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『レディ・プレイヤー1』はオマージュの数々に注目 名作ホラーからの引用はどのように誕生した?

リアルサウンド

20/7/3(金) 8:00

 ロードレージの恐怖を描いたテレビ用映画『激突!』(1971年)で映画初監督を務め、いまや世界的なヒットメイカーとしてその名を轟かせるスティーヴン・スピルバーグ。彼のフィルモグラフィーを覗くと『未知との遭遇』(1977年)や『E.T.』(1982年)などのSF作品はもちろん、『太陽の帝国』(1987年)や『プライベート・ライアン』(1998年)といった戦争作品も存在感を示しており、その振り幅の広さには驚嘆せざるを得ない。およそ40年のキャリアを誇るスティーヴン・スピルバーグについては、もはや説明不要だろう。そんな世界的な映画人でさえ、ときには映画製作の中で困難に直面する。その中でも“著作権”という面で最も苦労を強いられた作品こそ、7月3日に日本テレビ系『金曜ロードSHOW!』で地上波初放送される『レディ・プレイヤー1』(2018年)ではないだろうか。

参考:『レディ・プレイヤー1』は見る「LOVE PHANTOM」? 完璧を求めてしまう夢の映画

 原作者のアーネスト・クラインは、筋金入りのオタク作家である。『レディ・プレイヤー1』の原作小説『ゲームウォーズ』(SBクリエイティブ刊)は米国でベストセラーを記録し、日本をはじめ世界各国で翻訳されている。クラインの大衆文化に対する敬意と情愛は、本書の中にも顕著にあらわれた。この物語では、日本や米国をはじめとする世界中のポップカルチャー作品から誰もが知る――あるいはマニアックな――キャラクターが総動員され、さまざまな版権のキャラクターが“オアシス”と呼ばれる仮想現実の世界でクロスオーバーを果たしている。まさにオタクが想像した夢の世界というワケだ。

 例えば、アニメーション映画『アイアン・ジャイアント』(1999年)からタイトルロールの巨大ロボが登場し、一方では日本の人気テレビアニメ『機動戦士ガンダム』シリーズから“RX-78”が飛翔する。小説版では『ブレードランナー』(1982年)の巨大企業タイレル社が登場し、東映版『スパイダーマン』からレオパルドンが姿を見せる。さまざまな年代の映画やテレビ、アニメ、マンガ、そしてゲームなどが作品の垣根を越えて一堂に会する、夢の空間だ。ゆえに、その気宇壮大な世界観から、映像化はまず不可能であると思われた。

 映画化ともなれば、登場するキャラクターのそれぞれの版権元から許可を得なければならず、そうした権利上の問題をクリアしなければならない。一筋縄ではないかない難しい問題だが、結果として映画は、著作権で保護された原作要素のおよそ80パーセントを確保し、この壮大な物語を映画として結実させるに至っている。著作権というデリケートな問題を無事にクリアできたのは、やはりスピルバーグの評判があってこそ。彼のキャリアが最も大きな効力となったのだろう。なにせ、あの世界的なスティーヴン・スピルバーグが映画を撮るとなれば、みなこぞって許諾するハズだ。さすがスピルバーグ。彼のネームバリューは計り知れない。

 しかし、である。原作小説に登場している『ブレードランナー』の世界観を、映画でも再現しようとする試みは最後まで実現しなかった。映画脚本の初期草案では、『レディ・プレイヤー1』の中に『ブレードランナー』の世界がそのまま再現される予定だったのだ。この構想が白紙となった理由は、やはり権利上の問題だった。同作の続編『ブレードランナー 2049』(2017年)が『レディ・プレイヤー1』と同時期に製作されていたことが原因で、新作公開に躍起になっているワーナー・ブラザースが容易に許可を下すわけもなかった。ワーナーとの交渉が空振りに終わったことで、これらの構想は幻のものとなってしまったのだ。

 そこでスピルバーグ監督は、『ブレードランナー』の代替として、盟友スタンリー・キューブリックの『シャイニング』(1980年)を提案。初稿における『ブレードランナー』の重要なシーケンスを、キューブリックの名作ホラー『シャイニング』(1980年)に変更した。スピルバーグといえば、ジョン・フォード、黒澤明、アルフレッド・ヒッチコックなど多くの映画人から影響を受けているが、その中でもスタンリー・キューブリックは極めて特別な人物といえよう。スピルバーグにとってキューブリックは親友あるいは師ともいえる存在であり、スピルバーグが最も尊敬する人物のひとりでもある。

 キューブリックは生前、スピルバーグを自身の後継者として指名しており、のちにスピルバーグはキューブリック原案の『A.I.』(2001年)を監督するに至った。元々、『A.I.』はキューブリックの企画であり、ブライアン・オールディスの小説『スーパートイズ』(竹書房刊)の映画化として始動したのだが、キューブリックの急死によって企画は一度白紙に。その後、スピルバーグが亡きキューブリックの遺志を継ぎ、『A.I.』を見事に完成させている。そういうわけだから、キューブリックの名作を引用するのも、いたって自然な流れである。余談だが、スピルバーグは過去に何度もキューブリック作品からヒントを得ており、スピルバーグの『戦火の馬』(2011年)では、キューブリックの『突撃』(1957年)によく似たシーンを盛り込むなどしている。ゆえに、キューブリックにオマージュを捧げる『シャイニング』の当該シーケンスは、極めて必然ともいえる結果だろう。

 さて、それら以外にも映画では、予告編でもフィーチャーされているヴァン・ヘイレンの「ジャンプ」や、ビー・ジーズの「ステイン・アライヴ」、そしてプリンスやテンプテーションズなど1970年代から1980年代の音楽も多分に用いられ、多彩な時代のポップカルチャーに最大限の敬意を示した唯一無二の作品となっている。画面に映るキャラクターたちだけでなく、音楽にも耳を傾けてほしい。きっと新たな発見があるはずだ。そして重要なストーリーは極めてシンプル。VR(ヴァーチャル・リアリティ)世界で3つの鍵を見つけ、その世界の覇権を掛けて謎を解いていく壮大なアクションだが、その中には現代人に向けた健気で強いメッセージが込められている。このワクワクとドキドキこそ、まさにスピルバーグ作品の醍醐味ではないだろうか。

■Hayato Otsuki
1993年5月生まれ、北海道札幌市出身。ライター、編集者。2016年にライター業をスタートし、現在はコラム、映画評などを様々なメディアに寄稿。作り手のメッセージを俯瞰的に読み取ることで、その作品本来の意図を鋭く分析、解説する。執筆媒体は「THE RIVER」「IGN Japan」「映画board」など。得意分野はアクション、ファンタジー。

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