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『おちょやん』の“語り”がドラマにもたらす効果 朝ドラ常連・桂吉弥の暖かな目線を堪能

リアルサウンド

20/12/21(月) 6:00

 『半分、青い。』の風吹ジュン、『なつぞら』の内村光良、『まんぷく』の芦田愛菜、『エール』の津田健次郎……これは歴代のNHK朝ドラ作品と“語り”担当者のセットだ。前者2作品は主人公の亡き家族というポジションを作中で演じた人物が“語り”を担当し、『まんぷく』の芦田は最年少での抜擢が注目された。記憶に新しいのは前作『エール』での声優・津田のエモい“語り”と、本人が急遽作中にも登場することになり話題を呼んだ。

 半年間、しかも毎朝耳にし、忙しい時間帯に物語の理解や把握を補完する役割を担うことから朝ドラの“語り”はストーリーや登場人物と視聴者の橋渡しをする特異な存在だ。時に登場人物の肩を持ったかと思いきや、視聴者の疑問を代弁し登場人物を突き放して突っ込んでみせたり、双方に寄り添う。時や場所といった客観的な事実だけでなく、登場人物の心情まで語るシーンもあり、かなりの表現の幅を要する。

 『おちょやん』(NHK総合)での“語り”もまた特徴的だ。上方演劇界が舞台ということもあり、黒衣が“語り”を担当する仕立てになっている。黒衣とは読んで字の如く黒づくめの特殊な衣装を身に纏い、観客に見えないという約束事の下に舞台上に現れ芝居の手助けをする人のことを指す。作中では基本的には“声での出演”となるが、冒頭には画面上にも出演し正に物語の始まりを知らせる重要な役どころまで担っていた。

  確かに、朝ドラの鉄板とも言える「女性の一代記」モノでは、近しい家族が主人公を近くで見守るという立ち位置で“語り”に入ることがしばしばあるが、千代(杉咲花)の場合には彼女に近しい家族という存在が不在だ。今は亡き母が彼女の心の支えとなっておりそれに当たるだろうが、あまり多くを語られてはいない存在である上に、亡き母目線から語られてしまうと、幼くして母を亡くし父親に振り回され学校にも行けずに働きに出されていた不憫な身の上がどうしたって際立ち、今のような仕上がりにはなっていなかっただろう。

 本作で黒衣であり“語り”を担当するのは落語家の桂吉弥である。自身も噺家で上方落語界では早くから実力派として注目されていたが、彼の人気をさらに押し上げたのは朝ドラ『ちりとてちん』への出演だった。不器用だが人一倍落語愛の強いヒロインの兄弟子・徒然亭草原を好演した。なんと『おちょやん』への出演が朝ドラ出演6作目になり、大河ドラマ『新撰組!』でも新選組隊士として起用されていた。本作での“語り”でもあらすじを落語で説明したり、無声映画の活弁風の語り口があったりと、噺家としての彼の器量が存分に生かされて舞台を鑑賞しているかのように楽しめる。そして、毎話発される「千代ちゃん」が本当に優しく温かく、最後まで何としてでも千代の行く末を一緒になって見守りたい、千代の応援団の一員になりたいという気にさせられるのだ。

 土曜日のダイジェスト版では、犬や猫が黒衣を纏ったイラストが突如画面上に現れ、それと“語り”がリンクするのもまた可愛らしい。“語り”自体が一つの人格を持って近くで千代を見守り応援してくれている様子が視覚的に伝わり楽しい。

 ゆくゆく女優になった千代と黒衣との舞台上での共演があるのか、気が早いが想いを馳せてしまう。

■楳田 佳香
元出版社勤務。現在都内OL時々ライター業。三度の飯より映画・ドラマが好きで劇場鑑賞映画本数は年間約100本。Twitter

■放送情報
NHK連続テレビ小説『おちょやん』
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45
※土曜は1週間を振り返り
出演:杉咲花、成田凌、篠原涼子、トータス松本、井川遥、中村鴈治郎、名倉潤、板尾創路、 星田英利、いしのようこ、宮田圭子、西川忠志、東野絢香、若葉竜也、西村和彦、映美くらら、渋谷天外、若村麻由美ほか
語り:桂吉弥
脚本:八津弘幸
制作統括:櫻井壮一、熊野律時
音楽:サキタハヂメ
演出:椰川善郎、盆子原誠ほか
写真提供=NHK
公式サイト:https://www.nhk.or.jp/ochoyan/

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