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フジロックで圧巻のライブ! アンダーソン・パーク、GREEN STAGEを熱狂のダンスフロアに

リアルサウンド

18/7/30(月) 21:00

 台風の直撃が心配され、途中で大きく天候が崩れることもあったものの、無事にすべてのプログラムを終えた『FUJI ROCK FESTIVAL ’18』。N.E.R.Dやケンドリック・ラマー、ポスト・マローンなど、例年以上にヒップホップ/R&Bアーティストが充実したラインナップとなりました。中でもアンコールまで披露したケンドリック・ラマーのライブは非常に高く評価されており、今年のベストアクトとの呼び声も高いです。

参考:フジロック2018、要注目の洋楽アクトは? 小野島大が50組を徹底解説

 筆者ももちろん、ケンドリック・ラマーのライブに大変感動したのですが、予想をはるかに超えるパフォーマンスに驚かされたという意味で、一番心に残ったのは、3日目のGREEN STAGEで行われたアンダーソン・パーク&ザ・フリー・ナショナルズのライブでした。

 アンダーソン・パークは、1986年カリフォルニア州オックスナードに生まれ、10代の頃にドラマーとして音楽活動を開始。一時は生活に困窮し、妻子とともにホームレスになることもありましたが、『The Hollywood Recordings』などの作品で知られる音楽プロデューサーグループ、Sa-Raのシャフィーク・フセインのアシスタントを務めたことからLAのヒップホップシーンと関わりを持つようになります。その後、ドクター・ドレーに才能を見出され、2000年代以降のヒップホップのサウンドを大きく変えた名盤『2001』以来16年ぶりとなるアルバム『Compton』(2015年)で、新人ながら客演として6曲に抜擢されるという快挙を成し遂げ、一躍シーンの注目を集めます。

 満を辞して2016年にリリースした2ndアルバム『Malibu』は大変な傑作で、ロバート・グラスパー、クリス・デイヴ、マッドリブ、ケイトラナダといった制作陣に加え、ザ・ゲームやタリブ・クウェリ、BJ・ザ・シカゴ・キッドなどの大物アーティストが多数参加しており、ドクター・ドレーも太鼓判を押すほどの仕上がりでした。歌とラップがシームレスに繋がるボーカリゼーションがとても心地良い作品で、楽曲の幅広さとそのアプローチの豊かさに、まだまだ底の知れない才能を感じたものです。

 「ケンドリック・ラマーの次に来るラッパー」とさえ謳われるアンダーソン・パークが、いったいどんなライブをするのか、早耳のオーディエンスたちとともに期待していたところ、1曲目は『Malibu』より「Come Down」を披露。Hi-Tekがプロデュースを務めた同曲は、ファンキーなベースラインを効かせたヒップホップ色の強い作品で、登場直後から全開でラップをする姿に意表を突かれました。しかし、前日のケンドリック・ラマーでオーディエンスのヒップホップ熱が冷めやまぬのか、渋い選曲ながら大いに盛り上がります。その後、BJ・ザ・シカゴ・キッドとのフィーチャリング曲「The Waters」などの“聞かせる楽曲”で雰囲気を作っていき、途中ではヒップホップリスナーなら誰もが知る、ドクター・ドレーの「The Next Episode」のトラックを用いるなど、心憎い演出を加えていきます。この日、はじめてアンダーソン・パークのパフォーマンスを観たオーディエンスがほとんどだったはずですが、その反応は非常に良く、早くもパーティー感溢れるムードに包まれていきます。

 そして、アンダーソン・パークが途中からおもむろにドラムセットに座ったかと思うと、ラップをしながら自らドラムを叩き始めました。ブレイクビーツ的な歌心のあるドラミングは驚くほど達者で、そもそもアンダーソン・パークがドラマーとしてキャリアを積んできたアーティストだったことに気付かされます。複雑なビートとラップの組み合わせは、思わず踊らずにはいられないほどグルーヴィーで、会場のそこかしこから驚嘆の声が聞こえてきました。ここまでドラムを叩きながら歌うヒップホップアーティストは、ちょっとほかには思いつかないほどです。さらに驚くことに、アンダーソン・パークが「太陽に手をかざせ!」と煽り、みんなが空を見上げた瞬間、太陽が燦々と輝き始めました。偶然にしては出来過ぎで、この辺りからGREEN STAGEが異様な興奮状態になっていきました。

 そして後半、「Am I Wrong」と「Lite Weight」というフロアライクなハウスチューンの2連発では、楽曲に深くローパスフィルターをかけて、オーディエンスはそれに合わせて踊りながらしゃがんでいきます。そこからフィルターが徐々に消えていき、サビが来た瞬間の光景は見ものでした。あそこまで爆発している光景は見たことがないと思えるほどの盛り上がりぶりで、見知らぬ者同士でさえ笑顔を交わすほどに会場は一体感に包まれていました。まさに大自然の中の巨大なダンスフロアといった様相です。

 アンダーソン・パークは、楽曲も素晴らしければ、ラップやドラムのスキルも凄まじいものがあり、それは音源でも十分に感じることができるのですが、とにかく“ライブが巧い”ということも特筆すべきかと思います。曲順、アレンジ、MC、そしてドラムという飛び道具の使いどころまで含めて、オーディエンスの空気を的確に読み、そのテンションを確実に高めていくステージングの見事さに、ミュージシャンとしての圧倒的な実力を感じることができました。

 また、筆者は今回10年ぶりに『FUJI ROCK FESTIVAL』を訪れたのですが、以前に比べて気持ち良さそうに踊る人ーー特にブラックミュージックで踊る人がすごく増えたと感じました。自然の中で、大人数で踊る気持ち良さを存分に堪能できたのは、今回の『FUJI ROCK FESTIVAL』で何よりも嬉しかったことのひとつです。アンダーソン・パークのライブが特別な祝祭感に包まれたのは、オーディエンス側のリテラシーの高さも確実に影響していたでしょう。『FUJI ROCK FESTIVAL』という空間自体もまた、オーディエンスとともに年々進化しているのだと実感しました。アンダーソン・パークが次回、『FUJI ROCK FESTIVAL』を訪れた際は、きっとヘッドライナー級のアクトとなっているはずなので、筆者もまた1リスナーとして、音楽への好奇心を絶やさずに心待ちにしたいと思います。(松田広宣)

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