Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play
Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play

PEDRO、社会情勢の変化とともに巻き起こした“現象” 様々な仕掛けから紐解く思いの連鎖と覚悟

リアルサウンド

20/5/9(土) 12:00

 BiSHのアユニ・Dによるソロバンドプロジェクト、PEDROが“現象”を巻き起こしている。さまざまな動きが波紋のように広がり、新作EP『衝動人間倶楽部』の大きな反響につながっている。

 4月29日にリリースされた同作は、Billboard JAPANが発表した発売から初動3日間のシングルセールス集計で1位を獲得(参照:billboard JAPAN)。それだけでなく、ツアー中止を受けてクラウドファンディングサイト・CAMPFIREにて行われた「突如消えた全国ツアーを最高の記憶として残し金銭的にも無問題にしたい」プロジェクトは、4月18日の募集開始から4月28日の終了までの10日間で目標金額の300万円を大幅に上回る、2000万円以上の資金を集めた。(参照:CAMPFIRE

 全国に緊急事態宣言が発令され、ライブはもちろん、CDショップも軒並み閉店していることもあり、CDショップに足を運ぶことも難しくなった4月の間、PEDROに一体何が起こっていたのか。改めて振り返りたい。

 当サイトにはEP『衝動人間倶楽部』にまつわるアユニ・D、田渕ひさ子、松隈ケンタの鼎談(アユニ・D×田渕ひさ子×松隈ケンタが語る、PEDROに起こった変化ーー“音楽“がアユニの居場所になった理由)が掲載されている。その頃からPEDROとそのスタッフは社会情勢の変化に大きく巻き込まれていた。筆者がこのインタビュー取材を行ったのが3月5日だ。当時はちょうど新型コロナウイルスの集団感染がライブハウスから発生したことが明らかになった頃。多くのアーティストが予定されていたライブを延期または中止した。

 アユニ・D、田渕ひさ子も、それぞれBiSHが出演した『WACK TOUR 2020 “WACK FUCKiN’PARTY”』(2月29日大阪・Zepp Osaka Bayside)、NUMBER GIRLによる『NUMBER GIRL TOUR 2019-2020 逆噴射バンド』(3月1日東京・Zepp Tokyo)が「無観客ライブ」の生配信として開催され、そのステージに立った体験を語っている。

 PEDROとしても3月から5月にかけて全国10都市を回る『GO TO BED TOUR』の開催を予定していた。上記の記事の取材時点では、松隈ケンタは「今はとりあえずやる気でリハーサルを進めてます」と語っている。しかし、予定されていた公演はすべて中止となった。

 こうしてライブ活動が中止になる一方で、『衝動人間倶楽部』の収録曲のMVはリリースに向けて続々と公開されていった。まず、リリースの告知とともに、2月22日に第1弾楽曲として公開されたのが、映像作家の山田健人が監督を手掛けている「感傷謳歌」。右脳と左脳を赤と青で表現したカラフルなビジュアルで構成されたコンセプチュアルなMVだ。

PEDRO / 感傷謳歌 [OFFICIAL VIDEO]

 3月11日にはアユニ・D、田渕ひさ子、毛利匠太の3人の演奏風景を捉えた第2弾「WORLD IS PAIN」のMVが公開された。シンプルな演出ながら16mmフィルムのざらついた質感を活かした映像となっている。

PEDRO / WORLD IS PAIN [OFFICIAL VIDEO]

 4月1日にはアインシュタインの稲田直樹が電撃加入、新たなアーティスト写真と「自律神経出張中」のオマージュMVを公開。稲田が歌う「自律神経出張中 (2020 ver.)」も配信リリースされた。

PEDRO / 自律神経出張中 (2020 ver.) [OFFICIAL VIDEO]

 翌日の4月2日には稲田の加入がエイプリルフールの企画だったことを明かし、「メンバーとの不仲」を理由に脱退を発表。あわせて『衝動人間倶楽部』からの第3弾楽曲として「無問題」のMVを公開した。こちらはアコーディオンを抱えたアユニ・Dの周囲で謎の着ぐるみが踊る模様をワンカットで収録したシュールで不穏な内容になっている。

PEDRO / 無問題 [OFFICIAL VIDEO]

 そして4月17日には第4弾となる「生活革命」のMVを公開した。ラブソングのこの曲らしく、アユニ・Dの手書きの歌詞と共に生活感の伝わるナチュラルなテイストの映像で構成されている。公開された一連のMVの監督はすべて山田健人が務めており、彼のクリエイティビティが存分に発揮された内容となっている。

PEDRO / 生活革命 [OFFICIAL VIDEO]

 そして、PEDROは同日に全公演キャンセルとなった全国ツアー『GO TO BED TOUR』の無観客ライブをYouTubeで配信することを発表。

PEDRO / GO TO BED TOUR 無観客ライブ [OFFICIAL TRAILER]

 上記の動画の詳細欄には、このように書かれている。

「我々PEDROチームとしましては、『GO TO BED TOUR』のステージを最高の形でみなさまの記憶に残したい。この部分に関しては満場一致の結論でした」「先の情勢が見えない中で今回告知した生配信の実施ができない可能性もございます。生配信が実施できない場合、収録した内容をYouTubeにて日時時間を決めて放送させて頂きます。何年かかってでもみなさまに何かしらの形で、こちらのステージをお届けできるよう善処致します」。

 さらに、全国9都市を回る全国ツアー『LIFE IS HARD TOUR』を9月に開催することを発表。アユニ・Dのオフィシャルインタビュー動画も公開し、作品やライブに向けての思いを語っている。

PEDRO / OFFICIAL INTERVIEW [衝動人間倶楽部]

 こちらの映像は、プロジェクトがスタートしてからずっとPEDROに密着してきた映像作家のエリザベス宮地が撮影と編集を担当。PEDROのツアーを経て人間的にも大きな成長を果たしたアユニ・Dのライブにかける思いが中心にあり、それがスタッフや周囲のクリエイターを含めたPEDROチームに情熱として伝わり、人々を突き動かしている。そのことが生々しいドキュメントとして伝わってくる内容になっていた。

 こうした様々な仕掛けと思いの連鎖が、4月29日のEP『衝動人間倶楽部』の反響につながったわけである。

 しかも、その“仕掛け”はまだまだ継続中だ。

 PEDROは8月12日に1stシングル『来ないでワールドエンド』をリリースすることを発表。しかもEP『衝動人間倶楽部』の「PEDRO / BiSHファンクラブ限定特典付きパッケージ」に、サプライズで同曲の音源を収録したCDが同封された。

 同パッケージを購入し、CDを受け取ったファンは2200人。その1人1人がgigafile便やdropboxを使って音源をシェアしたり、YouTubeに公開して楽曲をプロモーションするという「#PEDRO脱法宣伝大喜利」の企画がスタートした。

#PEDRO脱法宣伝大喜利

 オフィシャルページの企画趣旨にはこう書かれている。

「今回のCDを貰えなかった人が『転売』で買わなくても済むように、受け取った方は是非気軽に音源をUPしたgigafile便のリンクやYouTubeに音源をUPするなどして、Twitterで『#PEDRO脱法宣伝大喜利』を添えて発信するなどしてみてください!!」

「権利主であるレーベル及び事務所として、こちらの音源の使用の権利を主張することはありませんので、通常違法とされる形式でバンバン音源を拡散してください」

 しかも、アユニ・Dおよびスタッフの主観で最もプロモーションにつながった「大賞」を選び、その対象者には「iTunes Card 100万円分」もしくは「PEDRO主催ワンマンライブ一生入場可能な権利」がプレゼントされるという。

 これまでの音楽業界の常識や慣例を覆すような、相当面白い実験が行われている。しかも、この手の“仕掛け”は楽曲自体に魅力がないとスベってしまうことも往々にしてあるので、そこの自信も相当大きいということだ。目が離せない。

■柴 那典
1976年神奈川県生まれ。ライター、編集者。音楽ジャーナリスト。出版社ロッキング・オンを経て独立。ブログ「日々の音色とことば:」Twitter

新着エッセイ

新着クリエイター人生

水先案内

アプリで読む