Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play

ぴあ

いま、最高の一本に出会える

「無名新人」なぜ主役に? 視聴者と作り手に刺激をもたらす“新たな原石”に注目

リアルサウンド

19/6/28(金) 12:00

 石井裕也監督が手掛ける映画『町田くんの世界』において、主演をほぼ演技未経験の新人・細田佳央太と関水渚の二人が務め、話題を集めている。

【映像】『町田くんの世界』オーディションの舞台裏

 主人公・町田くんの母親には松嶋菜々子、主演二人を取り巻くクラスメートや同学年、後輩には前田敦子や岩田剛典、高畑充希など、主役級キャストを多数配置し、太賀や池松壮亮などの演技派が絶妙なスパイスを添える。脇を華のある役者や、個性派・演技派などの豪華キャストで固め、真ん中で無名新人が瑞々しくのびのびと演じるのは、一つの理想的な構図でもある。

 殊にこの作品の場合、主役の町田くんは、あまりの優しさ・善良さから「キリストって呼ばれてる」一方で、「ああいうヤツが事件起こすんだよ」などと陰口をたたかれてしまうほど、理解不能な異質な存在だ。ありえないほど純粋で、浮世離れした町田くんは、「普通」なのに浮きまくっている。そんな純粋さと違和感が、一生懸命に不器用に全力で真っすぐぶつかっていく新人・細田に、ピタリとハマっている。

 ヒロインを演じる関水もまた、意志の強さや孤独を漂わせる強い目ヂカラが印象的で、登場したばかりの頃には、傷を負った野生の動物のように見えた。しかし、「恋」を知ってしまってからは挙動不審になり、意味のわからない苛立ちを見せ、不格好な振る舞いをする一方で、それがどんどん可愛く魅力的に見えてくる。間違いなく役とともに作品の中で変化していっているのが見えるにつれ、観客も彼女の感情に巻き込まれていく。

 このように、無名の新人俳優をメインのほうに置き、脇を経験豊富な役者で固める手法は、ときどき用いられる。

 記憶に新しいのは、『中学聖日記』(TBS系)で、有村架純演じる教師と禁断の恋に落ちる中学生を演じた岡田健史だろう。

 大人びた見た目に、追い付かない心の幼さを持つ、アンバランスで純粋な少年。本格的な演技は初体験だった岡田は、まだたどたどしさもあり、それがかえって少年から大人に変わる時期の混乱や苛立ち、青さ、不安定さ、危うさを感じさせ、鮮烈な印象を与えた。

 テクニックでこなせる経験値がないからこそ、口をついて出る言葉にも表情にも嘘がなく、「芝居」している感がないのは、このドラマの大きな魅力となっていた。

 映画畑では、新人俳優を好んで使う監督もいる。

 例えば、園子温。『愛のむきだし』で見せた満島ひかりの狂気をはらんだ野性味あふれる演技には、監督自身も圧倒されたと語っている。『ヒミズ』の二階堂ふみの演技は、怖さや不気味さ、痛さを感じるほどに生々しかった。

 また、世界的に高い評価を受ける河瀬直美監督の起用方法は、独特だ。

 有名な例でいえば、実力派女優として知られる尾野真千子。彼女は、『萌の朱雀』で14歳のときに主演デビューしたが、中学校で靴箱の掃除をしたときに河瀬監督の目にとまったことがきっかけだったという。

 俳優・村上淳と歌手・UAを両親に持つ村上虹郎も、『2つ目の窓』で主演デビューしたときには、全くの素人だった。河瀬監督の場合は撮影方法も独特で、主演の俳優は、その人物としてその空間を生きるために、撮影の1~3週間くらい前から住み込む。また、撮影前に「用意スタート」とは言わず、役者にはいつカメラがまわっているかわからない状態で動いてもらうというスタイルをとっている。

 『万引き家族』がカンヌ国際映画祭でパルムドールを受賞した是枝裕和監督も、演技経験がない新人を多く起用するが、子役に台本を渡さず好きに動いてもらうスタイルをとることは、有名な話だ。

 いずれも演技経験がない新人で、「芝居する」のではなく、その役を生きる手法をとっているため、リアルな表情が引き出され、それが大きな魅力となっている。

 『腐女子、うっかりゲイに告(コク)る。』(NHK総合)でナチュラルな演技を見せた藤野涼子も、『ソロモンの偽証』のオーディションで選ばれ、主演デビューした例だ。

 ドラマにおいては、近年はキャスティングが増え、オーディションで選ばれる無名新人の主役が減っているとはいえ、NHKの朝ドラこそが「無名新人+経験豊富な脇役勢」のフォーマットとなっていると言えるだろう。

 朝ドラの場合は、半年間という長い期間があるため、素人でたどたどしかったヒロインが役柄の成長とともに役者としても成長していく姿を、共演者もスタッフも視聴者もみんなで見守り、応援していくという楽しみ方が定番だった。

 また、『あさが来た』(NHK総合)でブレイクしたディーン・フジオカや、狂言の世界から映像の世界に引っ張り出された『あぐり』(NHK総合)の野村萬斎、舞台俳優として活躍していたところからラブコールを受けてテレビドラマに進出した『オードリー』(NHK総合)の堺雅人や佐々木蔵之介など、ある意味テレビでは名前が知られていなかった人たちが、畑違いの場所から抜擢されるケースも朝ドラには多々ある。

 無名の新人を起用するメリットは、手垢がついていないために、視聴者側が役柄と同一視しやすいこと。演じ手も一体感を持ちやすいこと。

 また、演技経験があまりない者の場合は、経験で獲得してきたテクニックに頼らず、役柄に全力でぶつかり、全力で作品を生きる場合が多いこと。得意な表情や仕草などの「型」を持たず、変なクセもついておらず、作り手が想定していなかったような、思いがけない新鮮な表情やリアクションが飛び出すことがあることなど……。

 視聴者の中には、いつでも新たな「原石」を探している人たちが少なからずいる。作り手側にとっては、その思いはますます強いだろう。だが、視聴率や興行収入、さらに撮影期間の制限や物理的な手間などを考えると、無名の新人俳優をメインの役柄に起用するのは、楽なことではない。

 しかし、その楽ではないことにあえて挑戦している監督や作品、見出された役者たちには、胸を熱くさせる膨大なエネルギーが満ちている。だからこそ、私たちは「無名新人俳優」と、その作品に強く惹かれてしまうのだろう。

※河瀬直美の「瀬」は旧字体が正式表記

(田幸和歌子)

アプリで読む