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ヒゲダン、あいみょん…2019年“サブスクの顔”に 長く聴かれ続ける理由を楽曲特性から探る

リアルサウンド

19/9/5(木) 7:00

 2019年8月26日付のオリコン週間ストリーミングランキングにおいて、Official髭男dismの「Pretender」が13週連続の1位を獲得した。また、同バンドの最新シングル「宿命」が2位、デビュー曲「ノーダウト」が3位と続き、自身初のトップ3を独占するという快挙を達成。オリコンによれば、同一アーティストによるトップ3の独占は2月18日にあいみょんが「マリーゴールド」「今夜このまま」「君はロックを聴かない」の3曲で5週連続記録したのに続き、2組目とのこと。なお、同ランキングの9月9日付でも前述のヒゲダン楽曲3曲がトップ3を維持し、「Pretender」の連続1位記録も着実に更新し続けられている。

(関連:ヒゲダンの歌詞はなぜグッとくる? Official髭男dism「Pretender」を軸に特徴を読み解く

 いよいよストリーミングサービスが普及し音楽を聴く手段として一般化していく中で、いち早くその波に乗り、もはや”サブスクの顔”になりつつあるこの両者。彼らの音楽はなぜ聴かれ続けるのか、その楽曲に注目して理由を探ってみたい。

■映画とのタイアップによって引き出された魅力

 映画『コンフィデンスマンJP』の主題歌として書き下ろされた「Pretender」。彼らのYouTubeチャンネルにて公開されている制作ドキュメントによれば、当初渡したデモはすべて却下され、その際に先方から追加で発注された内容が「酸いも甘いも分かってる大人の何か……ちょっと汚いロマンスというか、皮肉さとかビターな感じを入れて欲しい」というものであったという。これに対し藤原は「相当難しいことになると思います」「全く浮かばない」と苦悩の表情を見せるも、制作チームと打ち合わせを重ね、編集中の映画を見に行きイメージを膨らませることで、何とか曲の決定までこぎ着けている。

 曲作りの中で、「解決しないコード感が大人な感じとマッチすればいいかな」というアレンジ面でのはっきりとした意図も確認できるように、制作初期段階では彼らになかったアイデアが、映画側に歩み寄って行ったことで生まれていることが分かる。それを象徴するのがコード進行だろう。サビの〈辛いけど否めない でも離れ難いのさ〉や〈甘いな いやいや〉での独特の切ない響きは、まさに先方の要求である”ビターな感じ”が表現された秀逸なアレンジだ。

 「Pretender」のもう一つのポイントは、突き抜けるようなボーカル・藤原聡の爽やかな歌声である。もし、本曲のような”大人な感じ”の歌詞を、たとえば、ORIGINAL LOVEの田島貴男やクレイジーケンバンドの横山剣が歌ったとしたらどうだろうか。恐らく、大人な感じ”そのまま”な曲になっていただろう(それはそれで聴いてみたいが)。平均年齢27歳ほどのまだデビューしたばかりの彼らが歌うことで、男の爽やかな憧れが滲むような、あくまで若者が歌うロマンスの歌として聴くことができる。だからこそ、若いユーザーが多くを占めるサブスクにぴたりとハマった可能性があるのだ。これも映画とのタイアップで起きた化学反応のひとつだろう。

■リスナーを引き摺り込む”長いイントロ”

 また、「Pretender」はサブスク上の他のヒットソングと比べると比較的”イントロが長い”曲でもある。一般的に早い段階でリスナーを掴むことが求められるストリーミングサービスでは、ボーカルパートが始まるのが早く、短い時間に展開を詰め込み、曲間も短くまとめられる傾向にある。30秒以内にスキップすると再生回数に反映されないという機能的な制約があるからだ。しかし、「Pretender」はイントロだけでも32秒。曲の長さもJ-POPの平均がおおよそ4分20秒あたりと言われているのに対し、「Pretender」の曲間は5分20秒以上ある。つまり、かなり”じっくりと”聴かれるように作られている。

 あいみょんの「マリーゴールド」もそうであった。逆再生を使った記憶が呼び起こされるような出だしから、ギターを中心とした温かいバンドサウンドが登場し、しっかりと世界観を描いた後にやっと彼女が歌い始める。だからといって壮大過ぎるということもなく、イメージを抱くのにちょうど良い長さの導入部だ。どこか懐かしい雰囲気を漂わせる「マリーゴールド」のイントロは、楽曲全体の世界観を簡易的に提示するポートレイト的役割を果たしている。むしろ、こうした想像力を喚起させるイントロがあることで世界観があらかじめ共有された状態で歌が始まるため、リスナーを自然と曲に引き摺り込むことに成功しているのではないか。

 そのためには質の高い音作りが求められる。ありがちなものでは耳の肥えた現代のリスナーはなびかない。Official髭男dismも「レコーディングでは音決めに最も時間をかける」と答えているように、音へのこだわりは強い。ある意味、彼らの強いこだわりがサブスク戦略の定石を覆したヒットと言えるだろう。

 こうして2019年最大のヒットソングに王手をかけた「Pretender」。ちなみに、この曲のイントロのギターのフレーズはアウトロにも登場する。しかし、そこではギターではなくピアノが優しく奏でているのだ。それはまるで、主人公の叶わぬ思いが”願望”から”諦め”へと変化したかのようで、思わず目頭が熱くなる。最初から最後まで聴くことで初めて得られる感動があることで、何度も繰り返し聴きたくなるのかもしれない。(荻原 梓)

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