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春日太一 実は洋画が好き

「ロイ・シャイダーに外れなし」を決定づけてくれた『恐怖の報酬』

毎月連載

第28回

21/4/26(月)

『恐怖の報酬』 ©MCMLXXVII by FILM PROPERTIES INTERNATIONAL N.V. All rights reserved.

前回『ブルーサンダー』を久しぶりに観ながら、「ああ、やっぱりロイ・シャイダーはいいなあ」と改めて思わされた。

インテリジェンスを感じさせつつ、それでいてタフガイとしての逞しさも合わせもつ。寡黙でクールに見せつつ、その内側には熱い魂が宿る。といって圧倒的に強いかというとそうではなく、苦悩し傷つきながら強大な敵に立ち向かっていく……。

等身大のヒーロー。矛盾した表現かもしれないが、そんな言葉がよく似合う。『ブルーサンダー』もそうだし、『フレンチコネクション』『ジョーズ』『デス・ポイント』『ジャッカー』など、演じる役柄の立場にかかわらず、“頼りになる大人”というのが子供の頃に抱いたロイ・シャイダーへのイメージだった。

特に、困難なミッションを押しつけられつつ、必死にその役目を全うしていこうとする役柄を演じる際、その魅力はより一層輝いていた。

ウィリアム・フリードキン監督の『恐怖の報酬』のロイ・シャイダーも、そうだった。

アンリ=ジョルジュ・クルーゾー監督による傑作映画のリメイクで、近年になってオリジナル完全版が公開・ソフト化されて再評価が高まっている作品である。

©MCMLXXVII by FILM PROPERTIES INTERNATIONAL N.V. All rights reserved.

最初の劇場公開時は生まれたばかりの頃で、これを初めて観たのは1980年代になってからの、何度目かのテレビ放送時だと記憶している。つまり、オリジナル完全版に比べて30分も短いバージョンだ。ただそれでも、「とてつもなく面白い映画だ」と思えた。

舞台は独裁政権下にある南米の某国。山中の油田で爆発事故が起き、石油会社は爆薬を大量に運び込んで消火する決定を下す。爆薬はニトログリセリン。運搬の際に少しでも衝撃を受けると、大爆発の危険性がある。

©MCMLXXVII by FILM PROPERTIES INTERNATIONAL N.V. All rights reserved.

その運搬の役割を受けることになったのが、密林にあるならず者たちの集う街にそれぞれ事情を抱えて隠れ暮らす4人のアウトローたちだった。難所が続く悪路を300キロ、彼らはトラックで向かう。

ロイ・シャイダーはその運搬人のひとり、ドミンゲスを演じる。

これが、とにかくカッコいい。ミッション開始前からひとつずつの準備を積み重ねていくのだが、大変なことが待ち受けているのを分かっていながら……いや、だからこそ……決して慌てず騒がず、進めていく様は、まさに真骨頂。見るからに蒸し暑そうに映し出される南米奥地の空気と、ロイ・シャイダーの鋭くクールな眼差しとが、見事なコントラストになっていた。

といって、いつも冷静でいるわけではない。ミッションが始まると、危機また危機の連続。ドロドロでボロボロになった密林の迷宮にハマり込むにつれてドミンゲスは時に苛立ち、怒り、怒鳴り、慟哭し、途方に暮れ……と感情を露わにする。序盤のクールなロイ・シャイダーからの表情の変化が、これがいかに危機を孕んでいるミッションなのかを観る側に生々しく伝え、緊迫感は尋常ならざるものになっていった。

©MCMLXXVII by FILM PROPERTIES INTERNATIONAL N.V. All rights reserved.

ロイ・シャイダーなら判断を間違えないだろう……そんな観る者に与える説得力と安心感がかえって、その後に待ち受ける「えっ!」という衝撃的かつ絶望的な状況へのミスリードに結果的に繋がっている展開も面白い。

そういった極限状況まで登場人物たちを追い込んでいったウィリアム・フリードキンのリアリズムあふれる演出と、それに応えるロイ・シャイダーら4人の俳優たちの熱演が合わさり、最高のサスペンス感と濃厚な人間ドラマとに貫かれた傑作に仕上がっている。

もちろん、子供の頃はそこまで考える余裕はない。とてつもなく怖くて、面白くて、カッコイイ。そんな「とてつもなく面白い映画」。それが当時の受けた印象だった。

「ロイ・シャイダーに外れなし」。当時、そんな想いを決定づけてくれた一本だ。

関連情報

『恐怖の報酬【オリジナル完全版】』

BD&DVD発売中
BD|KIXF-630|税込5,280円(税抜4,800円)
DVD|KIBF-1648|税込4,180円(税抜3,800円)
発売・販売:キングレコード
©MCMLXXVII by FILM PROPERTIES INTERNATIONAL N.V. All rights reserved.

プロフィール

春日太一(かすが・たいち)

1977年、東京都生まれ。映画史・時代劇研究家。著書に『天才 勝新太郎』『仁義なき日本沈没―東宝VS.東映の戦後サバイバル』『仲代達矢が語る 日本映画黄金時代』など多数。近著に『泥沼スクリーン これまで観てきた映画のこと』(文藝春秋)がある。

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