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【re:START】キーパーソンInterview

チームラボ 堺大輔(取締役)

特別連載

12-3

20/8/25(火)

withコロナ時代の美術館・博物館で大きく変化したのが入場方式だ。多くの施設が日時指定の予約制を採用しているものの、方式がそれぞれの施設によって異なるため、利用者の混乱と戸惑いも生じている。このような状況のなか、チームラボは5月より自社で運用していた時間制来館者管理システム「チームラボチケットシステム」の外部提供を開始、注目を集めている。アート集団として知られているチームラボの創業メンバー、堺大輔氏に、ビジネスの観点からwithコロナ時代について伺った。

アート集団チームラボが持つ別の顔

── このコロナ禍のなかでも、チームラボは国内外で精力的に活動し、さまざまな展示を行っています。それに加えて、ITサービスも開発されているのですね。

堺大輔(以下、堺) チームラボは国内外で発表するアート作品で注目をいただいていますが、対企業向けの受託制作も売上の多くの割合を占めています。最近ですと、りそなグループのスマホアプリを開発し、2018年度グッドデザイン賞を受賞しました。現在在籍するメンバーは全体で約700名ですが、そのうちの約7割がエンジニアです。多くのメンバーが、クライアントワーク、いわゆる受託制作を担当しています。アートを体感していただくお客様、ビジネスソリューションを体感していただくお客様、それぞれの声をそれぞれに反映して、よりよい相乗効果を生み出せていると思います。

チームラボチケットシステムイメージ図 ©️チームラボ

── チームラボが開発した時間制来館者管理システム「チームラボチケットシステム」も自社で開発されたのでしょうか?

堺 はい、受託制作部門が制作しました。このシステムは、もともとはお台場にある常設展示の「チームラボボーダレス」のために開発したものです。チームラボは、海外のファンがとても多く、お台場の「チームラボボーダレス」では、開館から1年では、約5割が外国からのお客様でした。既存のプレイガイドは海外からのお客様に対応できないところが多いので、チケット予約と決済が可能で、入場人数も曜日や時間で調節ができる、さらにプレイガイドと自家直販、端末をふくめてすべて一括で在庫管理でき、さらに紙を使わずeチケットで発券できるシステムを導入しよう……と思ったのですが、当時はそのようなシステムを作っているところは見当たらなかった。そこで、なかば仕方なくチームラボで作っていたんです。

── そこにコロナ禍がやってきた。

堺 いろいろな文化施設が閉館を余儀なくされてしまう状況に胸が痛みました。自分が美術館や博物館に行けないのもつらいですが、子どもたちが文化的なものに触れられない状況をなんとかしたいと考えました。だったら、自分たちが現在使っているシステムを活用して、ほかの施設に提供できればいいのではないかと思ったのです。時間ごとに区切ってチケットを販売できるので、入場人数のコントロールが可能です。また、来場者の入場までの待ち時間の緩和、混雑緩和により、快適な鑑賞環境を提供できます。紙のチケットを使わず、入場時はQRコードをかざすだけなので、入場時の接触のリスクも回避できます。文化を体験することに少しでも貢献できるのではないか。そう思ってプレスリリースを出したところ、思った以上に反響がありました。この8月までに100件ほど問い合わせをいただいています。美術館のほか、プールや動物園、遊園地など、人が集まる施設の方にとっては非常に悩ましい問題なのだと、お問い合わせをいただき実感しています。

デジタルの力で、文化施設をバックアップしたい

── たしかに、ホテルやレストランなどの空室や空席在庫の一元管理システムは多くありますが、美術館や博物館、エンタテインメント施設は窓口で当日券を購入するお客様が多かったことや、時間を指定する必要がなかったことから、あまり発達していなかった。

堺 チームラボチケットシステムは、常に全体の在庫数をこちらで管理し、各プレイガイドさんに販売代行していただいているイメージです。データは日々更新する。ユーザ様にとっては、自分の利用するプレイガイドを利用するのもよいし、公式サイトから直接購入も可能です。

クラウドベースなので、読み取りマシンやアプリなど特別な機械を必要とせず最短1ヶ月程度で導入できます。普通のカメラとブラウザが搭載されているスマホやタブレットがあれば、そこからQRコードを読み取って「もぎり」が完了する。専用のハードウェアを作ったりすると、導入に時間がかかってしまいますし、現在のwithコロナの状況下では、触ったものを消毒しなければならないなど、管理の手間がかかり感染リスクが上がっていく。そのような状況ゆえ、このサービスに関心を持つ方が多かったようです。入場ゲートなどを必要としないので、屋外のイベントなどにも対応が可能です。

チームラボチケットシステムイメージ図 ©️チームラボ

── すでに導入されている施設もあるのですか?

堺 先日福岡市にオープンした「チームラボフォレスト - SBI証券」が入居する、PayPayドーム隣のエンタテインメント施設「BOSS E・ZO FUKUOKA」は、このシステムを利用して王貞治ベースボールミュージアムや、絶景3兄弟というアトラクションの入場チケットを販売しています。また、美術館だけでなく、展覧会やイベントを企画・主催する企業様にも採用していただくこともあります。現在、西日本新聞さんの主催する、福岡市博物館の『PIXARのひみつ展』や、福岡市科学館の『ストリートファイター「俺より強いやつらの世界展」』では、この「チームラボチケットシステム」を利用したwebサイトでチケットを予約購入できるようになりました。

時間あたりの人数なども簡単に設定できますし、混雑に応じて入場時間を10分単位から15分単位へ、などの修正も可能なので、繁忙期や閑散期で入場タイミングの調整も可能です。

7月21日にオープンしたエンタテインメント施設「BOSS E・ZO FUKUOKA」内の「チームラボフォレスト - SBI証券」©️チームラボ

── 紙のチケットでは把握できないデータの取得もできそうですね。

堺 基本的に個人情報は取得しませんが、動向は追えるので、いろいろな分析も可能ですね。また、withコロナの状況で好評をいただいているのが、ユーザ様が了承さえすれば連絡先も登録できる点です。現在、施設に新型コロナウイルス感染者が発生した場合に備えて、施設が来場者に連絡先を伺うことがあります。その際、個人情報を紙に記入してもらうとなると、厳重な保管など運用上の手間もかかるし、紙や鉛筆などの消毒の手間が発生してしまう。

チケット予約の時点で連絡先を登録してもらえば、施設にコロナウイルス陽性の人の来場があったと判明したとき、入場日時を調べ、同時間帯にその施設にいた人のみに連絡を行う。このような対応もスムーズに行うことができます。

── 導入した施設からはどのような感想が出ていますか?

堺 クラウドなので、導入が早いという点は非常に好評いただいています。あとは……、実はあまり感想は出てきていません。というのは、このようなシステムは要望や不具合が発生すると開発まですぐに声が届くのですが、うまくいっているときは、それが当たり前なのでわざわざ「すごくよかったよ」と言ってくれる方ってなかなかいないのです(笑)。なので、現状は良い状態なのだ、とこちらは判断しています。

チームラボチケットシステムイメージ図 ©️チームラボ

── 自分たちで運営しているチームラボさんだから、細やかな気配りができているのだと思います。ちなみに、ほかにもエンタテインメント系の施設やサービスにおいて、デジタルの力で改善できそうなポイントがありますでしょうか?

堺 整理券まわりはもう少しスッキリできるかなと思います。人気の展示やコンサートだと整理券を取るために行列する、というちょっと無駄な作業が発生します。たとえば、これを「会場の半径○m以内に本人が来たら整理券をデジタルで発行できる」みたいな仕組みがあれば、わざわざ行列を作らなくてもすみますし、その時間で来場者は他のことができる、整理の列を並ばせる人員もいらなくなる。あと、グッズ販売も整理できそうです。現状は大分改善されていますが、ライブ前後に非常に並ぶ。ワクワクしながら並ぶのも楽しみの一つではありますが、ちょっと時間がもったいないです。

たとえば、事前にチケットを購入した方だけが入れるwebショップを用意しておいて、事前に商品購入まで済ませておき、会場ではピックアップだけ、のようなことも可能だと思います。プッシュ通知で「グッズの準備ができたよ」という連絡を入れることもできるはず。キャッシュレス決済だと、レジを締めた後の作業もスムーズになる。小売店や飲食店で働いた経験がある方はご存知かと思いますが、レジをしめた後の現金の計算は本当に面倒ですから。

── たしかに、デジタルで改善できることって、まだまだたくさんありそうですね。

堺 今回の新型コロナウイルスの影響で、デジタルに置き換えられるものがたくさんあることに多くの人が気づきましたよね。特に文化施設の運用は、人の力に頼っているところが多々あります。状況は厳しいですが、この機会だからこそ、より便利になる余地はたくさんあると思います。Withコロナの時代、チームラボもアートの力だけでなく、テクノロジーの力でも多くの人達をサポートしていけたらいいなと考えています。

取材・文:浦島茂世

プロフィール

チームラボ

アート活動を行うArt collective teamLabの基盤であり、法人格である。最新のテクノロジーを活用したデジタルソリューション、大規模なシステム開発や、プロダクト、デジタルコンテンツの制作、都市計画や建築空間設計などを行う。アーティスト、プログラマ、エンジニア、CGアニメーター、数学者、建築家など、デジタル社会の様々な分野のスペシャリストから構成されているウルトラテクノロジスト集団で、アート、サイエンス、テクノロジー、クリエイティビティの境界を越えて、集団的創造をコンセプトに活動している。ニューヨーク、 ロンドン、 パリ、 シンガポール、 シリコンバレー、 北京、 台北、 メルボルンなど世界各地で常設展およびアート展を開催。 東京·お台場に《地図のないミュージアム》「チームラボボーダレス」を開館。 2022年末まで東京·豊洲に《水に入るミュージアム》「チームラボ プラネッツ」開催中。 2019年上海·黄浦濱江に新ミュージアム「teamLab Borderless Shanghai」を開館。 2020年6月にマカオに常設展「teamLab SuperNature Macao」オープン。 11月8日まで九州·武雄温泉·御船山楽園にて「チームラボ かみさまがすまう森」開催中。

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