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土岐麻子やCharaの音楽性はなぜアップデートし続けるのか? 近作の傾向から探る

リアルサウンド

19/10/28(月) 18:00

 土岐麻子が、前作『SAFARI』からおよそ1年半ぶり通算10枚目となる『PASSION BLUE』をリリースした。本作は、2017年リリースのアルバム『PINK』から続く「シティポップ3部作」に位置付けられるもの。プロデューサーには『PINK』、『SAFARI』に引き続きトオミヨウを迎えてレコーディングが行われている。

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 トオミヨウは、自身のソロ活動と並行して石崎ひゅーいや槇原敬之、菅田将暉、あいみょん、Ivy to Fraudulent Gameら音楽性もキャリアも多岐にわたるアーティストのプロデュースやアレンジ、楽曲提供などを手がけてきた1980年生まれの音楽家。シンガーソングライターからバンド、エレクトロまで様々な音楽スタイルに対応できる引き出しの多さと、ボーカリストの持つ声の質感やメロディラインを大切にしたサウンドプロダクションにより各方面から高い評価と信頼を得ている。土岐の作品にも以前から楽曲提供という形で関わってきたが、『PINK』からは全面プロデュースという形で抜擢され、新たな方向性を見出し大きな飛躍を遂げる彼女にとって、非常に大きな力となってきた。

 Cymbals解散後、ソロアーティストとしてのキャリアをスタートさせ、スタンダードジャズやポピュラーミュージックに軸足を置きつつ同時代のクリエイターと共に「最新鋭のポップス」を歌ってきた土岐。自らの音楽性については、かねてより山下達郎やEPO、大貫妙子、吉田美奈子ら、かつて「シティポップ」と言われていたアーティストからの影響を公言していた。が、その一方で「単に懐かしい音楽をオマージュし『これがシティ・ポップです』と言ってしまうシーンに違和感を感じていた」(参照:土岐麻子公式サイト)という。そして、「今、自分が聴きたいもの、やりたいことに挑戦しなければ、それはシティ・ポップにならないという結論にたどり着いた」(参照:TuneGate)彼女は、当時よく聴いていたFunkstorung(ドイツのエレクトロニックデュオ)や、そのメンバーであるマイケル・ファケッシュの音作りにインスピレーションを受けながら、「2017年なりのシティポップ」を築き上げていく。

 例えばそれは、Francis and the Lightsの『Farewell, Starlite!』(2016年)やBon Iverの『22, A Million』(同年)のボーカルエフェクトを彷彿とさせるアカペラ曲「City Lights」のサウンドテクスチャーが如実に示している。土岐にとって最大の強みである「声」を機械に通し、アコースティックとエレクトリックを絶妙なバランスでブレンドすることで、古い街並みと近未来的な高層ビル群が混在する「現代の東京=シティ」を表現してみせたのだ。

 続く2018年の『SAFARI』は、前作で試みた「シティポップの再定義」をさらに押し進めた内容である。東京オリンピックに向けて再開発が進み、昨日と今日では全く様相を変えてしまう「途中の風景」を、そのままフィルムに焼き付けたようなダイナミックで疾走感あふれるサウンドプロダクションと、そこに暮らす人々の息遣いを丁寧に掬い上げた歌詞世界が「2018年の東京」を立体的に映し出しており、アルバムに耳を傾けているとまるでその空間を探検(サファリ)しているような気分を味わえる。

 そして届けられたのが本作『PASSION BLUE』だ。「PASSION(情熱)」と「BLUE(憂鬱)」という、相反するワードを共存させたアルバムタイトルは、あいみょんのツアームービーや、Yogee New Wavesのアーティスト写真などを手がける20代の写真家・小林光大による「青」を基調としたアートワークと共に、「都会の喧騒とその中で暮らす人々の孤独」という前作から土岐が感じていた「現代の東京=シティ」のイメージを見事に象徴している。

 SANABAGUN.のバッテリーである澤村一平(Dr)をはじめ、NU minorやLululuに所属する玉木正太郎(Ba)、土岐の朋友というべき朝倉真司(Dr)ら気鋭のミュージシャンをゲストに招きながら、トオミと共に作り上げたサウンドプロダクションはこれまで以上に野心的。「High Line」におけるトラップビートの導入や、「Ice Cream Talk」でのG.RINAによるラップのフィーチャーなどは、土岐にとって初の試みだ。そして、サウンド先行で書かれたという歌詞も、「今この瞬間」をビビッドに切り取ったような言葉が並ぶ。例えば、〈誰もあなたの美しさはかれない〉というサビのラインが強烈な「美しい顔」は、SNSにより日々更新されていく価値観について歌ったメッセージ性の強い楽曲。また「Ice Cream Talk」では、土岐が子供の頃から憧れていた〈西麻布のホブソンズ〉の〈2階窓際〉からの風景を描写し、移りゆく東京の景色を楽曲の中に刻み込んだ。さらにこの曲では、〈孤独という名の靴は 履きなれたらどこまでも行ける自由の靴〉とも歌い、「孤独」は「自由」と表裏一体であり、決してネガティブなことだけではないと聴き手に呼びかける。

「孤独だと感じて交差点に立つと誰も知らなくて怖いけど、自由なんだと思えると、一人一人が輝いて、街の灯りも綺麗に見える。そんな街が大好きだって気持ちを音楽で表現したいと思っていたので、すごくうれしいです」(参照:http://meetia.net/interview/asakotoki_passionblue/)

 2004年にソロデビューしてから15年。通算10枚目のアルバムにして「シティポップ」の新たなるスタンダードを確立させた土岐麻子。キャリアを重ねながらも作品ごとにアップデートを繰り返し続けているのは、彼女が自分より下の世代のミュージシャンやクリエイターと、積極的に交流を重ねていることも理由の一つとして考えられるのではないだろうか。

 そういう意味では、昨年『Baby Bump』をリリースしたCharaも同様。サウンド的には彼女のルーツであるソウルやファンクに立ち返りながら、LUCKY TAPESのKai Takahashiや、TENDREこと河原太朗、mabanuaといった新進気鋭のアーティストを迎えることで、現在進行形のサウンドプロダクションを構築していた。最近のツアーでも、CRCK/LCKSの小西遼(Sax)をバンドマスターに迎え、同じくCRCK/LCKSから越智俊介(Ba)、松本ジュン(Key)ら若手ミュージシャンを呼び寄せるなど、新しいものへの嗅覚は相変わらず鋭い。常に好奇心を持って新しいことにチャレンジし変化し続けていった結果、今のチーム~交友関係が形成されていったということなのだろう。

 一度築き上げたスタイルに拘泥したり、現状維持に甘んじたりすることなく、常に新たな挑戦をし続けアップデートを繰り返している土岐麻子とChara。彼女たちが今後、どのような景色を私たちに見せてくれるのか。今から楽しみでならない。(黒田隆憲)

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