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Arca、Yves Tumor、J.A.K.A.M.、DJ KRUSH……小野島大が選ぶエレクトロニックな新譜9選

リアルサウンド

20/3/15(日) 10:00

・Arca「@@@@@」
・Yves Tumor『Heaven To A Tortured Mind』
・Caribou『Suddenly』
・Steve Spacek『Houses』
・Aril Brikka『Dance of a Trillion Stars』
・Huerta『Junipero』
・Wehbba『Straight Lines & Sharp Corners』
・J.A.K.A.M.『ASTRAL DUB WORX』
・DJ KRUSH『Trickstar』

 2カ月のご無沙汰でした。今回もエレクトロニックな新譜から主だったものをご紹介します。

アルカ「@@@@@」

 アルカの新曲「@@@@@」(XL Recordings/Beat)。曲といっても62分を超える異例の大作です。詳しい作品のコンセプトや本人のコメントなどはレーベル公式サイトをご覧いただきたいですが、タイトルからもわかる通り、デビューミックステープ『&&&&&』の続編もしくは姉妹作という意味合いがあるようで、それは「変形していく音の量子で構成される音楽的量子」という点で共通項があるのだそうです。

 60分超の長さといってもプログレッシブやクラシックのようにストーリー的、ドラマ的に構成されたものというよりも、無数の膨大なイメージや音の粒子が拡散・収縮を繰り返すような不吉で煌びやかな世界。この鬼才の底知れぬ異能を知るには十分でしょう。ディストピアの終末処理場のようなアートワークやMVの世界観も強烈の一言。今春最大の問題作と言えるでしょう。

Arca – @@@@@
Yves Tumor『Heaven To A Tortured Mind』

 前作『Safe In The Hands Of Love』で世界中の注目を集めた怪人イヴ・トゥモアの1年7カ月ぶりの新作『Heaven To A Tortured Mind』(Warp/Beat、4月3日発売)。へヴィンでノイジーなエレクトロニックミュージック、スピリチュアルな実験音楽、あるいはオルタナティヴで奇矯なR&B〜ファンクとして極めて独創的な音楽を作り上げてきた鬼才は、本作ではかつてなくボーカルを前面に出した歌ものに挑戦しており、アレンジやサウンドプロダクションもオーソドックスでファンク/ロック的な作りになっています。とはいえ歌自体は個性もスキルも声量も不足していて、たとえばサーペントウィズフィートのようなシンガーソングライターと比べても、プロデューサー、トラックメイカーとしてのイヴ・トゥモアの振る舞いが勝った作品と言えるでしょう。しかしドラァグクイーンに通じるような猥雑で異形のトリックスターとしての存在感は相変わらず強烈で、乱調でグロテスクで危険ですが、狂おしいまでに美しく幻惑的な世界は抗うことのできない魅力を放っています。収録曲「Gospel For A New Century」のMVは必見。レーベル公式サイトはこちら

Yves Tumor – Gospel For A New Century (Official Video)
Caribou『Suddenly』

 カナダのDJ/プロデューサーであるダン・スナイスによるプロジェクト、カリブー(Caribou)の新作『Suddenly』(City Slang/PLANCHA)。マニトバ、ダフニといった名義でも出していますが、カリブー名義では5年ぶり。数学の博士号を持つというダンの作る音楽は、自由で実験的であり、クールで端正で知的な一面を持っていますが、本作は彼は生身の人間が作る温かみや柔軟性、優しさといったものを感じさせる作品です。繊細なボーカルを前面に打ち出し、単なるトラックメイカーや電子音楽家ではなく、優れたシンガーソングライターの内省的で思索的な、あるいはポップでエモーショナルな歌ものとして、秀逸な傑作と言えるでしょう。レーベル公式サイトはこちら

CARIBOU – You and I
CARIBOU – Home

Steve Spacek『Houses』

 オーストラリアはシドニー出身、現在はロンドンで活動するプロデューサー/ビートメイカー、スティーヴ・スペイセック(Steve Spacek)の3作目『Houses』(Black Focus/Beat)は、黒光りする激渋のフューチャージャズ〜ファンク〜ディープハウスで最高です。ビートメイクからボーカル録音までiPhoneとiPadで作られたそうですが、録音も申し分なく、バイナルでじっくり聴きたくなります。レーベル公式サイトはこちら

Steve Spacek – Songlife (Official Audio)
Steve Spacek – Rawl Aredo (Official Audio)
Aril Brikka『Dance of a Trillion Stars』

 スウェーデンのベテラン、アリル・ブリッカ(Aril Brikka)の新作『Dance of a Trillion Stars』は日本のレーベル<Mule Musiq>から。デトロイトテクノから発し、ニューエイジやプログレッシブ、アンビエント〜ドローンまでを包含した、繊細でメランコリックで俳句のように簡潔で無駄がないサウンドを展開しています。積み重ねた年期の確かさを感じる、幽玄の世界。

Huerta『Junipero』

 LA出身ベルリン在住のフエルタ(Huerta)ことスティーヴ・フエルタの初アルバムが『Junipero』(Voyage Recordings)。ダビーでアンビエントなディープハウス〜ダウンテンポエレクトロニカで、カリフォルニアの陽光煌めく木陰でまどろんでいるような絶妙のサウンドスケープが美しくセンス抜群。これから多方面で活躍しそうな品の良さと、柔らかさ、優しさで、いつまでも浸っていたくなります。

Huerta – Junipero (Vinyl Mix) – FULL ALBUM VISUAL

Wehbba『Straight Lines & Sharp Corners』

 ブラジル出身のDJ/プロデューサー・Wehbba(ウェウバ)の3枚目のアルバム『Straight Lines & Sharp Corners』は、スウェーデンのベテラン、アダム・ベイヤーが主宰するレーベル<Drumcode>からのリリース。世界最大規模のテクノレーベルである<Drumcode>でも滅多に出さないアルバム、それもバイナル3枚組という大作ですから期待の大きさがわかると思います。ドラマティックに盛り上がるファンキーミニマルテクノで、巨大フェスで何千人もの人々が踊り狂うさまがまざまざと浮かんでくるような、大バコ向けのアゲアゲのトラックがたっぷり詰め込まれています。近頃テクノらしいテクノアルバムがすっかり少なくなったとお嘆きのあなた、ぜひ。

J.A.K.A.M.『Astoral Dub Work』

 最後に日本人クリエイターの作品を。JUZU a.k.a. MOOCHYのJ.A.K.A.M.名義としては初のアルバムが『ASTRAL DUB WORX』(Crosspoint)が圧倒的に素晴らしい。民俗音楽、ベース、ヒップホップ、ダブ、レゲエ、ハウス、エレクトロニカなどジャンルを越境しながらも、一本貫かれた強靱なグルーヴが腰にくる新時代のワールドミュージックです。その力強い無国籍サウンドは奥深く広がりがあり、かつ美しい。イスラエル、ベルリン、フランスなどのレーベルからリリースされた作品も含まれ、世界各国から多彩かつ幅広いゲストミュージシャンが参加していますが、全曲に施された内田直之のダブワイズによって、そのサウンドは強力に統一され、確固たる骨太の世界観を確立しています。一聴してすぐわかる、聴き応え十分の大傑作。気が早いですが、年末の各メディアのベストアルバムの1枚に選ばれるんじゃないでしょうか。レーベル公式サイトはこちら

J.A.K.A.M . WABISABI DUB
DJ KRUSH『Trickstar』

 そして日本が誇るビートミュージックのレジェンド、DJ KRUSHの新作『TRICKSTER』(Es・U・Es Corporation/3月18日発売)。前々作、前作と、若手のMCやDJ KRUSH作品ではおなじみの音楽家が多数ゲスト参加していたのに対して、本作はDJ KRUSHがたったひとりで作り上げた文字通りのソロアルバムです。ひたすら自己の内面に向き合い、厳しくそのビートを研ぎ澄ませていった至高の境地。ダークでディープでくぐもったアブストラクトヒップホップですが、言葉のない分、聴き手を深い思念の世界に導きます。

RealSound_ReleaseCuration@Dai_Onojima20200315

■小野島大
音楽評論家。 『ミュージック・マガジン』『ロッキング・オン』『ロッキング・オン・ジャパン』『MUSICA』『ナタリー』『週刊SPA』『CDジャーナル』などに執筆。Real Soundにて新譜キュレーション記事を連載中。facebookTwitter

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