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おとな向け映画ガイド

今週のオススメはこの4作品。

ぴあ編集部 坂口英明
20/2/10(月)

イラストレーション:高松啓二

今週末に公開される作品は15本(ライブビューイング、映画祭を除く)。全国100スクリーン以上で拡大上映されるのが『1917 命をかけた伝令』『グッドバイ~嘘からはじまる人生喜劇~』『影裏』の3本。ミニシアターや一部シネコンなどで上映される作品が12本です。この中から、おとな向きの映画4作品をご紹介します。

『1917 命をかけた伝令』



今日、10日に発表された米アカデミー賞。作品賞は惜しくも逃しましたが、撮影賞、視覚効果賞、録音賞を受賞したイギリス映画です。本国では、英アカデミー賞作品賞、英国作品賞を受賞しています。

1917年、第一次世界大戦のヨーロッパ西部戦線を舞台にした戦争映画です。『西部戦線異状なし』やキューブリックの『突撃』でも描かれましたが、塹壕(ざんごう)の戦い。延々と続く壕で対置する持久戦です。その塹壕からドイツ軍がなぜか撤収。このチャンスにイギリス軍は1600人の部隊で追撃を決めます。ところが総攻撃開始の前日に、退却は罠であることが判明。このまま進めば1600人は全滅必至です。しかし最前線への通信が遮断されてしまい、作戦中止の指令が届きません。頼りは直接文書を届ける伝令のみ。命じられたのは若いイギリス兵ふたり。兵士でごった返す自軍の壕を抜け、撤退した敵の壕に飛び込み、野を越え、川を越え……リミットは明朝。とにかく走る、のです。

この作品の評判が高い理由は撮影方法。普通、映画はカットとカットを編集でつなぎますが、この映画は、伝令兵士の行動を、最初から最後までワンカットで追い続けます。次々とおきるアクシデント、敵の攻撃……。カメラとともに観客も伴走しているかのように、一部始終を目の当たりにするわけで、その緊張感たるや大変なものです。119分、息つく暇もありません。

監督は、第一次大戦に参戦した祖父から伝令の体験を聞かされたというサム・メンデス。ミッションを命じるエリンモア将軍役でコリン・ファース、最前線で伝令を受け取るマッケンジー大佐役をベネディクト・カンバーバッチが演じています。主役のスコフィールド上等兵役のジョージ・マッケイは当然ながら出ずっぱりです。

『影裏』



今更ながら、役者の力を感じます。震災前後の岩手・盛岡を舞台にした男ふたりの友情、というか、不思議な人間関係を描いた映画です。主演の綾野剛、松田龍平が芥川賞受賞の原作をはるかにしのぐ存在感です。

不慣れな盛岡に転勤となった今野(綾野)が、職場の同僚・日浅(松田)と親友といってもいい仲になるのですが、日浅は突然、転職。そのあたりからふたりの関係がぎくしゃくしてきます。そして大震災。日浅は釜石に出張に行っていたようですが、行方不明に。消息を探し始めた今野は、隠されていた日浅の一面を知ることになります。「知った気になるなよ。お前が見ているのは、ほんの一瞬、光があたった所だけだ」といっていた日浅。彼は一体何者なのか。

謎めいた役を演じたら松田龍平ほどぴったりくる役者はいません。彼にBL的な思いも少しあり、しだいに翻弄される今野役、綾野剛もいい佇まいです。ふたりが釣りを楽しむ緑あふれる盛岡の清流の美しさ、震災後の不安な雰囲気……、美術や撮影スタッフの仕事ぶりにも拍手、です。監督は、NHKの大河ドラマ『龍馬伝』や映画『るろうに剣心』シリーズの大友啓史。盛岡の出身です。

『ふたりのJ・T・リロイ ベストセラー作家の裏の裏』

本当にあった話です。21世紀初頭のアメリカ。『サラ、神に背いた少年』という小説がベストセラーになりました。作者はJ・T・リロイ。女装の男娼だった経験をもとに書いたといい、カバーをみるとミステリアスな美少年です。セレブやアーティストからも支持され、時代の寵児となったこのリロイなる美少年作家、実は存在せず、40過ぎのローラという売れない女流作家の創造物でした。写真も適当にみつけたものでした。が、ローラが、写真のイメージそのままの、中性的な魅力を持つ女性サヴァンナをみつけ、彼女にリロイを演じさせると、これが大成功。サヴァンナは見事になりすまし、パリで堂々と記者会見をしたり、ハリウッドで映画化されるとカンヌ映画祭に現れたりと大ブレイク。ところが、2006年、ニューヨーク・タイムズの報道でこの嘘が暴かれてしまい……。

この事件は、ローラを中心に描いた『作家、本当のJ・T・リロイ』というドキュメンタリー映画にもなっていますが、今回の作品は、リロイを演じたサヴァンナが書いたノンフィクションをもとに、彼女も製作に加わって作られています。誰かになりすますことの背徳的な魅力と、罪悪感というよりバレたらどうなるのかという恐れと、バレてもいいやという開き直った行動、わかるような、わからないような。

サヴァンナ役のクリステン・スチュワートは、近く公開のリブート版『チャーリーズ・エンジェル』にも出演。ローラを演じたローラ・ダーンは、『スター・ウォーズ 最後のジェダイ』で紫色の髪をしたホルド提督を演じてました。ブルース・ダーンの娘です。

首都圏は、2/14(金)から新宿シネマカリテ他で公開。中部は、3/7(土)から伏見ミリオン座で公開。関西は、2/14(金)からテアトル梅田で公開。

『山中静夫氏の尊厳死』

末期の肺がんで余命3カ月を宣告された山中静夫氏が、故郷の山を見ながら死んでいきたいと、信州・佐久の病院を訪ねます。浜松にある雑貨屋の婿養子となり、長く郵便配達の仕事をしてきました。それは真面目な初老の男性です。妻は、見舞うのに車で2時間もかかる病院への入院は反対でしたが、これまで、文句ひとついわなかった実直な夫が初めて自分の強い意思をみせたことで、同意します。山中さんの生まれた在所は、もう限界集落になっていて近所のおばあさんが一人住んでいるだけ。実家もすべて死に絶え、廃屋寸前になっています。ここで、山中さんには「やっておきたいこと」があったのです……。

山中静夫役は中村梅雀。もうひとりの主役は主治医の今井医師。津田寛治が見事に演じています。次から次へと患者を見送る日々、今井医師は、山中さんを看取ったあと、うつ病を発症してしまいます。「個室にしますか、相部屋にしますか」ときかれ、山中さんは「何が何でも個室。最後くらい人に気を遣いたくない」と色をなして主張します。それで与えられた角部屋の浅間山が見える個室。思い残すことはそれほどなく、朝な夕なにふるさとの山をみて、ていねいに対応してくれる先生がいて。ある意味考えられる理想の死に方かもしれません。

首都圏は、2/14(金)からシネスイッチ銀座他で公開。中部は、3/21(土)から名演小劇場他で公開。関西は、3/20(金)からシネ・リーブル梅田他で公開。

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