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マライア・キャリー、ジャネット・ジャクソン、トニ・ブラクストン……歌姫たちの復活劇を追う

リアルサウンド

18/11/11(日) 10:00

■マライア、新たなレーベルを舞台に新作『Caution』でリスタート

 マライア・キャリーが新曲「With You」をリリースし、MVを公開。続けて新作アルバム『Caution』のリリースを発表した。マライアは先日、リリースに先駆けて行われた日本ツアーを大盛況で幕を閉じたばかりだ。

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 「With You」を手がけたのはリアーナ「Needed Me」、エラ・マイ「Boo’d Up」などといったヒット曲を世に送り出したDJ Mustard。マライアが得意とするセルフオクターブユニゾンを取り入れたミディアムスローに仕上がっている。決して派手さはないが、穏やかなメロディがなんとも心地よい。「Boo’d Up」のようにロングヒットも期待ができそうだ。

 さらにマライアはジェフ・ローバーの「Rain Dance」をサンプリングした新曲「A No No」も公開。リル・キムの「Crush on You」やSWV「Love Like This」のネタとしてもお馴染みだが、ノリの良いスムーズなナンバーでフロア受けもばっちり。『Caution』の内容にも非常に期待が持てる。

 1990年に「Vision Of Love」でデビューしてからもうすぐ30年のキャリアを迎えようとしているマライアが、未だにチャートを賑わせている姿は素晴らしい。90年代の黄金期ほどの勢いは感じられないが、「#Beautiful ft. Miguel」(2013年)、「Obsessed」(2009年)、「Touch My Body」(2008年)などのTOP10以内に入るヒットをコンスタントに生み出し続けている。 しかしそのキャリアを順調に築いてこれたかと言われるとそうではない。いわゆる「低迷期」を迎えたこともあり、どん底を見たこともあった。

 90年代に『Emotions』『Merry Christmas』『Daydream』などの大ヒットアルバムを立て続けにリリースし、ポップアイコンとなったマライア。1997年の『Butterfly』で自身のルーツでもあるブラックミュージックへのアプローチを試み、見事に高い評価を受けた。ソニー・ミュージック傘下の<Columbia Records>所属最後のアルバムとなった『Rainbow』(1998年)もR&B色が濃厚な良質な作品だ。

 その後、マライアは1999年、100億円以上の契約金を提示されてEMI傘下の<Virgin Records>に移籍。しかし、これを機に低迷期を迎えてしまう。マライアが主演した自伝的映画『グリッター きらめきの向こうに』(2001年)が興行的に大失敗に終わってしまったのだ。マライアが全曲を歌う映画のサントラアルバム『Glitter』も50万ほどのセールスに。これを受けてEMIはマライアとの契約を解除。莫大な違約金がVirginから支払われたが、事実上のリストラは大きな衝撃を生んだ。「もうマライアの時代は終わった」という雰囲気すらシーンには漂っていた。

 しかし、そんなマライアに転機が訪れる。<Islands/Def Jam>との契約だ。LL・クール・J、ジェイ・Z 、DMXなど多くのHIPHOPアーティストを抱えるDef Jamと、R&B路線を歩み始めたマライアとの相性は抜群。特に『The Emancipation of Mimi』(2005年)はモンスターヒットシングル「We Belong Together」を収録していたこともあって、米国内だけで600万枚の売上を記録した。まさに歌姫マライアの復活である。

 2008年『E=MC2』以降のアルバムはビッグヒットには至ってはいないものの、コンスタントにリリースを続けており、オーディション番組『アメリカンアイドル』の審査員に就くなど、明るい話題を提供し続けている。そして、2015年には初心に帰るかのごとくソニー・ミュージック傘下<EPIC Records>に移籍、3年後の2018年、ついに新作『Caution』の発売を迎えることとなった。今年は長年双極性障害を患っていることをカミングアウトしたことでも話題を呼んだマライア。新作がどんな作品に仕上がっているのか非常に楽しみである。

■ジャネットもどん底から這い上がり新曲発表

 ジャネット・ジャクソンも今年8月、新曲「Made For Now」を公開した。ジャネットの代表作を長きにわたって作り続けたジャム&ルイスと、Fifth Harmonyやアリアナ・グランデの曲をプロデュースしてきたハーモニー・サミュエルズの共作である「Made For Now」は、ジャネットのウィスパーボイスが映えるパーティーソング。コラボ相手にはダディー・ヤンキーが抜擢されていて、聴いているだけで楽しくなる一曲だ。

 あの安室奈美恵も憧れの人として名を挙げるジャネットだが、彼女も長い間スランプに陥っていた。

 ジャネットはアルバム『Control』(1986年)の大ヒットで一躍スターに。初めてチャートでNo.1を獲得した「When I Think Of You」、のちに映画『天使にラブ・ソングを2』の劇中で歌われる楽曲にサンプリングされた「What Have You Done for Me Lately」、さらに1989年にリリースされたアルバム『Rhythm Nation 1814』でも「Rhythm Nation」「Escapade」といったヒット曲を連発して、スーパースターという地位を確固たるものにした。

 80年代はそのアップテンポな曲調とダンスパフォーマンスが注目されたジャネットだが、90年代に入るとさらにシンガーとしての幅を広げて新たなファンを開拓。アルバム『Janet』(1993年)収録の「That’s The Way Love Goes」はなんとも色っぽいミディアムスローでジャネットの新たな魅力を引き出した。また、『The Velvet Rope』(1997年)収録のメロディアスな名曲「I Get Lonely」、ポップなダンスナンバー「Together Again」などが立て続けに世界中で大ヒットした。

 2000年代に入るとジャネットがヒロイン役を務めた映画『ナッティ・プロフェッサー2 クランプ家の面々』(2000年)の主題歌「Doesn’t Really Matter」で一段と脚光を浴びることとなる。思わず踊り出したくなるようなダンサブルなトラックにどこか切ないメロディ、そして透明感のあるジャネットの声。この3つの要素が際立つ同曲は日本でも支持され、同年のオリコン洋楽シングルチャートの年間1位に輝き、島谷ひとみが「パピヨン~papillon」というタイトルでカバーするほどであった。そして続くアルバム『All For You』の表題曲「All For You」は、ポップで軽快なトラックがなんともジャネットらしく、アルバムのセールスを後押しした。

 しかし、2004年、アメリカの国民的行事ともいえる『スーパーボウル』のハーフタイムショーにて事件が起こる。セクシーなパフォーマンスを披露する中、胸を覆っていた衣装が外れてしまったのはハプニングだと思われていたが、ジャネット側が演出であることをカミングアウト。これが人々の不評を買い、バッシング報道が過熱した。この影響からジャネットの人気は下降を辿ってしまう。

 同じく2004年に発表したアルバム『Damita Jo』も売上が低迷。ジャム&ルイスの他にカニエ・ウェスト、ベイビーフェイス、さらにはスコット・ストーチという錚々たる顔ぶれが制作陣に迎えられたにも関わらず、TLCやモニカなどをヒットに導いたダラス・オースティンが制作したシングル曲「Just A Little While」も不発に終わり、アメリカ国内の売り上げは前作の1/3以下という結果となってしまった。

 2006年にはリベンジ作『20 Y.O.』をドロップ。ジャム&ルイスの他、マライアを復活に導いたジャーメイン・デュプリが制作に携わった意欲作だったが、さらに売上は下がってしまう。その後、ジャネットは<Virgin Records>を去り、<Islands/Def Jam>に移籍。 2008年には復活をかけた『Discipline』を発表した。R&B界において最もヒットを連発させているロドニー・ジャーキンス、そしてジャーメイン・デュプリが制作に大きく携わったもののヒットには恵まれず、ジャネットは長らくシーンから遠ざかってしまう。

 転機となったのは2015年。自主レーベル<Rhythm Nation>を立ち上げて発表したアルバム『Unbreakable』だ。ほとんどの曲においてジャム&ルイスと再タッグを組んでおり、古くからのファンを喜ばせた。中でもJ.Coleをゲストに迎えたシングル「No Sleeep」はかつてのジャネットを彷彿とさせる出来で、インディーズ扱いながらも全米ビルボードチャートにおいて63位を記録した。

 そして2018年のビルボード・ミュージック・アワードでは、ジャネットのこれまでの音楽活動が称えられ、アイコン賞が授与された。実に9年ぶりのTV出演となるショーでは数々のヒット曲をメドレー形式で歌唱。そこにはかつてのように堂々と踊り、そして歌い上げるジャネットの姿があった。

 なお、ジャネットはニューアルバムのリリースに向けて<Cinq Music>というレーベル/ディストリビューターと手を組んだことも発表されている。新作の到着が待ち遠しい。

■トニ・ブラクストンは8年ぶりのソロアルバム

 さらに2018年は、トニ・ブラクストンもアルバム『Sex & Cigarettes』を発売。ソロ名義でのアルバムはなんと8年ぶりとなった。

 トニは、90年代にベイビーフェイスのサポートの元、「Un-Break My Heart」「You’re Makin’ Me High」「Breathe Again」などの大ヒット曲を連発。メロウなナンバーを張りのある太い声でしっかり歌い上げるスタイルが特徴的だった。2000年には当時を代表するヒットメーカー、ロドニー・ジャーキンスが手がけた「He Wasn’t Man Enough」が世界中で大ヒット。アップテンポな曲も歌いこなせることを証明した。

 しかしその前後から自己破産や離婚、そして胸の腫瘍という健康問題など、多くのトラブルに見舞われてしまう。また、日々トレンドが移り変わる音楽シーンにおいて彼女のベーシックなボーカルスタイルでは新たなファンを生み出せなくなり、ヒットシングルにも恵まれなくなってしまった。The Neptunesをプロデュースに迎えた曲もあったが、やはり声と作風のミスマッチからヒットには結びつかなかった。レーベルを次々と変えてリリースを続けるも、アルバムの売り上げは全盛期の500万枚に比べて1/10以下に落ちこんだ。

 それでも彼女は歌うことを諦めずに2014年に盟友ベイビーフェイスとのコラボアルバム『Love, Marriage & Divorce』を発表。かつての名コンビがシーンに帰ってきたと古くからのファンを大いに喜ばせた。全盛期の売り上げには及ばなかったが、ビルボードのアルバムチャートでは4位を記録するスマッシュヒットに繋がった。

 そんな復活劇を遂げての今回の新作発表である。ベイビーフェイスやトリッキー・スチュワートなど、古くからヒットを放ってきたプロデューサーに加え、ビヨンセやリアーナなどに曲を提供したキャリアを持つフレッド・ボールを制作陣に迎えた『Sex & Cigarettes』は、派手さはないものの良質なアルバム。チャートアクションはいまいちな結果だったが、何よりも歳を重ね、さらに円熟味を増したトニの濃厚な歌声が楽しめる1枚になっている。

 90年代から30年以上のキャリアを持つ歌姫たちがどんどん復活を遂げている昨今。インターネット配信が主流となりつつある音楽シーンにおいて大手のレーベルにこだわる必要性も薄れており、ジャネットのようにインディーズから作品を発売するというスタイルも確立されつつある。どんな逆境に置かれようとも、彼女たちに「声」という武器がある限り、何度でも這い上がり続けるだろう。そんな彼女たちをこれからも応援していきたいと思う。(鼎)

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