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あいみょん、「ハルノヒ」などタイアップソングの歌詞に隠された巧みなテクニックを探る

リアルサウンド

19/4/19(金) 7:00

 4月19日より『映画クレヨンしんちゃん 新婚旅行ハリケーン ~失われたひろし~』が公開となった。本作の主題歌が、あいみょんの「ハルノヒ」である。

(関連:あいみょん、山本彩、家入レオ、藍井エイル、カネコアヤノ……女性アーティストの言葉から見える今

 本楽曲は、冒頭から、原作でひろしがみさえにプロポーズをした北千住駅が登場する場面からスタート。タイトル「ハルノヒ」は春日部の「春日」からインスパイアされており、あいみょん自身も「台本を読んで制作した」(「関ジャム 完全燃SHOW』テレビ朝日系/2019年4月14日放送回)と明かす、『クレヨンしんちゃん』の世界に寄り添ったタイアップ楽曲である。歌詞の〈寒さにこらえた木々と猫〉や〈住み慣れた駅のプラットホーム〉などの街や都市の光景を描く手法からは、彼女がかつて影響を受けたと発言していた小沢健二、また〈いつか花束になっておくれよ〉〈藍色のスカート〉〈水色に挨拶〉などからは、彼女が敬愛する草野マサムネのレトリックを思い起こす、情景や色彩に満ちた春らしい名曲となっている。(参考:「私は言いたいことを言い続けていく」 あいみょん、反骨精神とユーモアのルーツを語る)

 この曲だけでなく、あいみょんがタイアップを手がけた楽曲には様々な技巧が施されている。TVドラマ『獣になれない私たち』(日本テレビ系/2018年10月期)主題歌だった「今夜このまま」は、クラフトビールのバーで知り合った男女の繰り広げる群像劇に合わせて、「ビール」をテーマに据えているが、歌詞中には「ビール」という直接的な単語は一言も出てこず、〈苦いようで甘いようなこの泡に〉や〈消えない想いは軽く火照らせて飛ばして〉という言葉の中からビールを想起させることで、歌の世界の奥行きをぐっと広げることに成功している。

 また、映画『あした世界が終わるとしても』の挿入歌「ら、のはなし」では、AメロとBメロの内容をサビの〈ら、の話だから。〉という歌詞で、聴いているものの認識を覆すという一種の叙述トリックを展開させているが、これは平行世界を題材とした『あした世界が終わるとしても』のストーリーをたった9文字で表現したという凄まじさだ。前述の『関ジャム 完全燃SHOW』で本人が語っていたが、普段から色んな映画に自分ならどんな主題歌をつけるかを考えて作曲する「勝手にタイアップの曲作り」をしていることが、実際のタイアップ曲の制作にも大きく影響しているのだろう。

 そして、本人歌唱ではなく楽曲提供ではあるが、王道をぶち抜きまくるのが映画『音量を上げろタコ!なに歌ってんのか全然わかんねぇんだよ!!』の主題歌「体の芯からまだ燃えているんだ」だ。吉岡里帆演じる「ふうか」と阿部サダヲ演じる「シン」が歌唱する、猪突猛進爆音ロックンロールには、終始〈壊れたギター〉〈新しいメロディ〉〈新しい歌声〉〈叫べ〉と、これはまるで『マッドマックス 怒りのデス・ロード』かというほど、咆哮したくなる激アツなロックンロールワードが並び立つ。この音楽に奮い立たされたかつてのロックキッズも多いのではないだろうか。

 話を「ハルノヒ」に戻そう。この楽曲は「北千住駅」のプラットフォームから始まり、視点はその銀色の改札、「2人」の座るベンチへと移動し、そこから「2人」の前にある木々や猫へと行き着く。まるで映画のワンショット撮影でのオープニングのようだ。意識的にせよ無意識にせよ、具体的な映像を脳裏に思い描かせることで、歌の世界に一気に引き込む技法を実に効果的に入れ込んでいる。その後も〈藍色のスカート〉という鮮烈なアイテムの後に心象を入れて、色彩も心の機微も強めたりするなど、歌詞というよりも超高濃度の小説という印象が強い。

 一見シンプルに見えつつも、非常に多彩なギミックが盛り込まれているあいみょんの作風は、歌詞に意識的であるというのはもちろんであるが、インプットも官能小説を参考にしたり、日常の出来事を少し自分目線で咀嚼してからメモに残すなどし、「勝手にタイアップの曲作り」でアウトプットしてきたことにより育まれたものなのではないだろうか。日々培ってきたものが、血肉となり、個性となり、その個性が沢山のコンテンツと共に咲く。本稿を書いて、改めて彼女の引き出しの多さに驚かされた。(石川雅文)

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