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人気落語家・春風亭一之輔が語る三昼夜公演。全公演有料オンライン配信

ぴあ

20/10/6(火) 7:00

春風亭一之輔 キッチンミノル提供

当代きっての人気落語家・春風亭一之輔にとって、秋のよみうり大手町ホールは7年連続。今や、この人のホームグラウンドのひとつと言っていいだろう。落語界の大きな話題となった一之輔の真打昇進が2012年。よみうり大手町ホールのオープンが2013年。続く2014年に「2014落語一之輔 一夜」がスタート。この第1回公演ですでに、「毎年一夜ずつ増えていく5年連続の企画」ということが謳われていた。公約通り、2018年にこの企画が一旦のフィナーレを迎えた後も、2019年は「2019落語一之輔 七夜」とむしろボリュームアップし、そして迎えた今年が「2020落語一之輔 三昼夜」である。

先のことはわからない人気稼業で、当初から話題のニュースターだったとは言え、真打になったばかりの落語家の5年連続企画、しかも毎年1公演ずつの上乗せを公約というのは、演者にとっても興行主催者にとっても、勇気の要ることだっただろう。繰り返すが、秋のよみうり大手町ホール公演は、春風亭一之輔という落語家が、異例のスピードで人気の階段を駆け上っていくドキュメントでもあったわけで、こういう会を、当の演者が大切にしないわけがない。一之輔は言う。

「やりやすいんです、このホール。500席くらいですけど、ベストなホールだと思います。音響もそうだし、客席で聴く人も気持ちがよさそう。高座から楽屋が遠いのを除けば(笑)、ベストですね。おととしまで、1年ごとに1日ずつ増やしていくという独演会を5年連続でやって、それが終わったと思ったら、去年は1週間。ま、ハメられたみたいなものですけど(笑)、流れに任せてやってきた。ちょっと今年は休ませて、って言ったら、そんなに減らすわけには……と言われまして、そんなに頼られているんだったら、じゃあ3昼夜くらいでどうですか、という折衷案で」

いやいや、3日間に6公演を凝縮。折衷案どころか、今年も充分すぎるほどタフな日程である。

春風亭一之輔

1日目の昼が「僕の好きな色物さん」と題して、紙切りの林家正楽、太神楽曲芸の鏡味仙三郎社中から伸び盛りの若手・鏡味仙成、ギター漫談ひと筋、84歳のペペ桜井、音楽パフォーマンス・のだゆきの4組を紹介する。

「色物さんって、寄席ではどちらかというと脇役。こういうホール落語で色物さんにスポットを当てるのは珍しいでしょ。普段、ホール落語ばっかり観ているような可哀そうな人たちに(笑)、寄席のよさもわかってもらいたいと思って、こういうプログラムを組んでみました」

コロナ禍で、落語家以上に出演機会を失った芸人たちへのエールであることも、書き添えておきたい。

2日目の昼は、「一之輔 天どん 古典と新作二人会」。

「こちらは直感的にやることが多いのに比べて、天どん師匠は理論的に噺をとらえている。ぼくとは違う考え方で落語を見ている人。新作落語の作り方を教えていたりする師匠ですから、勉強になります。いろいろな会でよく一緒になるんですよ。腐れ縁です(笑)」

3日目の昼は、「一朝・一之輔親子会」。

「最近よく、親子会を企画していただくんですが、こんなこと言ったら師匠に失礼ですけど、緊張感はないです。楽屋で、師匠はずーっと、ジャイアンツ情報をスマホでチェックしています。ぼくの高座? 聴いてないでしょ。聴いているのかな。前座のとき、師匠の家にいて、午前中ふたりで、テレビの『暴れん坊将軍』を観ていたときのような、いつも通りの感覚。うちの師匠の大きさです、そこは。ぼくみたいなぞんざいな弟子を、よく怒りもせずに」

夜の部は「春風亭一之輔独演会」。毎晩一席ずつ、ネタ卸がお約束である。ネタ卸とは、今まで自身で高座にかけたことがないネタを初演すること。秋のよみうり大手町ホール公演でこつこつと続けてきた、自分への宿題でもある。

「ネタ卸は、やる演目にもよりますが、公演の2カ月くらい前に、その噺を教えていただく師匠を決めて、その方に稽古をお願いします。最初は必ず誰かに教わって、というのが落語界のルール。真打になってからもそのやり方です。覚えること自体は早くて、2日3日もあれば大丈夫。覚えてからの自主稽古のほうがずっと大事で、歩きながら、教えていただいた師匠の音源を聴いて、口に出す。散歩のときとか、寄席のかけもちで浅草と上野の間を徒歩移動中に、とか。寄席で訪れる上野、新宿界隈でも、歩きながらよく稽古をしていますね。座蒲団に座って家で稽古するというのはもう何年もしたことない」

「ネタ卸の高座は、完成形ではない。初めてやってみて、まずはこんな感じになりました、という機会です。初演は意外に楽しいものです。お客さんはどんな反応するかな、こんなやり方したら驚くかなとか。むしろ、ネタ卸をやり終わった後、どこかで2回目をやるときが、結構重要。初演って「よかったよかった」という結果になりがちだから、きちんと、自分の本当の持ちネタにできるかどうかは、1回目の後が大事です」

ちなみに、現在の持ちネタはいくつかというと。

「今回、3席ネタ卸をしたら、218席になるはずです。多いほうだと思います。でも、ネタは数じゃない。鮮度です。先代の(三遊亭)圓歌師匠なんて、ネタはひとつきりで常に爆笑でしたから。ぼくは、あと何十かはネタ卸をやって、50歳を過ぎてからふるいにかけていくと思う。今までやらなかった噺って、自分に向いていないと思い込んでいた噺とか、直感的に避けていた噺なんですが、実際にやってみると、意外と自分にハマるんだなっていうのも、ここ何年かこの会をやっていて気づいたこと。今年もそういうきっかけになればいいですね」

春風亭一之輔

最後に、コロナ禍にあって積極的に挑戦してきた落語のオンライン配信について、訊いてみた。

「この間、(三遊亭)金翁師匠と一緒に配信をやりました。91歳で配信に出られて、おととい楽屋で、金翁師匠がパソコンを買おう、って言ってました。 (柳亭)市馬師匠とか(鈴々舎)馬風師匠に向かって、パソコンってどうすりゃいいんだ、って (笑)。いやあ俺たちに訊かれても、って、兄さん方は答えていましたけど。いい話でしょ。買い占め騒動やら自粛警察やら何やら、コロナで日本中の内輪もめみたいなのがあるじゃないですか。落語は、まあ落ち着こうや、みたいな噺が多いですから。癒しというか、ヒーリング効果というか、落語って足湯みたいなものだと思います。温泉は、仕度して、お金貯めて、年に1回とか、そういう計画性が要るけど、足湯なら、ふらっと行って、靴下脱いで、ちゃぽんって足を入れて、出たいときには出ちゃえばいい。寄席というところはそういうところ。だから、しぶとく生き残っていく芸能なのかなと思います」

「落語って、配信に向いているなと思います。画面にひとりが映っていて、しゃべる、それだけ。例えば芝居の配信に比べて、聴いている人がはるかに集中できる。音だけでも充分楽しめますし。それから、そこそこ社会が元のスタイルに戻りつつあるときに、生のライブも復活の速度が早い。楽屋も密にはならないし、ひとりしか高座に上がらない。ラッキーな芸能のかたちだと思います」

この「2020落語一之輔 三昼夜」はライブと配信のハイブリッド公演だが、ライブのほうのチケット(一次販売)は早々に完売。となれば、“パソコンでも楽しめる足湯”でゆっくり癒されるとしようか。アーカイブ配信もあるので、安心して楽しみたい。

「2020落語一之輔 三昼夜」配信視聴券情報
各公演2000円(税込)/各日昼夜セット券3600円(税込)
※別途プレイガイドのシステム利用料がかかります
アーカイブ:配信から各2週間
形式:生配信(vimeoにて配信)
チケット:https://w.pia.jp/t/ichinosuke-sanchuya/

撮影:キッチンミノル

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