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坂道オーディションやNizi Projectも制作 ソニーミュージック新人開発スタッフに聞く、今求められるアーティストの条件

リアルサウンド

19/11/22(金) 16:00

 乃木坂46ら坂道グループを生み出した『坂道オーディション』、JYPとの共同企画『Nizi Project』など、これまでに多種多様なオーディションプロジェクトを展開してきたソニーミュージックが、新たなオーディションブランド『ONE in a Billion』を立ち上げた。

参考:Fischer’s、歩乃華、みやかわくん、スカイピース……YouTuberの歌手デビュー、なぜ相次ぐ?

 今秋から始まった『ONE in a Billion』は、YouTube番組でオーディション模様を追うリアリティーショーとグランプリ選定を一般視聴者に委ねる斬新な審査を取り入れ、これまでにない新たなオーディションの在り方を目指す新プロジェクト。オーディションアンバサダーをスカイピース、番組MCをガーリィレコードチャンネルが担当する。

 第1弾のオーディションテーマは“男性ボーカリスト”。現在2次審査が行われている最中だが、その通過者を対象とした合同合宿審査が12月26日よりスタート予定となっており、ここで初めて審査候補者の面々がYouTube番組にて明らかになるという。合同合宿審査から一般視聴者による審査が行われ、翌年2020年2月5日にはZepp DiverCity(TOKYO)でのファイナルライブ審査を開催。グランプリは、「2020年春、即デビュー」の権利を獲得する。

 米津玄師、清水翔太、CHEMiSTRYといった名だたる男性ボーカリストを擁するソニーミュージックが考える、今求められるボーカリスト/アーティストの条件とは? 今の音楽シーンの潮流から新たなポップスターを創生するブランド『ONE in a Billion』の狙い、そして日本のオーディションの目指すべき未来について、オーディションを運営するソニーミュージック新人開発スタッフに話を聞いた。(編集部)

■可能性に賭けていくのがオーディションの主流に

ーーまず読者の方々に、日高さんと須藤さんが会社の中でどういうお仕事をしているのか、簡単に説明していただけますか?

日高 亮(以下、日高):僕と須藤はソニー・ミュージックエンタテインメントのSDグループという新人開発・育成セクション、その中に今年からできたオーディション部に所属しています。近年、有象無象あるオーディションの中で今までにない新しい形のオーディションを作り、そこからヒットする新人アーティストを生み出すことを目的とした部署です。

ーー日本でも古くからオーディション経由でデビューするアーティストは多いですし、海外ではここ10年ほどでオーディション番組が増えている印象があります。一方で、SNSを通じて自分をアピールするセルフプロデュース力に長けたアーティストも増えていますが、そういった中でオーディションは今どれだけ重要性があると思いますか?

須藤一希(以下、須藤):私がまさにそういったセルフプロデュースに特化したYouTuberやインフルエンサータレント、いわゆるネットクリエイターの方たちのマネジメント業務も担当していて。そういった方たちが身近なところにいると、今までのようにオーディションを受けて、そこで受かってからデビューするような一連の流れに旨味みたいなものを感じていないのではないかと正直思うんです。では、こちら側でオーディションを立ち上げることで何ができるかというと、セルフプロデュースをしている人たちに対して平等な立ち位置で、「うちはこういうことがサポートできますので、ぜひ一緒にやりませんか?」というような打ち出しといいますか、より寄り添っていくことを意識するようになりました。

日高:全方位的にサポートするというよりは、そのアーティストがさらに上のステージに行くために必要な部分をソニーミュージックとして補えたらなと。その伸び代の部分を見させていただいて、可能性に賭けていくのがオーディションの主流になってくるのかなと思っています。

■音楽を手軽に聴けるからこそ“声”が重要視される

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ーー実際、ソニーミュージックでは最近も坂道グループの各オーディションや、韓国のJYPエンターテインメントとタッグを組んだ『Nizi Project』など、さまざまなオーディションを行っています。

須藤:まさに『Nizi Project』と坂道オーディションは私も運営のほうにも携わっているのですが……さっき言ったこととは矛盾してしまうかもしれないですけど、特に坂道オーディションの場合はより多くの人、もはや芸能を目指していないという人たちまでにも波及するように、よりハードルを下げていくことも意識しているので、楽しそうだなと感じてもらえるポップな打ち出しを意識しています。なので、セルフプロデュースという次元ではなくて、単純に「自分的にはどんな才能があるのか」という意識すら芽生えておらず、芸能なんて考えたこともない人の中にある光るものを求めているんです。逆に『Nizi Project』は、これはK-POPの特性でもあると思うんですけど、歌やダンスは当たり前のようにできないといけないし、残っていく面々を見るとある一定のレベルまで磨き抜かれた才能ばかり。そこは違いを感じます。

日高:坂道オーディションの場合、例えば乃木坂46だったら「乃木坂46のイメージを崩さないような、可能性を持つ子たち」を発掘しようと意識する。実は『出れんの!?サマソニ!?』も弊社で行っているんですけど、こちらは『SUMMER SONIC』に出演するアーティストというところで、観客に対してどれだけ訴求できるかを見ていくんです。ただ、今回の『ONE in a Billion』に関しては曲が書けなければいけない、歌がうまくなければいけない、ダンスができないといけないなど、そういうアーティスト像を事前に決めず、とにかく「声」という部分のみに特化しているんです。

 そういう意味では、我々審査する側も「こういう人じゃないといけない」というものが取り払われた状態なので、稚拙な言葉なんですけど「すごくいいな」っていう感覚が審査基準になっていくのかな、というのがひとつあって。それは、運営させていくスタッフ側にとってベーシックなことかもしれないし、加えて視聴者の皆さんも審査に加わる形にもしているので、今のニーズに寄り添ったアーティストが生まれるんじゃないか、今までやってきたオーディションとは異なるものになっていくんじゃないかと思います。

ーーこれまでのオーディションは歌唱力など技術の高さに価値を見出すものが多かったですが、今回のように「声」に焦点を当てるスタイルはありそうでなかったですよね。

須藤:そうですね。おっしゃっていただいたように、これまでは技術的な部分も含めて、バランスよく審査していたと思うんです。

日高:レコード会社の人間からすると、歌の「ピッチ」や「リズム感」、「ビジュアル」という点に目が行きがちですけど、「声」に焦点を当てることでより一般の方が審査しやすくなるのではないでしょうか。

ーーなるほど。最近のサブスクリプションサービスで再生回数の上位にいるアーティスト、例えば米津玄師さんやあいみょんさんは曲の良さはもちろんのこと、やはり声が特徴的な方々ですものね。

須藤:音楽を手軽に聴けるようになったからこそ、心地よさという点でも声がもっとも重要視されているのかなと。

日高:声が綺麗なだけでもいけないし、ざらついていても聴き心地がよければいいのかなと、チャートを見ていてすごく感じます。

■視聴者の声を大切にして一緒に番組を作っていく

ーー海外のオーディション番組と比べても、また違った手法ですよね。

須藤:海外のオーディション番組のいい部分も参考にしていて、YouTubeの番組を連動させてリアリティショー的に追いかけていく形はまさにそれです。やはりオーディションを進めていく上でしっかりとファンを作り、このブランド自体に視聴者をのめり込ませて、そこから自分の好きな「声」を探してもらおうと。

日高:特にオーディションは非常に閉鎖的なものが多い中で、この『ONE in a Billion』に関しては審査の過程から視聴者にしっかり入ってもらって、「私はこういう人がいい」などの各々の意見を発言していただく。可視化されたオーディションにすることを当初から目標としています。そこについては海外のものも参考にしながら、日本の今のシーンに合った独自なものとして作り上げられているなと実感しています。

ーーテレビではなく、YouTubeを通じて番組を配信していく形も新鮮です。

須藤:毎週金土の20時に更新と、基本的には週に2本公開する予定です。YouTubeは今回のアンバサダーであるスカイピースさんもMCのガーリィレコードチャンネルさんも毎日新作を上げているぐらいのレベルなので、我々もなるべくテンポよく更新していこうと。

日高:まず、無料で見られるというのが最大の利点ですよね。テレビだと放送時間が過ぎてしまうと、録画や見逃し配信をしていない限りは観ることができない。でも、YouTubeに公開していればいついかなるときでも、そのチャンネルに行けば番組を目にすることができるわけですから。

須藤:しかも、スマホで気軽に見られるというのも大きいです。

日高:何度でも見られますからね。視聴者同士でのやりとりもやろうと思えばできますし、こちら側からリプライすることもできます。視聴者が求めているものがコメント欄にどんどん書き込まれていくと思うので、そこに対してしっかりトライ&エラーを繰り返す。メソッドがまだ固まっているわけではないので、そういう視聴者の声を大切にして、一緒に番組を作っていくことができればいいかなと。それがYouTubeならではの魅力だと思っています。

■ネットの「当たり前」にレコード会社側が追いついていない

ーー『ONE in a Billion』第1シーズンでは男性を募集していますが、男性に限定した理由は?

日高:今のチャートを見ていると……米津玄師さんや菅田将暉さんはまたちょっと特殊ですけど、それ以外に男性ソロアーティストは少ないなと思っていて、そこにチャンスがあるんじゃないかと感じています。あとは、視聴者が求めているものって、実は「今求められているもの」じゃないところにあるんじゃないかと。視聴者が新鮮に感じるものをしっかりとこちらから提案するのが、ソニーミュージックとしてのプロの仕事だと思うし、それをやり続けてきたから今のソニーミュージックがあると思っています。

須藤:女性ソロアーティストは定期的に出てきているんですけど、男性は少ない印象です。

日高:純粋に今求められていないのか、我々レコード会社側がリスナー側にちゃんと提案できていないのか……そもそも「提案」という形がもはやおこがましいので、「一緒に生み出していきましょう、一緒に音楽シーンを作っていきませんか?」というのがSNSを主流とした時代における新しい在り方なのかもしれません。それで言ったら、オーディションという響きすら古いのかなと思っている自分もいて。一緒に打ち合わせをするような感覚で、日本にあるオーディションのイメージを払拭しなくちゃいけないと思っています。

須藤:それこそ、例えばネットクリエイター系の人たちは自分自身のアーティスト写真も「どれがいい?」とユーザー側に聞いたりと、民意を反映させるのが当たり前だったりします。ユーザーと一緒に作って、SNSを通じて一緒に育てていく感覚が当たり前になっているのに、その「当たり前」という感覚にレコード会社側が追いついていない。そこをしっかり当たり前にしていく作業が、今一番求められているのかなと思います。

■アーティストの素を見せることはブランディング作業の一環

ーー『ONE in a Billion』のオーディションには候補者同士の合宿審査も含まれており、その過程も視聴者に見せていきます。

日高:これは3次審査の中に含まれているのですけど、ステップを踏んだ候補者の色々な良い部分を見たいし、視聴者の方にも見ていただきたくて。最初の話に戻りますけど、「歌がうまい」や「いい曲書けます」だけではダメな気がしていて、その人がステージに立ったときの佇まいや喋り方、そういうところのカリスマ性と人間力も大切な気がするんです。そういう部分を共同生活の中で視聴者に見せていけたらいいなと。候補者も成長するだろうし、そういう進化の可視化のためにも合宿を取り入れています。

須藤:そういう部分を好きになってもらって、さらにデビューしたあとにより応援していこうと思えるように。

日高:誤解されたくないのは、アーティストの素を見せることによってアーティストの価値を落とすというわけではなくて、むしろブランディング作業の一環だと捉えてほしいなと。例えばあまり喋りが得意じゃない方も、生活しているところをモニタリングされるだけでより親近感を覚えてもらえるかもしれない。「本当は視聴者に親近感を持ってほしいんだよね」とファンの方に対して思っている人がいるとしたら、合宿することでファンとの距離が縮まってアーティスト活動にプラスになるかもしれない。必ず価値の上がるような合宿にしたいと思っています。

ーー声だけでは見えない部分が可視化されることで、視聴者からも「もっとこうしたら、こういう部分は伸びるんじゃないか」と指摘しやすいし、候補者側にとっても成長のきっかけづくりになる。むしろそういう声がバンバン出ることで候補者、視聴者、番組それぞれの相乗効果にもなるでしょうし。

日高:こちらからサポートできる部分もより見えやすくなります。たぶん、自分が足りない部分さえわからないという人も中にはいると思うので、そこに自分でも気づけるきっかけにもなると思います。そうすると、ソニーミュージックに対して「僕はこういうものが欲しいんです」と言いやすくなるし、それに対して視聴者の反応があったら「こういうものが求められているんだ」みたいに求められているものもわかる。三者がいろんな気づきを得られるんじゃないかなと思っています。

「日本のオーディションといえば」というブランド力をつけたい

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ーーそこから2020年2月5日にZepp DiverCity(TOKYO)でのファイナルライブ審査を経て、グランプリが決まると。その後ソニーミュージックからデビューすることになるわけですが、そのデビューも「2020年春」に予定されている。レーベル主導のオーディションとしても、動きの速さが今までのものとも違いますよね。

須藤:そこもひとつ、大きなポイントかもしれないですね。

日高:結構無茶ですよね(笑)。これまでのオーディションだったら合格後に育成期間があって、そこからどんな曲を書けばいいんだろう? とか考えるわけですけど、今回は合格後に即プロのアーティストとしてデビューします。「2020年春、即デビュー」と謳っているので、今が11月なのでもう半年もないですね(笑)。本当に人生がガラッと変わる方がこの中にひとりいると思うと、僕らとしても衝撃的ですし、人の人生が180度変わる瞬間を目の当たりにするかと思うと鳥肌が立ちます。

ーーでは、グランプリが決まってからデビューするまでの過程も見せていくことになるわけですか?

須藤:そうなると思います。

日高:成長の過程を視聴者に共有し、応援していってもらいたいです。

ーーまた、今回のオーディションの流れを目にして「こういうオーディションなら自分も参加してみたい」と思う人もどんどん出てきそうです。

須藤:デビューが決定するまでの一連の流れをうまく見せられて、それを面白いと感じてもらえたらいいですね。

日高:そこも二軸で考えていて。受ける側からは「あの『ONE in a Billion』からデビューできたらいいよね」みたいな、ビッグドリームを掴むチャンスだと思ってもらえたらいいし、「あのオーディションで勝ち抜いた人なら間違いない」っていうオーディションにしたい。もう一つの軸は、観る人たちが「昨日『ワンビリ』観た? 早く観たほうがいいよ?」みたいなことをSNSでつぶやきたくなる。そういう二軸で注目される、「日本のオーディションといえば」というブランド力をつけていきたいなと思っています。

ーーそれによって今後第2弾、第3弾と続いていくでしょうし。

須藤:継続的なオーディションにしてブランド化していきたいというのは、立ち上げの時からの目標としてはあります。

ーー今回は男性ボーカリスト限定でしたが、次回以降は異なるテーマかもしれません。

日高:そのテーマは楽しみにしていてほしいところですし、我々もいろんな概念にとらわれずに決めていきたいなと思っています。レコード会社ではあるんですけど音楽だけにはとらわれずに、いろんなことに挑戦していきたいという思いはあります。

ーー最後に、それぞれ『ONE in a Billion』に期待してほしいポイントを挙げていただけたらと。

須藤:単純に歌や曲がすごい、ビジュアルがいいとか、そういったひとつの武器だけじゃなくて、本当に広い意味でセルフプロデュースできる、自分自身をどう生かして発信していけるかがこれから先、より重要になってくると思います。それがエンタメの世界で当たり前になってくると思うんです。視聴者の方々にはそれぞれの発信の仕方などを楽しみにしていただき、好き好みを探してもらいたいです。

日高:これは新人発掘にも繋がりますが、ライブを観させてもらったときに「このアーティストのライブにもう一度行きたい、このアーティストの音源をもう一度聴きたい」という気持ちになるかどうかを自分の中で大切にしていて。皆さんにもその視点で『ONE in a Billion』をぜひ観てほしいなと。審査の過程に入っていただく際、私だったら、僕だったらこの人の音源を買うかな、ライブに足を運ぶかな、みたいな視点で楽しんでもらいたいです。次にどんなことが起きるのか僕らも想定できないこともありますけど、そういうところでも今までのオーディション番組やリアリティショーの概念を取り払っていければと思いますし、みなさんと一緒に未来のアーティストを見つけていけたら嬉しいです。(取材・文=西廣智一)

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