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和田彩花の「アートに夢中!」

『アナザーエナジー展:挑戦しつづける力―世界の女性アーティスト16人』

月2回連載

第60回

今回、和田さんが紹介するのは森美術館で開催中の『アナザーエナジー展:挑戦しつづける力―世界の女性アーティスト16人』。全員が70代以上の女性アーティストだけの展覧会、和田さんは何を感じたのでしょうか?

ここ最近、美術業界や美術館においてジェンダーギャップをはじめ、ジェンダーの問題が語られるようになっています。美術館において、女性作家の収蔵品が非常に少なかったり、美術館で働く人は女性が多いけれどトップに立つ人は少なかったり……。

でも、実は自分は最初この状況を意外に感じていました。というのは、これまで通っていた大学や大学院では、女性作家の作品について検証したり、フェミニズムの考え方で美術作品や美術史を改めて見直す授業が普通だったから。男性の先生もきちんとジェンダーの関係について真剣に考えていて、「いまの発言はジェンダーの視点ではちょっと…」と注意されたりするんですよ。学ぶ場では当然として考え、意識されていることと、実際の社会との間に乖離があるんですね。

ですから、森美術館でこのような展覧会が企画されたことがとても嬉しいです。「自分はこういう時代に生きているんだ」っていう気分です。

この展覧会に出てくる16人はすべて女性、そして全員がキャリア50年以上という方々です。制作している作品は、ジェンダーを題材にしている人もいれば、そうでない人もいます。

どの作品も、造形としてとても楽しいです。そして、全作家のインタビュー映像もとても素晴らしかった。全員が、人生を生きることをとても真剣に話しているんです。作家の皆さんが私くらいの年齢のときは、現在よりももっと制約や圧力が強かったはずなんですよね。私はいま26歳で、これから人生が本格的に始まろうとしています。そんなときだから、ちょっとした困難もたくさん感じているときでもある。そんなときだからか、作家さんの真摯な言葉がとても心に刺さってくるし、勇気ももらえました。

各アーティストの展示エリアには、プロフィール紹介のテキストとともにインタビュー映像が展示されている。

16人全員が非常に刺激的だったんですが、そのなかから紹介したいのはスイスの作家、ミリアム・カーン。今回の展覧会のメインビジュアルにもなっている作家です。「あいちトリエンナーレ2019」で彼女の作品を見て、淡い色づかいが非常に美しいと思っていましたが、何が描かれているかについて深く意識をしてこなかった。

ミリアム・カーン《無題》1999年12月29日 所蔵:OKETA COLLECTION(東京)

今回、小さなキャンバスの作品が多く、細部までしっかり見たんですが、じつは暴力的だったり、不気味だったりすることに気づきました。鮮やかな色で人の顔を描くにしても、目の周りだけ暗い絵の具が混ざったりしていて、そこがどことなく不穏な雰囲気。描かれている人物も性別などがあまり判別できなくて、自分の脳内に蓄積されている情報とつなぎ合わせることができない。未知の人物に出会っている感覚でした。ですが、この未知さを感じる理由は、まだ自覚できていない偏見が自分の中にあるからなんじゃないかと、改めて考えさせられたりもしました。

ミリアム・カーン
展示風景:「アナザーエナジー展:挑戦しつづける力―世界の女性アーティスト16人」森美術館(東京)2021年 撮影:古川裕也 画像提供:森美術館

女性と思われる人間が男性と思われる人間を殴っている作品も、驚きでした。男女間の暴力って、どうしても被害者が女性であることが多いという前提で考えてしまいがちですが(もちろんそうである現実を無視することもできませんが)、この作品では逆。自分の認識も固まっていることに気づかされました。いろいろな固定観念やイメージに作品を当てはめさせないような工夫を見逃したくないなと思いました。

ミリアム・カーン
展示風景:「アナザーエナジー展:挑戦しつづける力―世界の女性アーティスト16人」森美術館(東京)2021年 撮影:古川裕也 画像提供:森美術館

あと、ベアトリス・ゴンザレスもよかったです。彼女はコロンビアのアーティストで、今年89歳。ポップ・アートのようなわかりやすい作風で、政治や社会を題材にした作品を発表しています。シンプルでいて、とてもおしゃれなんですね。特に女の人が嘆いている《縁の下の嘆き》のシリーズが好きです。一見したところ、ポスターっぽくて、洗練されたデザインなんだなって思うんですけど、しっかり見ていくと国の情勢や制度によって犠牲になってしまった国民の姿という、シビアな題材。

ベアトリス・ゴンザレス《縁の下の嘆き―ハンカチを持って嘆く》2018年、《縁の下の嘆き―携帯電話を持って嘆く》2018年
展示風景:「アナザーエナジー展:挑戦しつづける力―世界の女性アーティスト16人」森美術館(東京)2021年 撮影:古川裕也 画像提供:森美術館

私はポップ・アートってアメリカの消費社会において、大衆にとって身近なものを描くというイメージを持っていたので、このようにポップ・アートと親和性のある表現で批評的な作品があるということに驚いたんです。単純にデザインとしても素敵だし、なおかつ時代の問題を取り入れている。そして、2018年という最近の作品、つまり86歳のときの作品なんですよね。

あと、壁一面に貼られた人物の壁紙作品、ひと目みて「超おしゃれな空間!」と思いました。で、その後に社会的背景がこの作品にもばりばり込められていることを知り、ポップなものとの組み合わせがとてもおもしろいと感じました。展覧会の図録には、ラファエロの聖母子像を下敷きにした作品なども掲載されているのですが、社会問題だけじゃなく、西洋美術の歴史をきちんと踏まえたうえで作品を制作していることがわかって、説得力があるのはこういうことなんだなって思いました。

ベアトリス・ゴンザレス
展示風景:「アナザーエナジー展:挑戦しつづける力―世界の女性アーティスト16人」森美術館(東京)2021年 撮影:古川裕也 画像提供:森美術館

そして、やはりいろいろ考えさせられたのがアメリカの作家、スザンヌ・レイシーの作品《玄関と通りのあいだ》。ニューヨーク市ブルックリンの一角、玄関と通りのあいだで、人種や性別、フェミニズムなどさまざまな問題について365人の活動家が語り合うという2013年に行われた活動を記録した作品です。この様子は約2400人の人が傍聴したそうなのですが、このごろ意見の交換って顔をみて直接話し合うことって少なくなったなとも思いました。

スザンヌ・レイシー《玄関と通りのあいだ》2013/2021年
3チャンネル・ビデオ、デジタルプリント
20分2秒(ビデオ)
本作はクリエイティブ・タイム(ニューヨーク)、ブルックリン美術館エリザベス・A・サックラー・センター・フォー・フェミニスト・ アートの協賛によって2013年に制作されました。
展示風景:「アナザーエナジー展:挑戦しつづける力―世界の女性アーティスト16人」森美術館(東京)2021年 撮影:古川裕也 画像提供:森美術館

直接会って話をするって、言葉のほかにも表情や仕草で多くの情報交換ができる。でも、現在SNSだと文字だけでやりとりして、それが暴力性につながったりしてしまう。コロナ禍で人と会えない日々が続いているからこそ、顔を見て話すことが大切だなあと思っていたので、この作品はとても大きなヒントになりました。直接話すってとっても大事です!

このほかにも、アンナ・ベラ・ガイゲルの作品やアルピタ・シンの作品、日本人の宮本和子さん、三島喜美代さんなど心に残る作品が多くて語りつくせず残念です。たくさんの方に見てもらいたい展覧会だと強く思います。

開催情報

『アナザーエナジー展:挑戦しつづける力―世界の女性アーティスト16人』
2021年4月22日(木)~9月26日(日)、森美術館にて開催
www.mori.art.museum

世界各地で挑戦を続ける70代以上の現役女性アーティスト16名の活動を紹介。全員が50年以上のキャリアをもち、置かれた環境や時代が激しく変化していくなかで、それらに捉われることなく、独自の創作活動を続けてきたアーティストたち。約130点の作品を通して、彼女たちを創作へと突き動かす特別な力、「アナザーエナジー」とは何かを考えていく。

構成・文:浦島茂世 撮影(和田彩花):源賀津己

プロフィール

和田 彩花

1994年生まれ。群馬県出身。2004年「ハロプロエッグオーディション2004」に合格し、ハロプロエッグのメンバーに。2010年、スマイレージのメンバーとしてメジャーデビュー。同年に「第52回輝く!日本レコード大賞」最優秀新人賞を受賞。2015年よりグループ名をアンジュルムと改め、新たにスタートし、テレビ、ライブ、舞台などで幅広く活動。ハロー!プロジェクト全体のリーダーも務めた後、2019年6月18日をもってアンジュルムおよびハロー!プロジェクトを卒業。アートへの関心が高く、さまざまなメディアでアートに関する情報を発信している。

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