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「竹内涼真の歌に心が震える」 翻訳&演出・谷賢一インタビュー 【世界初演の注目作!】ミュージカル『17 AGAIN』連続インタビュー第3弾

ぴあ

谷賢一 撮影:源賀津己

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竹内涼真の初舞台にして主演作となる、ミュージカル『17 AGAIN』。本作の翻訳・演出を担当し、竹内の演劇に対する“筋力”を鍛えようとリードしているのが、劇作家・演出家の谷賢一だ。開幕を約1ヵ月後に控えたタイミングで、谷の瞳に映った“演劇人”竹内の魅力や、世界初演となるクリエーションの舞台裏を語ってもらった。

世界初演のプレッシャーも、生みの楽しみに

──谷さんはこれまでご自身の作・演出作に取り組む一方で、海外戯曲の翻訳・演出もしてこられました。その実績を買われて『17 AGAIN』に起用されたのかな……と勝手ながら想像したのですが、本作において何を期待されていると感じていらっしゃいますか?

ミュージカル『17 AGAIN』は世界初演で、原作映画の本国アメリカでも上演されていない作品です。誰も上演したことがないものを日本版として1からつくっているわけですから、いろんな引き出しや知識が要求される。今回はハイスクール文化の“あるある”ネタやジョークが散りばめられているので、それらを理解した上で、日本人向けに易しく噛み砕いたり置き換えたりすることができたらいいなと思っています。

──象徴的に表れているシーンをご紹介いただけますか?

この作品におけるひとつのおもしろさって、35歳の主人公マイクが姿かたちだけ17歳に若返っても“中の人”の意識はそのままで、オッサンくささ全開なところ。だからあえて格言や古事成語を言わせて、説教臭くしてみたり、親父くさい口調を入れたりしました。他のジョークも「日本に置き換えたらこうだろう」と変換しては楽しんでもらえるように工夫してます。

──演出面ではどんな創意工夫をしていらっしゃるのでしょうか?

翻訳と演出の両方を手がけるメリットは、現場でのブラッシュアップがすぐにできることかなって。原文のニュアンスを紹介しつつ「こんな風に演じてみて」と伝えたり、稽古で俳優と相談しながらその場で新しい翻訳を試してみたり。世界初演ですから、僕がアメリカと日本の橋渡し役として機能できたらいいかなって。

──“世界初演”にはプレッシャーも付きものと思いますが、そんな作品を手がける生みの苦しみ・楽しさをどんな点に感じていらっしゃいますか?

どんな作品でも、初演はいろんなトラブルに出くわしますよね。今回は生まれたての戯曲が日本に届いて、いま暗中模索しながら必死につくっているんですけど「このシーン、大転換なのになんで曲ないの?」「おい、6行後には別の人間として出てるぞ、早替えどうすんだ?」みたいなことに直面するのは日常茶飯事。でも我々スタッフ全員の知恵を総動員すればきっと解決策があるはずだし、むしろ「どうやったら形にできるかね?」とポジティブに試行錯誤しています。それは創作の苦しみでありながら、同時に楽しみでもある。キャストも含めて前向きに立ち向かってくれている。いいカンパニーですね。

蜷川幸雄さんがご存命なら、竹内涼真を放っておかなかった

──初舞台&ミュージカルにして主演を務める竹内涼真さんの舞台俳優としての魅力を、谷さんはどんなところに感じていらっしゃいますか?

昔から俳優って「一声、二顔、三姿」といわれていて、 “声” がとっても大事なんです。涼真くんの声は本当に素晴らしく、鳴るし、太いし、天性の武器だと思います。サッカーをやっていたから体はキレるし、役の心情を理解した瞬発力ある演技だってできる。俳優として優秀なスキルを持ち合わせていますが、彼の圧倒的な資質は“声” だと思います。稽古場で歌を聴いていても本当に胸を打つし震える。その下地がある分だけ、伸びしろもすごく大きいと思いますよ。

今は舞台でどう振る舞うべきか、演劇における表現とはどうあるべきか模索して、ひとつずつ獲得している最中ですね。それが彼の体感にしっかり入り込んだら、より素敵な俳優になるんじゃないかな。

──竹内さんの成長を目の当たりにすることを、演出家としてどう受け止めていらっしゃいますか?

妄想ですけど、蜷川幸雄さんがご存命だったら放っておかなかったんじゃないですかね。藤原竜也さんのようにド真ん中(主演)でバーン!と使ってね。日本を代表する舞台俳優になれる素質を秘めていると思います。我々、スタッフもキャストも含めて舞台人の仲間がみんなでうまく導いて、才能を開花できる方向に持って行けたらいいですよね。

歳を重ねることを喜劇として笑い飛ばせたら

──その竹内さんからお聞きした話によれば「ミュージカルは映画よりもっと笑える」とか。舞台化に際して“コメディ”に寄せた意図はどこにあるんでしょうか?

歳を重ね、人生がうまくいかずヤケクソになることって当事者にしてみれば悲劇かもしれないけど、喜劇と受け止めることができたら救われる。特に悩んでいる本人の周りにいる人間からしたら「かえって笑える」要素も大いにあると思うんです。

僕も40に手が届く年齢になって、ハッキリ“中年”になってみるとですね……歳を取るのは悲劇でなく喜劇だってことを実感していて。

──笑い飛ばしたい喜劇ですね。

そう! 笑い飛ばさないとやってられない(笑)。自然に生きているだけなのに帳尻が合わなくなってきて「カッコつけられるのは20代までだな」と思い知らされる。だからオッサンくささ丸出しのマイクを通じて「自分もカッコ悪い年の重ね方してきたなぁ」って笑えたら、お客さんにもきっと楽になってもらえるのかなって。

──歳を重ねるといえば、インタビュー で竹内さんが「ポスター用につくった中年マイクのビジュアルは撮影し直した方がいいと思うほど、ミュージカルの35歳マイクはダサい仕上がりになっている」とおっしゃっていました。映画より見た目をかなりデフォルメされるんでしょうか?

はい。仕事でも評価されず、家族ともすれ違い、疲れ果てて希望を失った35歳のマイクは、バスケットボールのスター選手でイケてた頃のカッコよさがすべて失われ、ダサい中年オヤジになっている。台詞で何度も「中年太り」って出て来ますから。でも、あの竹内涼真をカッコ悪くするのってかなり難しいんですよ!

──たしかに! ギャップがどう形になるか気になります。

今スタッフが全力を尽くして、どこまで彼をダサくできるか競争しています! たとえば肉襦袢を体につけて太らせたり、衣裳もあえてイケてないコーディネートにしてみたり。いろいろ試しながら、歳を重ねることの笑える悲しさを涼真くんに伝えているところです(笑)

──歳を重ねることについて描かれた本作のテーマや発するメッセージについて、谷さんはどのように考えていらっしゃいますか?

この作品を演出するオファーをいただいたのが現在の僕で、本当によかったと思うんです。40代に迫ろうとしている今の自分には、妻と子どもがいる。マイクと同じように結婚して時間が経ったから、妻にも“家族”という感覚が芽生えてきました。「家族とは」「親であること」みたいな実感が得られるようになってから携われてよかったなって。

じゃあ家族の幸せって、反対に家族でいることのツラさって何なのか──。実際に体験する中でしかわからない「家族って何だろうね」という問いを、この作品はずっと投げかけています。お客さんは劇中の登場人物……ダメ親父の主人公マイク、奥さんのスカーレット、娘マギー、息子アレックスの誰に感情移入するかは人それぞれだと思いますが、彼らの変化や成長を通じて「家族の在り方」に感じ入ってもらえたらいいですね。

日本版だけの独自シーンは「劇中屈指の問題場面」

──4月2日のツイートで、谷さんは「超重要な日本独自の場面を稽古した」とおっしゃっていました。どんなシーンなんでしょうか?

桜井日奈子演じる娘マギーちゃんと、有澤樟太郎扮する彼氏スタンくんによる問題のシーンですね!(笑)

最初にアメリカから届いた上演台本には存在したのに、最終原稿として届いた脚本では一曲まるごとカットされていたナンバーがあったんです。

──上演台本上で無くなった楽曲を、どんな意図で挿入されたのでしょうか?

高橋亜子さんの訳詞も完成し、僕らもその楽曲を何度も聴いていたから「もったいないから入れようよ!」と原作者に働きかけて。それで「日本版ではやっていいですよ」とOKをいただいて取り組んでいるシーンなんですけど……テレビなら放送コード、ギリギリアウトくらいの「よくこんな下ネタ放り込んできたな!」ってことのオンパレードで(笑)。

──そういう崖っぷちの内容こそ気になります(笑)! 竹内さんもインタビューの去り際に、下ネタの存在は匂わせていらっしゃって……どんな流れで登場するんですか?

娘の彼氏スタンが……「僕は絶対にセックスがしたい!」って思いの丈をぶちまけます! で、マギーちゃんが「でもでも」と言いつつ拒めない……みたいな掛け合いをしているだけの楽曲が3〜4分。

──たしかに「問題場面」ですね(笑)

原作者は「この作品はマイクと家族の物語だから、娘と彼氏のエピソードは短めに」と考え直してカットしたのかもしれません。でも訳詞の亜子さんは凄まじい創意工夫でこの楽曲を手がけてくださって、天才的な歌詞になっているんですよ!「これをカットしてしまうのはもったいない」と半ば使命感に駆られ、何とか日本版では残してもらいました。

青春期の男の子はみんな「セックスしたい!」という強い思い、誰にも負けない志を持っている。好きな人と交わりたい、人間の根源的な欲求と想いを代弁したく、全力で(笑)創作しています。

キャストの愛嬌やユーモラスな一面を引き出せる稽古場づくりを

──下ネタのエピソードで稽古場の大らかな雰囲気がイメージできました(笑)。谷さんは作品を成功させるために、キャストに対して何を心がけながら接していますか?

どういう作品を演出しているかによって、俳優に投げかける言葉や現場の空気のつくり方はずいぶん異なってくるので、毎回あてはまるわけじゃありませんが……今回の稽古場でいえば、とにかく「リラックスしてやれる」という雰囲気づくりは大切にしていますね。

というのも、やっぱりこの作品は基本的にはコメディですから。初舞台の涼真を含め、各自が持っている愛嬌やユーモラスな一面を安心して出せるような、安心できる空気づくりって本当に大切なんですよ。僕の演技プランを押し付けるんじゃなくて、それぞれの個性を引き出したい。そう考えるとキャストをガッチガチに管理して締めつけるのではなく、自由にやらせて遊べるような余白のある稽古場にしたいんです。どんな挑戦をしても「恥ずかしくない!」「試してみよう!」と思えるような、ほっこりした現場でありたい。

──リラックスした空気や余白によって生み出された印象的なシーンはありますか?

あの涼真が、女の子にデレッデレになって変な動きをしているシーンがありますよ! あれは面白いけど、僕が彼に強制的に指示してもうまく行かないと思う。本人が考えて自主的にやり出したから「おもしろいね」って周りも認めて、成立している場面です。

──まさかの谷演出ではない、という(笑)

そう、僕の指示じゃない(笑)。そういう彼の、滑稽でチャーミングな一面が作品の中に表れていることも楽しみにしてもらえたら嬉しいですね。

──開幕が俄然楽しみになりました。体調に気をつけて、お稽古がんばってください!

取材・文:岡山朋代 撮影:源賀津己

抽選で5名様にミュージカル『17 AGAIN』公演グッズをプレゼント! 連続インタビューの感想とともにご応募ください!ぴあアプリをダウンロードすると、この記事内に応募ボタンがあります。

ミュージカル『17 AGAIN』連続インタビュー
第1弾:竹内涼真インタビュー記事はこちら
第2弾:AKIHITOインタビュー記事はこちら

公演情報
ミュージカル『17 AGAIN』
劇作・脚本:マルコ・ぺネット
作詞・作曲:アラン・ザッカリー&マイケル・ウェイナー
翻訳・演出:谷賢一
出演:竹内涼真 / ソニン / エハラマサヒロ / 桜井日奈子 / 福澤希空(WATWING) / 有澤樟太郎 / 水夏希 / 他

【東京公演】
2021年5月16日(日)~2021年6月6日(日)
会場:東京建物Brillia HALL

【兵庫公演】
2021年6月11日(金)~2021年6月13日(日)
会場:兵庫県立芸術文化センター KOBELCO 大ホール

【佐賀公演】
2021年6月18日(金)~6月20日(日)
会場:鳥栖市民文化会館 大ホール

【広島公演】
2021年6月26日(土)
会場:広島文化学園HBGホール

【愛知公演】
2021年7月1日(木)~2021年7月11日(日)
会場:御園座

※最新の公演情報につきましては、公演公式サイト(https://horipro-stage.jp/stage/17again2021/)にてご確認ください。
(本ページに掲載された情報は5月7日時点のもの)
チケット情報
https://t.pia.jp/pia/event/event.do?eventBundleCd=b2169764