立川直樹のエンタテインメント探偵 ジョン・レノンの生涯を追った本を出版! プロデュースした京都のイベントではレコード伝道師のような気分になった 毎月連載 第65回 20/12/16(水) シェア ツイート 立川直樹著『ラプソディ・イン・ジョン・W・レノン』(PARCO出版刊) すべての写真(6)を見る 12月8日に“没後40年記念刊行”としてジョン・レノンの40年の生涯を追った旅の記録をまとめた『ラプソディ・イン・ジョン・W・レノン』(PARCO出版刊)、11月21日の9時からNHK BS1で放映された『“イマジン”は生きている ジョンとヨーコからのメッセージ』はちょうど校正原稿も全部戻した後だったので、区切りにもなって実にいい感じで観ることができた。 とても丁寧に作られていて、改めてジョン・レノンという人間のかけがえのなさを見つめ直し、その夜は久々に名盤『ジョンの魂』を聴き、レコードという複製物の素晴しさに酔いしれたが、11月24日に京都のACE HOTELで催した“ACE VINYL SALON”では総額にすると1千万円になるテクニクスのハイ・エンドのオーディオ・システムでフレディ・マーキュリーの超絶なヴォーカルを聴き、その思いはさらに大きくなった。 これはアナログ・レコードをメインにして名アーティストの残した“いい音楽”を楽しもうという企画で60年代や70年代にレコード店や図書館などで催されていた“レコード・コンサート”を21世紀に復活させたようなものだが、前日の23日には天橋立の旅館“千歳”のカフェで天国と結びつく音楽というようなコンセプトで、ボブ・ディランの『天国への扉』や、レッド・ツェッペリンの『天国への階段』などをかけ、最後はサイモン&ガーファンクルの『明日に架ける橋』で締めていたので、レコード伝道師のような気分にもなっている。 京都の方は限定50名ということだったのにほぼ即日完売で何とか20席を追加して行ったが、来てくれた人たちの反応は極上で、こちらとしてもやりがいがある。 『“ACE VINYL SALON” Vol.1:京都でフレディ・マーキュリーを聴く』イベントの様子 11月24日はフレディの命日だったが、次回は来年1月10日のデヴィッド・ボウイの命日に“VINYL SALON Vol.2”として開催するのが決まっているし、11月7日の命日に“REMEMBERING LEGEND COHEN”と題してコーエンの歌をかけ続けた渋谷のセルリアンタワー東急ホテルのBAR“BELLOVOSTO”では、1月18日と19日の2日間、本の出版記念としてジョン・レノンの歌を聴く会を催すことになっている。 そこそこのオーディオヘッドフォンなどではどうしても再生不可能な歌声や楽器の音が本当にそこで歌い演奏しているように聞こえる悦楽は、自分でプロデュースしているイベントなのに、当の本人が一番楽しんでいるのかも知れない。 “展覧会ツアー”で観た三菱一号館美術館『ルドン、ロートレック展』、宮島達男『Uncertain』展など そして、アートワークも含めてレコードは本当に素晴しいものであり、形のあるものの重要性を感じさせてくれるが、27日の金曜日、感染者数の増加によって神戸のチキンジョージで予定されていたミュージック・アンリミテッド・オーケストラのライヴが中止ということになってしまい、ボコッと丸1日時間があいたので出来た“展覧会ツアー”ではその思いがいっそう強くなった。 まず最初に行ったのが三菱一号館美術館の開館10周年記念『1894 Visions ルドン、ロートレック展』、次が以前から行ってみたかった明治大学博物館。新聞記事で見て興味があった刑事部門は1929年設立の刑事博物館が前身だというが、展示室に並んだギロチンや鉄の処女のレプリカや北町奉行所与力の蜂屋新五郎親子が1814年に完成させた取り調べのマニュアル「刑罪大秘録」などを見ていたら時の経つのを忘れてしまった。 『ルドン、ロートレック展』の中の“東洋の宴”のコーナーに展示されていた山本芳翠なる画家が1893年(明治26年)頃に描いたという《浦島》という絵にも、こんな時代にこんな絵を描く日本人がいたのかと驚かされるもので、画集を探そうと思っている。 『開館10周年記念 1894 Visions ルドン、ロートレック展』チラシ 『開館10周年記念 1894 Visions ルドン、ロートレック展』展示風景 山本芳翠(嘉永3年‒明治39年) 浦島 1893-95(明治26-28)年頃 122.0╳168.0 cm 油彩/画布 岐阜県美術館 Hosui Yamamoto (1850-1906) Urashima (Old Japanese Folktale) Oil on canvas 丸の内から神田を経て、次に行ったのが谷中のスカイザバスハウス。数字というユニバーサルな記号を表現言語の中核に位置づけ、1と9の間を行き来する発光ダイオード(LED)の明滅によって、生と死、およびその周囲との複雑な関係性を、力強く、また端的に表現してきた宮島達男の『Uncertain』展が観たかったからだが、やはりこの人の作品のオリジナリティは群を抜いている。そして宮島達男ともよく仕事をしている和多利恵津子・浩一姉弟が運営しているワタリウム美術館で開催中の『生きている東京展』も抜群におもしろかったし、その日に始まったブティックJUNKO KOSHINOでの“HUGO YOSHIKAWA MUSIC ART”も小ぶりながら魅力的な作品が並んでいた。この5つの展覧会をツアーした3日前の24日には京都の何必館で『ドアノー、生きる喜び ROBERT DOISNEAU展』も観ているが、これと『生きている東京展』については次回で続きを書くことにしよう。 Installation view of “Uncertain”(2020) by Tatsuo Miyajima at SCAI THE BATHHOUSE, Tokyo. Photo by Nobutada Omote. Courtesy the artist and SCAI THE BATHHOUSE. データ 『ラプソディ・イン・ジョン・W・レノン』 著者:立川直樹 発売日:2020年12月8日 価格:3,500円+税 PARCO出版刊 『“イマジン”は生きている ジョンとヨーコからのメッセージ』 放送日:2020年11月21日 NHK BS1 Ace Vinyl Salon Vol.1:京都でフレディ・マーキュリーを聴く 日程:2020年11月24日 会場:エースホテル京都 2階 宴会場「Bellview」 Ace Vinyl Salon Vol.2:David Bowie(デヴィッド・ボウイ)Memorial 日程:2021年1月10日 時間:【昼の部】受付13:30、開演14:00、閉会15:30予定 【夜の部】受付17:00、開演17:30、閉会19:00予定 ※昼夜で内容が変わります。(一部重複の可能性あり) 入場料:8,000円(税込、軽食、1ドリンク付) 会場:エースホテル京都 2階 宴会場「Bellview」 お問い合わせ:エースホテル京都 セールス&マーケティング部 075-229-9002(平日 9:00~18:00) 『開館10周年記念 1894 Visions ルドン、ロートレック展』 会期:2020年10月24日~2021年1月17日 会場:三菱一号館美術館 明治大学博物館 常設展示:「大学史展示室」「商品部門」「刑事部門」「考古部門」 開館時間・休館日・アクセス等詳細はこちら 宮島達男 『Uncertain』 会期:2020年11月7日~12月12日 会場:SCAI THE BATHHOUSE 『生きている東京展』 会期:2020年9月5日~2021年1月31日 会場:ワタリウム美術館 『ドアノー、生きる喜び ROBERT DOISNEAU展』 会期:2020年9月12日~11月29日 会場:何必館・京都現代美術館 プロフィール 立川直樹(たちかわ・なおき) 1949年、東京都生まれ。プロデューサー、ディレクター。フランスの作家ボリス・ヴィアンに憧れた青年時代を経て、60年代後半からメディアの交流をテーマに音楽、映画、アート、ステージなど幅広いジャンルを手がける。近著にSUGIZO、TAKUROとの対談集『CONVERSATION PIECE ロックン・ロールを巡る10の対話』(PARCO出版)、『I Stand Alone』(青幻舎)、『ラプソディ・イン・ジョン・W・レノン』(PARCO出版)。 次のページ すべての写真(6)を見る シェア ツイート