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YouTuberがドラマ界を占領!? TVドラマから感じる、SNSに対する世間の関心の肥大化

リアルサウンド

19/3/30(土) 6:00

 冬クール(1~3月)のドラマは、YouTuberが登場するドラマが多かった。

 『家売るオンナの逆襲』(日本テレビ系)の第1話では、にくまる(加藤諒)というYouTuberが登場。配信によってプライバシーがダダ漏れとなったため、引越し先の住所を探しているうちに仕事の悩みを吐露するようになっていく。

【参考】ドラマ評論家が選ぶ、2019年冬ドラマベスト5

 『ゾンビが来たから人生見つめ直した件』(NHK)では、人々がゾンビ化していく地方都市で、無政府状態となった街の現状を配信するYouTuberが重要な役割を果たした。『スキャンダル専門弁護士 QUEEN』(フジテレビ系)の第1話では、アイドルグループのスキャンダルを追うワイドショーに紛れてテレビ局で配信する(YouTuberのラファエルを思わせる)仮面の男が登場した。

 『グッドワイフ』(TBS系)の第1話に登場した日下部直哉(武田鉄矢)は、YouTuberではないがインターネット配信番組で扇情的な報道をするニュースキャスター。テレビのワイドショーではなくネットの記者が報道の自由を名目に偏向報道をした視聴者を煽っている姿を見ると、時代の変化を感じる。

 これだけ登場するのは、我々にとってYouTuberが身近な存在となったことの現れだろう。2~3年前は、得体の知れない存在だったYouTuberは、HIKAKINを筆頭とするスターが登場し、様々なメディアに登場したことで市民権を得た。その一方で、犯罪スレスレの過激な配信で注目を浴びる炎上型のYouTuberも登場し、様々な事件を起こすようにもなった。

 先日、バイト先で悪ふざけをしている姿をスマホで撮影してInstagram等にアップするというバイトテロがSNSで話題となった。バイトテロも、最初に話題となった2013年頃と比べると、世間の反応も報道のされ方も含めて、ある種の共通理解が成立しているように感じたが、そんなふうに誰もが動画の送り手になることが可能となった現代の風景を、真逆のアプローチで描いていたのが『JOKER×FACE』(フジテレビ系)と『3年A組 ―今から皆さんは、人質です―』(以下『3年A組』、日本テレビ系)だ。

 『JOKER×FACE』はYouTuberの流川(松本穂香)が、うだつのあがらない中年男性・柳(松尾諭)を使って、危険な番組をリアルタイム配信するというドラマだ。「オレオレ詐欺をやってみよう」「出会い系サクラ業者に潜入!」といった各話のタイトルからもわかるとおり、YouTuberたちの潜入取材を実況するドラマとなっている。取材対象に接触する柳に対して、ダメ出しする流川の姿は悪魔のようで、松本の中にある暗い魅力を引き出していた。カメラを武器に軽薄な口調でえげつない言葉を浴びせることで真実を露わにする流川の姿は、クリストファー・ノーランの映画『ダークナイト』に登場するヴィラン(悪役)・ジョーカーのようだ。

 昨年放送された『炎上弁護人』(NHK)に登場した岩田剛典が演じるネット中継を得意とするWEBニュース記者も同じような軽薄な不気味さを醸し出していたが、おそらく世間の考えるYouTuberとはこういうものなのだろう。

 冬クールのドラマに登場したYouTuber(あるいは動画配信系ジャーナリスト)の姿をみていると、YouTuberやSNSに対する世間の関心がいかに肥大化しているのかがよくわかる。

 そんな状況そのものと対峙し、熱いメッセージを残そうとしたのが『3年A組』だ。

 女子生徒・影山澪奈(上白石萌歌)の自殺の真相を究明するためにクラスメイト全員を教室を閉じ込めて、教室に立てこもった教師の柊一颯(菅田将暉)を主人公とする本作は、映画『告白』や連続ドラマ『女王の教室』(日本テレビ系)といった教師と生徒が殺し合うバッドテイストの学園ドラマになるかと思われたが、話数が進むにつれて、どんどん内容が変わっていった。やがて、自殺の背後にフェイク動画を作った半グレ団体と動画作成を依頼した教師がいることが判明し、物語のスケールはどんどん拡大していく。

 最終的にどういうオチになるのだ? と固唾を呑んで見守っていたら、柊が屋上で演説。事件の模様は、マインドボイスというSNSでずっと注目されていたのだが、マインドボイスを見ている人々に対して「お前らネットの何千何万という悪にまみれたナイフで何度も何度も刺されて、影山澪奈の心が殺されたんだよ」と柊は言う。

 無数の批判コメントが表示される中、自分の意見を表明する柊。他人事のゴシップとして消費していたら、モニターの向こうにいる柊が「お前に言ってんだよ!」と、直接話かけてきたかのように感じた視聴者も多かったのではないかと思う。

 若者向け学園ドラマという今のテレビドラマでは劣勢のジャンルが高視聴率を獲得し、ちゃんと10代の若い視聴者に届いたのは、SNS被害というモチーフがそれだけ若い子にとって切実な問題だからだろう。YouTuberとSNSが当たり前のものとなったことをもっとも象徴していたドラマである。

(成馬零一)

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