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太田和彦の 新・シネマ大吟醸

シネマヴェーラ渋谷で観た成澤昌茂監督『花札渡世』、ラピュタ阿佐ヶ谷の鈴木英夫監督『燈台』。

毎月連載

第14回

19/8/2(金)

『花札渡世』 (C)東映

『花札渡世』
シネマヴェーラ渋谷
特集「名脇役列伝IV 伊藤雄之助生誕百年記念 怪優対決 伊藤雄之助vs西村晃」(7/6〜26)で上映。

1967(昭和42年)東映 93分
監督・脚本:成澤昌茂 撮影:飯村雅彦
音楽:渡辺岳夫 美術:森幹男
出演:梅宮辰夫/鰐淵晴子/伴淳三郎/遠藤辰雄/安部徹/西村晃/小林千登勢/沢村貞子

太田ひとこと:私は鰐淵晴子の大ファンでおおいに期待したが、お人形みたいでした。

〈軍靴の響きが近づく時代、親分に煮え湯を飲まされた梅宮辰夫は〝仁義は死んだ〟ことを骨身にしみて知る……。ヒロイン・鰐淵晴子と悪女・小林千登勢、いかさま賭博師・伴淳、悪徳刑事・西村晃と、モダンかつリアルな人物造形が素晴らしい。画面構成にアートとノワールの香り漂う成澤昌茂監督の最高傑作!〉。シネマヴェーラ渋谷のちらし解説文はいつもうますぎる! これが行かずにいられるか。

成澤昌茂は戦前から巨匠・溝口健二に心酔して内弟子となり〈三味の音絶えない花柳界の真ん中で「女がやることを全部やりなさい」と掃除、洗濯、繕いものなど溝口の世話すべてをし「芝居を知るためには歌舞伎を見ることです」と歌舞伎座通いを続け、溝口の『元禄忠臣蔵』『団十郎一代』『宮本武蔵』『名刀美女丸』の助監督をつとめる〉(「日本映画監督全集」キネマ旬報社より抜粋)。

これだけの人の仁侠映画とはどういうものか。製作された1967年は監督:マキノ雅弘・主演:高倉健の『日本侠客伝』シリーズが大ヒットして東映の仁侠路線が決定的に定着したころ。成澤監督作品は『裸体』『四畳半物語・娼婦しの』『花札渡世』『雪夫人絵図』(溝口作品リメイク)『妾二十一人・ど助平一代』と5本のみで、どちらかというと脚本家のイメージだ。この作ももちろん自作脚本。

梅宮は青森の親に捨てられて、東京のやくざ親分・遠藤に拾われた恩に生きる無口禁欲のいい男。小林千登勢は遠藤の養女でありながらじつは妾で、好色な遠藤が目をかける美人女中を手下に殺させたうえ梅宮にも色目を使う。

出所した客分・安部徹は、連れてきたいかさま賭博師・伴淳と組む美女・鰐淵晴子に「オレの嫁になれ、さもなくば悪徳刑事・西村晃にいかさま容疑でお前を渡す、そうなればまともな結婚はできない」と臆面もなく言い寄る。

一方、遠藤も鰐淵に目をつけ、どちらが鰐淵を取るかを賭け、梅宮(遠藤側)と伴淳(安部側)に花札勝負をさせる。梅宮が負けて頭に来た遠藤は伴淳を斬り、梅宮にも「この野郎、負けやがって」と刃を向けて逆に斬られ、安部も遠藤の手下から斬られる大騒動になり、梅宮は鰐淵を連れて逃げる。

孤児の身を伴淳に拾われていた鰐淵は独り身となり、梅宮は拾われ者同士といずれの夫婦約束をして自首する。しかし三年の出所後に会った鰐淵は大店の嫁におさまり、過去を消していた。梅宮は、親分の仇と囲む安部の手下たちを全員斬り殺し、ついでに通報で来た西村も斬る。

目茶苦茶な展開を、花札のアップによる季節感の表現、いかさま博打のスリル、大掛かりなセット白黒画面のノワール感、えんえん続くリアルな斬り合い、戦争に向かう時代背景などまことに丁寧な作りで、悪い奴全員が死んで終わる。

ふう……。がんばって作ったのはわかるが、あまりおもしろくないのは、肯定できる人物が一人もいないからだ。梅宮は頭が悪い。鰐淵は心がない。小林千登勢は女で斬り殺されるが同情はわかない。悪玉をやらせたら右に出る者のない遠藤、安部、西村の三人がやり過ぎの演技でいやがうえにも目立つ。台詞や音楽がやたらボリュームが大きくうるさい。そういう映画でした。




原作は三島由紀夫最初期の戯曲

「添えもの映画百花繚乱 SPパラダイス2019」チラシ

『燈台』
ラピュタ阿佐ヶ谷
特集「添えもの映画百花繚乱 SPパラダイス2019」(5/26〜7/27)で上映。

1959(昭和34年)松竹 63分
監督:鈴木英夫 原作:三島由紀夫
脚本:井手俊郎 撮影:山田一夫
音楽:池野成 美術:植田寛
出演:津島恵子/久保明/河津清三郎/柳川慶子

太田ひとこと:ホテルの窓から望見する灯台はセットだろう。お金をかけたのはここだけ。

出征したまま戦後も台湾に残った久保明が実家に戻ると、父・河津清三郎は津島恵子と再婚していた。久保とは五歳しか違わない若い美貌の母に、久保はたちまち恋心をいだき、久保の妹の女子大生・柳川慶子はその二人を察してはらはらする。

タイトルバックに夜の灯台が印象的に写る。進路を照らす明かりであり、夜なお燃える情熱であり、回転する光は心の動きでもある。

伊豆大島のホテルにやってきたその後の妹の回想で、久保が復員した二年後、河津・津島・久保・柳川の四人が一家で大島に旅行に来た一夜を描く。舞台はホテルの夜の兄妹の部屋。妹の中座で二人になった久保・津島はおずおずと会話のための会話をするうち、次第に言ってはいけない領域に入り、そこに何も知らぬ河津がウイスキーを手に入って来る。のぼせあがる久保はついに「お父さんに話があります」と言いだし、津島はあわて、妹は止めに入り……。原作は三島由紀夫最初期の戯曲だ(1949年「文學界」発表/三島24歳)。題材はいかにも三島好み。

SP(1時間程度のショートピクチャー)にこれを取り上げた監督:鈴木英夫はこのとき三十五歳。第二作『蜘蛛の街』以来『殺人容疑者』『魔子おそるべし』『大番頭小番頭』『くちづけ』『彼奴を逃がすな』『チエミの婦人靴』『青い芽』『危険な英雄』『脱獄囚』『花の慕情』(以上全部観てます)と多ジャンルで実績を重ね、テーマにストレートに迫る切れ味を見せていた彼が、「新進作家」の戯曲をどう料理したかが見どころだ。

舞台劇の原作を映画的に描くこと(散歩に連れだすとか、ばったり出会うとか、密会するとか、ロングショットとか、心象風景とか)はしないで、画面が一室から出ることはなく、伊豆大島の風景は妹の双眼鏡で説明するだけ。ヨーク考えればどうってことない話をよけいに解釈せず、台詞まわしとカット割りのみで進め、三島の技巧話術を崩さずに描く。

一夜の回想が終わってふたたび冒頭(現在)にもどり、その後どうなったかが明かされる。どうなったと思います? その解決に三島らしさを感じたが。

映画的映像はシンボリックな夜の「灯台」だけ。終わってみればこういう映画はあまりないなと気づく。おそらく三島文学の最初の映画化で、ある意味の実験作だったかもしれない。

ラピュタ阿佐ヶ谷ロビーに貼られた当時の劇場向け宣伝資料に宣伝文案がいくつか載っている。これあたりが適切か。

〈許されぬ美しき義母に対する愛の告白! 若き青年の悩みを託して明滅する灯台の灯! 鋭利な感覚で描破する三島文学会心の映画化!〉


プロフィール

太田 和彦(おおた・かずひこ)

1946年北京生まれ。作家、グラフィックデザイナー、居酒屋探訪家。大学卒業後、資生堂のアートディレクターに。その後独立し、「アマゾンデザイン」を設立。資生堂在籍時より居酒屋巡りに目覚め、居酒屋関連の著書を多数手掛ける。



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