップとわかりやすい物語があるわけで、どうやら受け手である自分もそういうものを欲し、面白いと思うようになってきている。

 10位以内に入れるかどうか悩んだのは『コタキ兄弟と四苦八苦』(テレビ東京系)、『姉ちゃんの恋人』(カンテレ・フジテレビ系)、『私の家政夫ナギサさん』。撮影途中で主演の三浦春馬が急逝した『おカネの切れ目が恋のはじまり』(TBS系)も忘れがたい。彼のいない最終回、劇中で父親役が語った「あいつは責任など背負わんほうが輝ける」という言葉が今年最も印象に残るセリフとなった。突然、ドラマの世界を去っていってしまった輝ける人たちを、この特別な年の記憶と共にずっと胸に留めていきたい。

※山崎賢人の「崎」は「たつさき」が正式表記。

TOP10で取り上げた作品に関連するレビュー/コラム

マスク着用で通した『#リモラブ』が構築した新しい恋愛ドラマの形 ニューノーマルの先駆的作品に
ウィズコロナ時代をどう描いている? 『#リモラブ』『姉ちゃんの恋人』『共演NG』の描写に注目
“昭和おじさん社会”は終わる!? 『半沢直樹』が描いた古い男性像と新しい女性像を振り返る
『MIU404』最終回は驚きの展開に 制作陣の攻めるクリエイター精神とキャストの熱演に圧倒される

■小田慶子
ライター/編集。「週刊ザテレビジョン」などの編集部を経てフリーランスに。雑誌で日本のドラマ、映画を中心にインタビュー記事などを担当。映画のオフィシャルライターを務めることも。女性の生き方やジェンダーに関する記事も執筆。

■リリース情報
連続テレビ小説『スカーレット』
Blu-ray&DVD発売中
価格:Blu-ray 12,540円(税込)
   DVD 12,540円(税込)
脚本:水橋文美江
制作統括:内田ゆき
プロデューサー:長谷知記、葛西勇也
演出:中島由貴、佐藤譲、鈴木航
出演:戸田恵梨香、北村一輝、富田靖子、大島優子、林遣都、財前直見、マギー、佐藤隆太、桜庭ななみ、川島夕空、水野美紀、溝端淳平、羽野晶紀、三林京子、木本武宏、オール阪神、佐津川愛美、村上ショージ、西川貴教、イッセー尾形ほか
発行・販売元:NHKエンタープライズ
(c)2020 NHK

『MIU404』
Blu-ray&DVD発売中
価格:Blu-ray 28,800円(税別)
   DVD 22,800円(税別)
出演:綾野剛、星野源、岡田健史、橋本じゅん、黒川智花、渡邊圭祐、金井勇太、番家天嵩、菅田将暉、生瀬勝久、麻生久美子
脚本:野木亜紀子
主題歌:米津玄師「感電」(ソニー・ミュージックレーベルズ)
音楽:得田真裕
発売元:TBS
発売協力:TBSグロウディア
販売元:TCエンタテインメント
(c)TBSスパークル / TBS

■放送情報
大河ドラマ『麒麟がくる』
NHK総合にて、毎週日曜20:00~放送
BSプレミアムにて、毎週日曜18:00~放送
BS4Kにて、毎週日曜9:00~放送
主演:長谷川博己
作:池端俊策
語り:市川海老蔵
音楽:ジョン・グラム
制作統括:落合将、藤並英樹
プロデューサー:中野亮平
演出:大原拓、一色隆司、佐々木善春、深川貴志
写真提供=NHK
公式サイト:https://www.nhk.or.jp/kirin/
公式Twitter:@nhk_kirin

■配信情報
『#リモラブ 〜普通の恋は邪道〜』
TVerにて最新話配信中
出演:波瑠、松下洸平、間宮祥太朗、川栄李奈、高橋優斗(HiHi Jets/ジャニーズJr.)、福地桃子、渡辺大、江口のりこ、及川光博
脚本:水橋文美江
演出:中島悟、丸谷俊平
プロデューサー:櫨山裕子、秋元孝之
チーフプロデューサー:西憲彦
制作協力:オフィスクレッシェンド
製作著作:日本テレビ
(c)日本テレビ
公式サイト:https://www.ntv.co.jp/remolove/
公式Twitter:@remolove_NTV
公式Instagram:@remolove_NTV

Netflixオリジナルシリーズ『今際の国のアリス』
Netflixにて全世界同時配信中
原作:麻生羽呂『今際の国のアリス』(小学館『少年サンデーコミックス』刊)
監督:佐藤信介
出演:山崎賢人、土屋太鳳、村上虹郎、森永悠希、町田啓太、三吉彩花、桜田通、朝比奈彩、柳俊太郎、渡辺佑太朗、水崎綾女、吉田美月喜、阿部力、金子ノブアキ、青柳翔、仲里依紗
脚本:渡部辰城、倉光泰子、佐藤信介
音楽:やまだ豊
撮影監督:河津太郎
美術監督:斎藤岩男
アクション監督:下村勇二
VFXスーパーバイザー:神谷誠、土井淳
エグゼクティブ・プロデューサー:坂本和隆
プロデューサー:森井輝
企画・制作:(株)ROBOT
(c)麻生羽呂・小学館/ROBOT
Netflix作品ページ:https://www.netflix.com/jp/title/80200575

木ドラ25『30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい』
TVerにて最新話配信中
出演:赤楚衛二、浅⾹航⼤、ゆうたろう、草川拓弥(超特急)、佐藤玲、鈴之助、町田啓太
原作:豊田悠(掲載『ガンガンpixiv』スクウェア・エニックス刊)
オープニングテーマ:Omoinotake「産声」(NEON RECORDS)
エンディングテーマ:DEEP SQUAD「Good Love Your Love」(ソニー・ミュージックレーベルズ)
監督:風間太樹、湯浅弘章、林雅貴
脚本:吉田恵里香、おかざきさとこ
プロデューサー:本間かなみ(テレビ東京)、井原梓(テレビ東京)、熊谷理恵(大映テレビ)
制作:テレビ東京 大映テレビ
製作著作:「30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい」製作委員会
(c)豊田悠/SQUARE ENIX・「30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい」製作委員会
公式サイト:https://www.tv-tokyo.co.jp/cherimaho/
公式Twitter:https://twitter.com/tx_cherimaho

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