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ハナレグミ、Caravan……ネット配信を介して音楽を届ける、弾き語りによるアクション

リアルサウンド

20/5/17(日) 12:00

 2月末に、新型コロナウイルスによって、ミュージシャンたちがライブをできない状態になってから、2カ月以上が経つ。当初は、公演中止になったその会場を使って、無観客生配信ライブを行うアーティストもいたが、3月25日に小池都知事が記者会見を行い、改めて自粛要請をしたあたりを境に、「メンバーとスタッフが集まること自体がリスキー」という認識が強まり、それもなかなかままならなくなっている。

 ただし、それ以降も、多くのミュージシャンが、さまざまな工夫をこらして、新しい音を、ネットを使ってリスナーに届けている。

 佐野元春&THE COYOTE BANDの「エンタテイメント!」のように、原曲を聴いてメンバーがアレンジを考え、演奏した音を送り、それを佐野元春がまとめて新曲を作り上げて発表した例もある。

 たとえば、YO-KINGを除くカーリングシトーンズの5人は、奥田民生のYouTubeチャンネルで「ガッツだぜ!!」を披露した。奥田民生によると、「みんなで元の曲をヘッドホンで聴きながら『せーの』で一緒に録って、あとでズレを修正する」という方法で行ったそうだが、それでもそれぞれの演奏がけっこうズレていたりするのが、リモートのリアルを表していて、かえって楽しい。

 もちろん、シンプルに、弾き語り等の「ひとりでできるライブ」に活路を見出すミュージシャンもいる。やはり、当然、普段からそういうライブをよく行っている人なわけだが、イコール、以前からネットでの発信に慣れている人だというわけではない。というなかで、「慣れていなかった人」ひとりと、「慣れていた人」ひとりの、最近のそうした表現がすばらしかったケースを目の当たりにしたので、以下、ご紹介したいと思う。

(関連:ハナレグミが語る、最新作にこめた“2017年のムード” 「新たなところに行けるような感覚がある」

■クリエィテビティを発揮したハナレグミ

 ひとりめはハナレグミ。2019年11月27日(彼の45歳の誕生日)に、オフィシャルのInstagramを開設。ということは、それまでは持っていなかったわけで、あと、本人のTwitterアカウントもないわけで、つまりもともとSNS関係に積極的ではなかったのだと思うが、それが変わった。

 まず、4月4日に行うはずだった、11年ぶりの日比谷野外大音楽堂でのひとり弾き語りワンマン『THE MOMENT ~acoustic with moon light~』の中止を、3月26日にアナウンスした。で、その3日後に、野音の日だった4月4日に、弾き語りライブ『ハナレグミYouTube Live「出前THE MOMENT」』を行い、ビクターのYouTube公式チャンネルで生配信することを発表。そのライブで初披露するはずだった新曲「ムーンライト」のCDを通販限定で発売することも、併せて告知された。

 当日のその生配信ライブでは、その「ムーンライト」や歴代の代表曲たちに加え、ローザ・ルクセンブルグの「橋の下」のカバーなども披露。その映像は、4月11日までの期間限定で、アーカイブが残された。

 という、おそらく自身初の一大イベントが終わっても、彼はひとりで撮り下ろしたライブ映像の配信を、Instagramを使って、積極的に行っていく。

 4月10日には、大阪のFM802のために作った曲(作曲が永積タカシで作詞は奥田民生)、「僕のBUDDY!!」を、弾き語りでアップした。

 次は4月18日、自身の「オアシス」。これは弾き語りではなく、声とハンドクラップ→箱型の木琴みたいな楽器→ラジオのノイズ→カシオのミニキーボード→アコースティック・ギター、と、歌いながら演奏し、その音をループさせて重ねることで曲を形にしていく、というパフォーマンス。

 その次は4月27日。今回は歌はなし、演奏のみで、そしてなぜか終始首から下の映像で、「PEOPLE GET READY」(原曲:The Impressions)を、リズムマシンに合わせて、ループを使用しながら、3分にわたってストラトキャスターで弾き続ける、というもの。

 そして、その次の5月1日の動画から、「#隠された暗号シリーズ」というハッシュタグが付き、アップのペースが毎日になる。この日は、曲は自身の「ブルーベリーガム」。ペンギン形のメトロノームが刻むリズムに合わせて、グレッチモデルのグレコのセミアコを弾きながら、しっとりと歌われた。

 翌5月2日は、アコギ1本で「Crazy Love」を歌う。前半のブレイクで、背後のアップライトピアノの鍵盤を下から上までビャーッと鳴らしたりもする。なお、この日はかぶっているキャップが、近鉄バファローズのそれだった。

 5月3日は、アニメ『怪物くん』のテーマを5拍子にリアレンジ。以前、U-zhaanとのユニット「タカシタブラタカシ」で披露したバージョンで、最初にメトロノーム代わりに「1,2,3,4,5」という自分の声のループを録り、それに合わせてアコギを弾きながら歌いきった。

 続く5月4日は、アコギ1本で自身の「さらら」。映像がなぜかモノクロで、画角が横になる。

 翌日の5月5日もアコギ1本でモノクロ、ただし画角は正方形で「SPARK」。2009年に児玉奈央のために書き下ろした曲で(歌詞は彼女と共作)、気に入ったのでセルフカバーして2011年のアルバム『オアシス』に入れたものである。と書いて気がついたけど、『オアシス』収録曲率、高いですね。「オアシス」、「Crazy Love」、そしてこの「SPARK」で3曲目だ。

 そして。5月6日、カラー・画角横・顎より上は映らず、という状態で、きのこ帝国「金木犀の夜」のカバーを歌った回で、種明かしがされた。この6日間の曲の頭文字を入れ替えて並べると、「サブスクカイキン」となる、つまり5月6日にこれまでの全115曲のストリーミング配信がスタートになる、ということで、決行された企画なのだった。

 にしても、感心するのは、同じパターンで撮った曲がひとつもないことだ。5月1日以前のものは、弾き語りだったり、ループを使って多重録音だったり、インストだったりと、毎回違う。5月1日から6日までは、基本はどれもギター1本弾き語りだが、画角やアングルや使用楽器や衣装などを、毎回変えている。

 というふうに、今回のこの事態によって、「ライブができないけど歌を聴いてほしいからアップします」というレベルではなく、ある種、クリエイティビティに火がついたみたいな状態になっていることがうかがえる、ハナレグミなのであった。

■Caravanのライブ配信 違うフェーズの世界での再会を約束

 そして、Caravanだ。まず4月18日に「4月21日PM8時頃から久しぶりにインスタライブやろうと思います」と告知。で、その日時に、彼の仕事部屋でありプライベートスタジオである「Studio Byrd」から、生配信でライブをスタート。

 Caravanもハナレグミと同じく、ひとりでライブをやる時は、ギター等でループを使ったり、歌にハモリをつけるボーカルエフェクターを用いたりすることが多いが、この日はノーマイク・ノーケーブルで、アコースティックギター、ハープ、歌、カメラ一台(たぶんスマホ)、というシンプルな仕様で、全6曲をプレイ。

 「Sweet Home」「Bye-bye bluebird」「Magic Night」「Stay Home」「Night song」「ハミングバード」というセットリストだった。「Magic Night」は3月30日にリリースされたばかりの配信シングル、「Stay Home」はこの日初めて発表された新曲、「Bye-bye bluebird」は、「普段あまりライブではやらないレアな曲を」という理由で歌われる。

 「Night song」は、Caravanが初めてインディリリースしたアルバム『RAW LIFE MUSIC』(2004年4月)のラストの曲。その『RAW LIFE MUSIC』がリリースされた日が16年前のこの日で、Caravanという名前になって初めて作った曲だそうだ。最後にアンコールっぽく追加された「ハミングバード」も、「『RAW LIFE MUSIC』からもう1曲」という理由で選ばれた。

 なお、その「ハミングバード」を歌う前に、次は初めての試みとして、有料の配信ライブ『“Live in Your Room #2”』を、4月30日に行うことを発表した。ZAIKOの配信システムを使って実行、1,200円、とのこと。

 で、その4月30日。あ、なぜタイトルに『#2』と付いているのかというと、以前に『#1』=1回目をやっているのだ。2019年4月24日で、その時は「デビュー15周年を記念して」ということと、生活環境の変化等で、昔みたいにしょっちゅうライブを観に行けない、というファンの声にも応えたい、というふたつが理由で行われた。その時は無料だった。つまり開催の動機が異なっているわけで、本人もMCで「前回のYouTubeライブの時の感じと同じなんだけど、目的というか、心づもりが全然違って……2回目で、まさかこんなことになるとは……」とか、「なんかね、こういうライブがね、あたりまえになってきちゃうのも、なんかせつなくて」などと、複雑な思いを吐露する。

 場所は、前回と同じく「Studio Byrd」。ただし、今回はカメラが複数台入っていて、曲中に切り替わる。Caravanの映像仕事を長年手掛けてきた映像作家、番場秀一のディレクションだそうで(とCaravanが説明)、曲によって、カメラマンが盛り上がっちゃって振り上げた腕が見切れたりしていたのが、彼だと思う。

 サウンドの面でも、前回は歌とギターとハープだけだったが、今回はギターのループもボーカルエフェクトもあり、ギターもアコギとセミアコを持ち替えながら進んでいく。

 セットリストも、「今日はライブでよくやる曲を」ということで、「Stay Home」「Trippin’ Life」「Wagon」「Music Save My Life」「The Passenger」「アイトウレイ」「Magic Night」「モアイ」「夜明け前」「Hello & Goodbye」、ラストにアンコールとして「サンティアゴの道」という11曲だった。

 それが終わったあとに、作ったばかりだという「Stay Home」のMVが流れる。途中で、「Stay Home」は無料ダウンロードでみんなにプレゼントする、もう落とせるようになっている、という告知もあった。

 それから、中止になった5月30・31日の渋谷さくらホール2デイズの日に、有料配信でライブを行う、発表されていたとおり1日目は堀江博久とふたりでライブをやり、2日目はお客さんからの希望に応えて選曲する「オール・リクエストデイ」として行うことも、アナウンスされた。

 前回もそうだったが、全体に、なぜ自分は今この曲を選んで歌うことにしたのか、その必然が1曲ごとに伝わってくる、すばらしいライブだった。そして、〈全てがホントで 全てがウソかも それでも行かなきゃ Hello & Goodbye〉と歌う「Hello & Goodbye」のように、とうの昔に書かれた曲なのに、今のこの状況を描いているかのように響く曲が何曲もあることも、Caravanらしいと感じた。

 あと、最後に、「まあほんと、今しんどい時だけど、乗り越えましょうよ。そいで、必ず笑顔で再会しましょうよ。その時は、元通りの世界に戻るんじゃなくて、もっと違うフェーズの世界で、再会しましょうよ」という言葉で締めていたのが、とても印象的だった。

 よく言われていることなので、もうききたくないだろうし、僕だって書きたくもないが、この先、事態がだんだん好転して、少しずつ世の中の動きが元に戻り始めたとしても、音楽のライブ(特にライブハウス)という場は、その「元に戻る」順番としては、最後になるだろう。自粛に入る順番がいちばん最初だったのと同じで。という時に、何を考えてどう動くか、という例を、このふたり(だけではないが)のミュージシャンのアクションは、見せてくれているように感じる。

 その後ハナレグミは、5月13日にohana(永積崇とクラムボン原田郁子とPolarisオオヤユウスケのバンド)の楽曲「ヒライテル」の弾き語り動画をアップした。 この時は映像はカラーで画角は正方形。

 そしてCaravanも、5月13日にまた「Studio Byrd」から生配信ライブを行った。この日はトーク多めで、 本人曰く「小さな場末のスナックに飲みに行く気分で遊びに来て下さい」 という、リラックスした生中継だった。なお、5月16日に配信限定で『Callin’ / Today’s the Day』をリリースすることをこの日発表(詳細はTwitterにて)。 前者は2013年のアルバムでサブスク配信されていない『Quiet Fanfare』の収録曲。後者は新曲で、「先日亡くなってしまったビル・ウィザースにリスペクトを込めた曲」とのこと。(兵庫慎司)

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