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“手を組む”距離感が絶妙! 『ハーレイ・クインの華麗なる覚醒』アンサンブルとしての面白さ

リアルサウンド

20/3/24(火) 10:00

 キャラクターの性質を大事にしつつ、観客の支持を得る。この目標を掲げたとき、ハーレイ・クインはなかなか難しい題材だ。何せ彼女は見た目こそポップで可愛らしいが、中身は紛れもない狂人なのだから。しかし本作『ハーレイ・クインの華麗なる覚醒 BIRDS OF PREY』(2020年)はハーレイ・クインというキャラクターを崩さず、かつ魅力的に描くことに成功している。本作はアンサンブル/チームものの一つの手本になるくらいの秀作だ。

参考:ハーレイ・クインが世界中で愛される理由とは? マーゴット・ロビーが語る

 ジョーカーの恋人、ハーレイ・クイン(マーゴット・ロビー)。彼女は色々あってジョーカーと別れる。その途端、これまでジョーカーの報復を恐れてハーレイのやりたい放題を見逃していた街中の悪党たちが、速攻で手の平を返した。ハーレイも、自分が悪党の間で“ジョーカーの恋人”としてしか認められていなかったと気づき、このままじゃイカンと一念発起。「悪」としての独り立ちを目指して、明後日の方向に暴走するのだった。時を同じくして謎の暗殺者が連続殺人を起こし、タフな女刑事が停職をくらって、歌姫が人生に悩み、スリの少女が暗黒街の大物を怒らせる。やがてゴッサムシティに生きる、立場も考え方もバラバラな5人の女の人生が交錯するのであった。

 時系列のシャッフルによる語り口の面白さ、際立ったキャラ、散りばめられたギャグに、キレ味のよいアクション。そして程よいコンパクトさ。本作は世界を救うような大きな話ではなく、ゴッサムの片隅で起きる小さな事件をテンポよく描く。キャシー・ヤン監督は、クエンティン・タランティーノの『パルプ・フィクション』(1994年)と黒澤明の『羅生門』(1950年)からの影響を公言しているが、本作はこれらの映画にゴリゴリの肉弾戦が加わったパワフルなアクション映画に仕上がっている。そして何より感心したのが、登場人物が各々のスタンスを最後まで変えない点だ。

 ハーレイは最初から最後まで、何をしでかすか分からない狂人のままだ。ギャングを殺して回っている暗殺者ハントレス(メアリー・エリザベス・ウィンステッド)は、過去の復讐を第一に動いている。超能力を持っているが、ある意味で一番の常識人ブラックキャナリー(ジャーニー・スモレット=ベル)は良心に従って動いているだけだし、タフな刑事のレニー・モントーヤ(ロージー・ペレス)は犯罪者をブッ潰すために動く。彼女らを繋ぐキーパーソン、少女カサンドラ・ケイン(エラ・ジェイ・バスコ)も、今日を生き抜くために精いっぱい、お行儀よく大人のいうことを聞きはしない。本作はこの5人の女性が共闘する話なのだが、彼女らはたまたま一緒になっただけ、普段はお互いに出し抜き合う敵同士だったり、何なら初対面だったりする。しかし、たまたま共闘した方がよいタイミングに居合わせてしまったので、ほんとうに一瞬だけ力を合わせるのだ。もちろん、ある部分では面識を持って、茶化し合ったり、励まし合ったりのワチャワチャもあるのだが、程よい距離は常に保たれている。私の文章よりも実際に観てもらうのが早いが、ともかく、この「仲間」や「友達」とも違う、利害関係と仁義のために「手を組む」距離感が絶妙だ。ここに本作の肝があるように思う。もちろん主役はハーレイ・クインだが、アンサンブルとしての面白さがシッカリある。

 どのキャラクターも魅力的だ。カッコいい暗殺者なのに、そのカッコよさゆえに浮いてしまうハントレス。思わず「姉御」と呼びたくなるブラックキャナリーに、ガッツの塊みたいなレニー・モントーヤ。まったく言うことを聞かないが、それゆえに心を開いたときの喜びが輝くカサンドラ・ケイン。彼女らのドタバタはずっと観ていられるほど楽しい。思えば『バットマン』という作品、というか舞台のゴッサムシティは、バットマンとジョーカーが終わらない善悪の戦いを繰り広げる街であり、言い換えれば仲よくケンカを続ける場所でもある。昨年話題になった『ジョーカー』(2019年)は、犯罪が横行するゴッサムシティをドン底として描いた。対して本作は、ゴッサムシティの「仲よくケンカする」明るい部分に注目した作品だろう。本作でのゴッサムは、自分を曲げずに生きることができる場所だ(ただし相手を選ばないと死ぬ)。正義に生きることもできるし、犯罪を謳歌することもできる。狂ったままでいいし、天敵と共闘したっていい。そんな伸び伸びとした空気と、力強いアクションが楽しい1本だ。わんぱくでもいい、たくましく育ってほしい――そんなポジティブな気分になれる快作である。(加藤よしき)

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