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FINLANDS 塩入冬湖が歌う、人間の本質への愛おしさ 窮屈な時代にこそ必要な“心のお守り”

リアルサウンド

21/3/24(水) 12:00

 FINLANDSが塩入冬湖の一人体制になってから、初めてのフルアルバム『FLASH』が完成した。代名詞と言える鋭いロックは健在ながら、全体的に丁寧に聴かせる歌と、メロウで自由度を増したアレンジがまず新鮮だ。そして何より、塩入の持ち味とも言える、人間と世の中に対する“新しい視点の提示”が作品のテーマとして通底している。きっと多くの人々にとっての気づきとなり、心のわだかまりを解きほぐすきっかけになるに違いない今作。塩入自身の発言にもある通り、2020年代という困難な時代を生き抜く“お守り”になりうるアルバムかもしれない。大きく間口を広げた『FLASH』について、塩入冬湖にインタビューを行った。(編集部)

FINLANDS 3rd Full Album「FLASH」ALL TRACKS

アルバムの焦点は「閃きと繰り返し」

ーー昨年にソロ名義で『程』をリリースしてから、どのような想いでFINLANDSのアルバムに向かっていったんですか。

塩入冬湖(以下、塩入):アルバム自体は2019年から作り続けていて、去年の4月にレコーディングして夏にはリリースをする予定だったんです。FINLANDSとしても新しい形態になったので、最初にやりたいと思ったことをフルアルバムとして作り上げたかったんですけど、そこから2年もかかったので気持ちが変わっていったんですよね。

ーーまず、最初にやりたかったことというのは?

塩入:FINLANDSってもう9年くらい活動していて、やりたいことをずっと好きにやってきたからこそ、はたから見るとよくわからない活動の仕方で進んできたと思うんですよね。テンプレートに当てはまった活動ではなかったから、私は満足していましたし、ふらっとライブを観たい時にすぐ行けるライブハウスでライブを重ねてきたことや、今まで憧れていたパンクやハードコアのシーンの中に、ギターロックをやっているバンドとして踏み込んで行ける状況にすごく喜びを感じていたんです。けど、そうやっていろんなものを与えてくれたシーンに対して何も還元できることがなく、ただ馬鹿みたいに楽しんでいるというのは、私が求めているものではないなと気づいて。だったら、きちんと新しいステージに行って新しいものを得て、それをシーンに還元していけるバンドになりたいなと思ったんです。それがアルバムを作り始めた当初の気持ちとして強かったんですけど、平たく言えば、大衆にちゃんと聴かれる音楽でありたいなっていうことだったんですよね。

ーーFINLANDSの登場自体がライブハウスへの刺激になっていましたし、それがシーンの活性化につながるとも解釈できるわけですけど、それだけでは満足できなかったと。

塩入:はい、満足していなかったと思いますね。そもそもどんな状況であっても、現状に満足し切ることってないんじゃないかと思いますし、お金を稼げるようになったらそれ以上進化しなくていいとか、そういう話ではないじゃないですか。やっぱりその先を見たい。一つひとつ叶えていきたい目標はあれど、ゴールはないのがバンドかなと思うので、満足しなかったのは自然なことかなと思います。

ーー大衆に聴かれることを意識した時に、曲作りにはどんな影響が出たんでしょう?

塩入:まず、大衆に聴かれたいというのは、消費されたいっていう意味では一切なくて。今までFINLANDSって、音楽がすごく好きで、ライブを観に行くことが日常のルーティンにある人たちが、音楽を探していく中で出会ってくれていたと思うんです。それは理解をしていたつもりですし、自分も手が届くシーンの人たちに届けたい気持ちだったので、聴かれやすさとかわかりやすさってあまり考えたことがなかったんですね。でも今回のアルバムには、普通にコンビニで流れていたり、偶然つけたラジオで流れていたりとか、普段は音楽を聴かないけど、たまたまそういうところで耳にした人の頭に、少しでもいい形で響けばいいなっていう気持ちがあったんです。

ーーFINLANDSと聴き手が出会う入り口を増やすというか。

塩入:そうですね。扉を開けて辿り着いて、それで大好きか大嫌いかになってもらうんじゃなくて、自分たちの方から扉を開いてみて、間口を広げたものを作りたかったんですよね。そのためにどうしたらいいんだろうって考えた時に……今まではすごくパーソナルなことをFINLANDSは歌ってきたと思うんですけど、パーソナルな部分って、極端にいうと自分にしか理解できないことを歌っているからこそ、局所局所で聴いた人は当然理解できないわけで。日本語で聴いた時にもっととっかかりがあって、少しでもハッとできる部分があればいいなということを意識して作りました。

ーーテーマとしては、普遍性みたいなものから広げていったんでしょうか。

塩入:いや、そういう感じではなくて。制作の中盤あたりから気づいたことなんですけど、今回のアルバムに対して「閃きと繰り返し」というテーマが一つあったんですよね。先ほどもお話したように、パーソナルな部分ではなく、自分や自分以外のこともすごく俯瞰して書いた曲たちなので、裏を返せば、自分の持っていたルールや縛りみたいなものを正そうとしてきた何年かだったんだと思うんですよ。私って、きっとそういう行動をずっと繰り返しているんだなって気づいたんですけど、たぶんそれって私だけじゃないなって思うこともいっぱいあって。結局人間って全部が繰り返しで、知恵を重ねて過去を上塗りして、今の文化を作り上げてきた側面がかなりあると思うんですよね。それが「閃きと繰り返し」に焦点を当てたきっかけでした。

「人間の本質を信じているから怯える必要はない」

ーーなるほど。具体的には人間のどんな「閃きと繰り返し」に着目していったんでしょうか。

塩入:「Stranger」を作った時に思ったんですけど、花束とか指輪とか夜景とか、綺麗なものを好きな人にプレゼントする文化があるじゃないですか。私、その理由がよくわからなくて。婚約指輪とかも「大きいダイヤがついていて素晴らしいものなんだ」って言われても、「いや、あんなに大きい石がついてたら生活で不便でしょ」みたいに思っていたんです。でも、ある映画で、小さい女の子がお花を摘んで「綺麗だからあげる」と言っているシーンを見た時に、「そういうことか!」と思って腑に落ちまして。「綺麗だからあげたい」っていうただそれだけの真理の積み重ねで、いろんな形を経て、今はこんなに大きな何カラットのダイヤに辿り着いたのかと思ったら、人間ってやっていることがずっと変わらないんだなということに気づいたんですよね。同じことの繰り返しで形をカスタマイズしていった結果として、2020年代の今があるんだなと思ったら、馬鹿馬鹿しいくらいに安心しました。

ーー「Stranger」で〈喜んで失ってあげる/わたし失う事が得意なんだから〉と歌われていますけど、それも繰り返しの話に関連しているんでしょうか?

塩入:そうですね。人間の本質として、失うことがめちゃくちゃ得意だなと感じていて。3年前、『BI』を制作した時に大きな失恋をして、もう本当に立ち直れないかもしれないなと思うくらい、落ち込んだし体調も悪くなったんですけど、結局、今の私は立ち直れているんですよね。今後何か悲しいことが起きたとしても、「あの時乗り越えたこと」をテンプレートに当てはめて、また乗り越えられる気がするんです。全然違う種類の出来事でも、またどうにか自分で悲しみの処理方法を探して、乗り越えていくと思う。〈失う事が得意〉っていうのはその経験から来ていて、みんな日々いろんなものを失っていると思うんですけど、結局それを自分の中で対処していくのは勇ましいなと思いますし、人間ってたぶん失うことに対しての耐性はすごく強いんだろうなって。そういう人間の本質を信じているんだと思います。

ーーそこに気づいて曲にしたことで、ご自身にも変化があったんでしょうか。

塩入:やっぱり生きやすくなりましたね。どんなにあがいても、どうしても失うものはあるわけじゃないですか。親とか、若さとか。だから、そこに対して怯えてても仕方ないなって。失ったとしても私はそこからまた何かを得るだろうし、今はそんなに怯える必要もないだろうなっていうカラッとした気持ちにはなりました。

ーー「HOW」では〈未来の夜で悲しもうぜ/だから今は怯えないでいよう〉と歌われていて、まさにそういうことが表現されていますよね。

塩入:そうですね。「HOW」はアルバム1曲目ですけど、一番最後に作った曲なので、自分の頭がクリアになって「私はこういう方が生きやすいです」っていう答えみたいな感じの曲なんですよね。あとは、私と同じように考えているけど、もやもやの原因がわかっていない人っていっぱいいるんじゃないかなとも思っていて。いつか必ず来る時のために怯えてしまって、自分の感情を表に出せなかったり、無理やり誰かに優しくしたり明るく振る舞ったりするのって、生活の中でちょっとした不愉快につながってしまうことに今まで気づかないで生きてきたので、きっと同じような人はたくさんいるだろうなと。少しでもそれを紐解くものになったらいいなと思ったんですよね。

ーーそして今作には“愛”という言葉がほぼすべての楽曲に登場していますよね。ソロ作『程』の時って、「言葉では伝えきれない」というテーマのモチーフとして“嘘”という言葉が頻出していましたけど、今作における“愛”という言葉も、作品のテーマを導くような存在だったんでしょうか。

塩入:このアルバムって“愛”について考えて作った気が全然しないんですよね。ただ、FINLANDSを何年もやってきて曲を作り続けてきた中で、“愛”という言葉を使いやすくなったのかなっていうのは感じます。昔だったらこんなに多用するのは嫌だったと思うし。けど、形として一番わかりやすい言葉って、きっと“愛”だと思うんです。あまり気づかなかったんですけど、自分を大切にすることで相手を大切にできるっていうのは本当だなって思ったことがあって。「ナイトハイ」なんてまさにそうですけど、家族が自分を大切に育てて愛情を注いでくれた分、自分も家族をきちんと愛しているし、それを繰り返していけるんだなと思ったので、愛っていう言葉はすごく使い勝手がいいと思うし伝わりやすい。それを長々と説明するのはもはや歌詞じゃなくなってしまうので、シンプルな言葉で“愛”と言うことが嫌じゃないって思えてきているんだと思います。

「想像するくらいの自由さは持っていたい」

ーー“愛”に対して、寛容になって受け入れることができていったんだと思いますけど、「ナイトハイ」は“愛おしさ”について純度高くストレートな言葉に書き切っていますよね。この曲ができたのはどうしてだったんですか。

塩入:これは祖母のことを書いた曲なんです。これくらいわかりやすい方が自分もドキッとするし、伝わって欲しいところで伝わらないのは避けたいと思ったので、すごくストレートな表現になりましたね。

ーーストレートになったのはどうして?

塩入:「ナイトハイ」が、“出来事”をきちんと書き記したものだったからかもしれないですね。他の曲って、気持ちの暴露とか気づきを書いたようなものでしたけど、「ナイトハイ」は後悔とか愛情というよりも、自分にとって戒めみたいな気持ちで書いた曲だったので。

ーーだからこそ鮮明な言葉で書き切ったと。全体的に歌が前に出ていて、サウンド的にも「ナイトハイ」をはじめ中盤の楽曲はメロウで自由度が上がっていますけど、このあたりはバンド編成の変化が影響しているんでしょうか。

塩入:それはありましたね。一緒に制作してくれる人が変わるっていうのは、今まであまりなかったので。ずっと2人でやってきた中で、自分ひとりになったらどうなるんだろうっていう不安もあったんですけど、新体制になって一番最初の2019年のレコーディングから、一緒にやってくれているベーシストのイラミナくんがいてくれたので、すごく信頼して任せられました。彼や他のサポートメンバー2人が言ってくれることを私は素直に受け入れられて、悪い意地を張らずに人に頼ることができたかなって思います。

ーーそうした制作で、塩入さんが特に印象深いのはどの曲でしょうか?

塩入:やっぱり「Stranger」ですかね。デモを持っていった時に、イラミナくんがめちゃくちゃカッコいいって言ってくれて。サポートメンバーは同年代なんですけど、中高生の時に聴いていたような音楽に対するドキドキや興奮をみんなで持ち寄って作っていけた気がするので、すごく久しぶりにそういうバンドっぽい会話をできたなと思って嬉しかったんです。学生の時って、CD買ったらその1枚をMDに入れて無限にリピートして聴いたし、そういうのいいよなって思えたので、少し原点回帰みたいな曲だった記憶がありますね。

ーー最初のレコーディングは2019年ということですけど、今作を締め括る「まどか」は2020年3月リリースの楽曲なので、きっとその時期に制作されていますよね。この曲をアルバムの最後にしたのはどんな意図があったんですか。

塩入:2020年は「まどか」がFINLANDSにとって大切な一本柱だったから、この曲を最後にするのが一番気持ちがいいんじゃないかなって思ったんです。

ーーそう思えたのはなぜでしょう?

塩入:うーん……2020年に『まどか / HEAT』しか出してないからだと思います(笑)。

ーーたしかに(笑)。この曲ってすごく泥臭くて人間的な曲ですし、〈いかれた世紀の 途中の私達も/あり得ないような/笑えるアイデアを/くだらないイメージでも/持ったっていいだろう〉がこのアルバムで歌われることによって、ある種の安心感みたいなものを感じられます。

塩入:そうですね。この曲を作った2019年って、今後もずっと恋愛のことばっかり歌っていくわけはないなと思っていた時期で、年齢を重ねていく中で、歌うことも変わっていきたいなと思っていたんですよね。その中で「まどか」って、すごく自然にそういう場所に行けた曲で、生活の中の願いだったり、身近な人たちを守るためにはどうしたらいいだろうなっていうことをスッと書けたんです。おっしゃっていただいた人間臭さっていう意味では、きっと『FLASH』の始まりみたいな曲だと思うんですよね。

FINLANDS「まどか」Music Video

ーー本当にそう思います。コロナ禍を経ていろんな解釈ができる曲になりましたけど、〈くだらないイメージでも/持ったっていいだろう〉って自然に言えたのは、どうしてだと思いますか。

塩入:大人になればなるほど、くだらないことって面白くなってくると思うんですよ。例えば、絶対にいないとわかっていても、夜中に外を見てみたら、ゴリラとか出てこないかなってすごく想像するんです。めちゃくちゃくだらないと思うんですけど、そういう想像をすることで、自分の中にでき上がっていく世界があると思うんですよね。今ってすごく窮屈な時代ですし、何か言えばすぐ言葉の揚げ足をとられたり、自分の願いを口に出すことですら憚られる感じがしますけど、じゃあ言葉に出しちゃいけないんだったら、せめて頭の中でずっと願い続けることくらい私たちの権利としてあるわけで。口に出せれば一番いいですけど、想像するくらいの自由さは持っていたいという気持ちを込めて書いた歌詞だと思います。

ーー大人になるにつれてくだらなさを楽しめるのは、どうしてだと思いますか。

塩入:大人になる方が残酷なことが多いからじゃないですかね。

ーー残酷さの反動みたいな?

塩入:小さい時も悲しいことは悲しいし、誰かがいなくなったり死んでしまうことに対する恐怖はありましたけど、大人になるほどそれを理解するようになってきて、悲しみがトラウマのように自分の中に植え付けられていくと思うんですよ。でも、いなくなった人のことを考えて、いると思って想像するのはすごく幸せだと思うんですね。それが現実とごっちゃになってしまうのは問題ですけど、想像の中で幸せな気持ちになるのは大切なことじゃないかなって。だから、くだらないことが大切になってくるんだと思います。

ーー窮屈な世の中で残酷さを知っていくからこそ、想像が大切だと。「まどか」だけでなく、アルバム全体に“壊れる”という言葉が出てきますけど、それも自身が持つ恐怖や悲しさに紐づいているんでしょうか。

塩入:「ナイトハイ」にもつながりますけど、自分が傷つけられて壊れそうになってしまった時って、大切に育ててくれた家族からもらった愛情があることで、「私がそんなことで壊れていいわけがない」っていうストッパーになると思うんですよ。逆に、私が家族に対して持っている愛情も、家族にとってのストッパーになればいいなって思うんです。だから〈あなた〉と〈わたし〉の対比で歌詞が書いてあるんですよね。「私は壊れないよ。なぜならこういうことがあるから」っていう、自分に対してのお守りのようになっている言葉です。

ーーお守りってしっくりくる言葉ですね。「HOW」から「まどか」まで通して聴くことで、生き方や未来に対して、豊かさの気づきを提示しているような作品だと思いました。

塩入:そうですね。繰り返しながら人間が生きていく中で、たまに“FLASH(=閃き)”が発生して、それによって私たちはこれからも生きていけるんだろうなって思います。

■リリース情報
FINLANDS 3rd Full Album『FLASH』
2021年3月24日(水)発売 ¥2,500(税抜)
【収録曲】
01.HOW
02.ラヴソング
03.HEAT
04.テレパス
05.Stranger
06.ナイトハイ
07.ランデヴー
08.ひかりのうしろ
09.Silver
10.Balk
11.UNDER SONIC
12.USE
13.まどか(FLASH ver. )

■ツアー情報
『FLASH AFTER FLASH TOUR』
4月10日(土)大阪 UMEDA CLUB QUATTRO
4月17日(土)名古屋 NAGOYA CLUB QUATTRO
4月28日(水)東京 Zepp DiverCity(TOKYO)
※チケット詳細はこちら

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