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『鍵のかかった部屋』はやはり傑作だった 大野智VS玉木宏の直接対決の結果は? 

リアルサウンド

20/6/30(火) 6:00

 先週に引き続き、介護サービス会社の社長が密室となった社長室で殺されていた事件のトリックに迫る『鍵のかかった部屋 特別編』(フジテレビ系)。2012年に放送されていた際と前後編の切れ目が異なるため、すでに先週の前編の時点でビル清掃員の佐藤学(玉木宏)が登場。よって、榎本(大野智)はもちろん青砥(戸田恵梨香)や芹沢(佐藤浩市)たちも佐藤が犯人であるという目星を立てた上で物語が進むこととなり、犯人の人物像にフォーカスしたエピソードというよりは、これまでの流れ通り密室ミステリーの解答編としてのニュアンスが強くなった印象だ。

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 佐藤学という人物の素性を調べに彼の故郷の町を訪れた青砥は、“佐藤学”だと思っていた人物の本名は“椎名章”であり、彼が両親の借金に苦しみ、借金取りを刺して追われる身となっていた過去にたどり着く。一方で榎本は、介護用ロボットが何故社長室にあるのかという謎に向き合い、70cm以上のものを持ち上げられないという性質から部屋の隅にあったキャビネットを持ち上げるためだけに使われていたものだと見抜き、さらにその底面に隠し扉があるのを発見。横領した金銭をダイヤに替えて隠していた場所であると断定する。そしてどのように社長が殺されたのかを考え、部屋の窓ガラスが風で揺れていることに違和感を覚えるのだ。

 今回の事件のトリックは、紛れもなく完璧な密室の中で、犯人がその現場に足を踏み込むことなく殺人に着手するという、“密室ミステリー”のジャンルの中でもかなり稀有なものといえるだろう。そのトリックとして使われた「デッド・コンボ」とは、劇中でも映像を用いて説明されている通り、ビリヤードのコンビネーション・ショットのテクニックのことである。ナインボールのように最初に当てなければいけない的球が指定されているときなどに、キューで撞く手球から、近くにある的球を介して異なる的球をポケットに落とす。その際に、手球から最初の的球が適切に中心点を捕えてまっすぐと当たることで、手球の運動量はそのまま100%伝搬するというものだ。

 もっとも、これはビリヤードの球がいずれも同じ大きさで同じ質量の球体だからこそ完成されうるものであるわけだが、劇中ではその原理が鈍器・窓ガラス・社長の頭と、まちまちの三者に置き換えられている。それでも防弾ガラスは“弾丸の貫通を止める”という性質を持ち、おそらく普通のガラスよりも衝撃を全体に分散させようとする働きが強く、100%ではなくともかなりの衝撃を内部に伝搬することが可能なのであろう。また、あらかじめガラスに動きを持たせていたことも、意外な衝撃で割れやすいといわれる防弾ガラスの欠点を補うためのものだと推測できる。

 それにしても凶器に使われたボウリングの球を見ると、本作と同じく貴志祐介の小説を森田芳光監督が映画化した『黒い家』を思い出さずにはいられない。同作のラストでは大竹しのぶが内野聖陽をボウリングの球とともに追い詰め、階段での攻防の末に内野が大竹の頭をボウリングの球で殴打し撃退する。原作小説ではボウリングというエッセンスは登場しておらず、映画オリジナルの要素だったと記憶しているが、今回の『硝子のハンマー』では原作からボウリングの球が凶器として登場している。まるで『黒い家』の映画版脚色へのアンサーと呼べるトリックだったのではないだろうか。

 さて、次回放送が延期となった『SUITS/スーツ2』の代替として8年ぶりに再放送された『鍵のかかった部屋』。第1話と第2話、そしてスペシャル版を挟んで第8話~最終話までが放送されたわけだが、いわゆる“月9らしさ”はないとはいえ、練りこまれたトリックと登場人物たちのコミカルな掛け合いが絶妙なバランスで混ざり合う傑作だと再確認できた。原作小説のエピソードのほとんどが一気に映像化されたわけだが、それでもすべてではなく、できればまた大野智・戸田恵梨香・佐藤浩市のキャストそのままで残りのエピソードを映像化してもらいたいものだ。 (文=久保田和馬)

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