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布袋寅泰 GUITARHYTHMという人生

『GUITARHYTHM Ⅵ』で結実した 世界のミュージシャンとの交流 

毎週連載

第5回

19/6/17(月)

『GUITARHYTHM Ⅵ』の制作は主にロンドンで行われた。途中、ヨーロッパや日本でのツアーが組まれ、様々なミュージシャンとの交流へと至った。Museのプロデューサーであるトマソ・コリーヴァ、デヴィッド・ボウイの盟友ピアニストだったマイク・ガーソンやSadeのキーボーディストであるアンドリュー・ヘイルなどなど。こうして誕生した、個性豊かな楽曲の制作秘話を聞いてみた。

─── アルバム11曲目の「Freedom In The Dark」は、デジタルでファンクな魅力にあふれたGUITARHYTHMらしいサウンドですね。アグレッシブです。

布袋 知人を通じて紹介されたトマソ・コリーヴァというイタリア人のプロデューサーと初めて組みました。彼はMuseのプロデューサー&エンジニアとして有名。Museのフューチャリスティックでモダンなギターサウンドも僕は大好きだし、彼らがどんなサウンド作りをしているかとても興味がありました。ミラノの彼のスタジオでレコーディングしたんだけど、アプローチの仕方が斬新でとてもおもしろかったし刺激を受けました。

Museのプロデューサーであるトマソ・コリーヴァ

─── トマソは、ビートメイク、ブレイクビーツの選手権で世界一になったことがあるそうですね?

布袋 そう。彼はイタリアの凄腕インストバンド(Calibro 35)を結成しただけあって、ビートを重要視するプロデューサーでね。行程としてはまず彼からブレイクビーツのトラックをいくつか送ってもらって、気に入ったビーツに対してリフを何曲か付けて戻して、そんな作業をミラノ~東京~ロンドン間でやり取りし、完成させました。僕は自分のサウンドにもちろんこだわりがあります。ミラノレコーディングの際は「Kemper」というデジタルアンプのデータを持ち込み、自分のプロファイルされたサウンドでレコーディングしたんだけど、彼は別系統でまったくエフェクトされていない音を録りたい、という。Museでもギターサウンドはそのやり方らしいんだけど、要はプレイするときは自分の音じゃなきゃ弾きにくいだろうからそれでいい、しかし楽曲を構築していく作業で録りの音に縛られたくない、という考えなんだね。ノンエフェクトのギタープレイをのちに「リアンプ」といって別のアンプやキャビネットで鳴らして録り直したり、デジタルエフェクト加工したりして、まったく違うサウンドに変えるんだ。どう聴いても僕のギターではあるけど普段なら決して選ばない音になった。逆に僕のスタイルが際立って聴こえるからおもしろい。いろんな気づきがあったよ。イタリアのミュージシャンは、ドラムやベースのうねり方がちょっとロンドンとは違ったり。

─── 布袋さんは、イタリアの国民的スーパースター、ズッケロとも共演をされていますが、イタリアへのネットワークの広がりも興味深いですね。

布袋 そうだね。ズッケロとはイタリア各地のライブで共演させてもらった。ヴェローナのアリーナ公演やベニスのサンマルコ広場でのライブは一生忘れないよ。イタリアとドイツはなんだかすごく近く感じるな。やはりここ数年でヨーロッパツアーやフェスなどをいろいろ経験したし。やっぱり自分のミュージシャンとしての感覚も、ずいぶん変わってきているんだろうな。31年前の『GUITARHYTHM』もロンドンレコーディングだったけどスタジオ内はほとんど日本人だったからね。そう『GUITARHYTHM』シリーズは『V』以外、すべて“Made in London”なんだけど、今はロンドンに腰を据えて、英国やヨーロッパのミュージシャンやプロデューサーたちと交流しながらじっくり作っているから今までのものとはまた違うね。日本語だけど完全に洋楽ですから、音は。もはや、そんな垣根もない時代だけど、やっぱり違いますよ。

イタリアの国民的スター、ズッケロとヴェローナで共演

─── 「Freedom In The Dark」は挑戦的なサウンドだと思いました。その精神がまた、GUITARHYTHMらしさですよね。

布袋 トマソとのプロジェクトは海外にアピールできる曲を、という前提で作りましたから、今後の広がりが楽しみです。

─── 4曲目の「Shape Of Pain」は、軽やかなビートにせつないメロディがポップで気持ちよくて大好きです。

布袋 僕もとても気に入っているよ。この曲を聴くとワクワクしない? 自然と両手を上げて踊りたくなる、みたいなね。この曲は比較的はじめのほうでできた曲で、「Clone (feat. Cornelius)」や「Middle of the end」と同時期にできた1曲だった。いつも僕のデモはかなり完成されていて、ドラムやベース、ギターを何度か差し替えたりしたけど、基本的には最初のデモに戻った感じかな。ちょっとローファイでビートに陰りがあって、だけどシャープなギターやコーラスワークが爽快に広がるイメージ。曲の構成がすごくねじれていて、いわゆる王道のポップスパターンのA-B-Cの繰り返しを避けて作った。すごくシンプルに聴こえるけど、実は複雑な展開でありながら高揚感のあるよくできた曲なんですよ! 最近作ったポップ路線ではダントツだと思います。20年前だったらヒットチャートに投げ込んで1位をとっていたかもしれないですね。

─── ベースラインがめちゃくちゃ気持ちいいですね。

布袋 それ、うれしいな! このベースは、ここのところずっと参加してくれているマーク(・ニアリー)に弾いてもらったんだけど、ちょっと上手すぎて(笑)。結果的に僕がベースを弾きました。

─── 他での響き方と違いましたね。あと、「Secret Garden」も遊び心が反映された1曲ですよね。日本語詞になってますけど、デヴィッド・ボウイやスージー・アンド・ザ・バンシーズが憑依しているような時代感を受け取りました。

布袋 そうだね。今回の『GUITARHYTHM VI』は、楽曲それぞれのカラーはもちろん、歌詞の世界ももちろんだけど、実はギターソロを楽しめるアルバムだと思う。「Shape Of Pain」のギターソロなんかかなり完成度の高いギターソロになっていると思うし、「Thanks a lot」のソロも大サビみたいな感じですよね。「Secret Garden」のギターソロも独特でしょ? コピーするのはかなり難しいと思うよ。クリムゾンっぽいです。ギターソロって、ついつい手癖で同じラインをなぞってしまいがちだけど、今回はギターで歌うことを心がけて、各曲こだわって弾いています。

デヴィッド・ボウイの盟友ピアニスト、マイク・ガーソン

─── 7曲目「Calling You, Calling Me」での、コズミックかつロマンチックなナンバーにもGUITARHYTHMらしさを感じて注目です。

布袋 壮大で広がりのある宇宙的な曲をどうしても1曲入れたくて、Sadeのキーボーディストのアンドリュー・ヘイルに作曲から参加してもらいました。自分で鍵盤に向かうと、自分のコードから抜け出せなくてね。思い立って彼に電話したら「Sadeのレコーディング中だけど、今から3時間なら行けるよ」と。早速スタジオに来てもらってギターとピアノ、ふたりでコードを探しながら、まずは骨格を作り上げてね。

─── 作り方にも自由さを感じますね。

布袋 そうだね。翌日、彼はニューヨークに飛んで、ホテルで作業してデータで戻してくれて。香港からも送ってくれたな。そんなやりとりを重ねながら最終的にはロンドンの郊外のスタジオに入って。気の知れたミュージシャン達とわいわいやりながらの一発録りです。

─── 美しい広がりを感じる歌詞もサウンドとの波長がぴったりで心地よいです。

布袋 今回も、多くの歌詞を担当してもらった森雪之丞さんには、ダークで重いテーマの歌詞ばかりお願いしたので、是非1曲、森さんお得意の美しい広がりのある言葉の宇宙を描いてほしいと思ってね。宇宙の浜辺を浮遊している美しさと寂しさ。原始の森から星空を見上げ夢描いた未来。でも、自由さのある最後の“未来の自分がまた 次の夢で待っている”という言葉にとても救われる。このアルバムにはなくてはならない曲となりました。やっぱり彼の言葉は、心に広い景色が広がるんだよね。

当連載は毎週月曜更新。次回は6月24日アップ予定。現在展開中のツアー「HOTEI Live In Japan 2019~GUITARHYTHM Ⅵ TOUR~」をはじめ、ライブというものの持つ意味など、お届けします。

プロフィール

布袋寅泰

伝説的ロックバンドBOØWYのギタリストとして活躍し、1988年にアルバム『GUITARHYTHM』でソロデビュー。プロデューサー、作詞・作曲家としても高く評価されており、クエンティン・タランティーノ監督の映画『KILL BILL』のテーマ曲となった「BATTLE WITHOUT HONOR OR HUMANITY(新・仁義なき戦いのテーマ)」が世界的に大きな評価を受ける。2012年より拠点をイギリスへ。2014年にはThe Rolling Stonesと東京ドームで共演を果たし、 2015年10月にインターナショナルアルバム『Strangers』がUK、ヨーロッパでCDリリースされ、全世界へ向け配信リリースもされた。2017年4月にはユーロツアー、5月には初のアジアツアーを開催。6月9日から「HOTEI Live In Japan 2019~GUITARHYTHM Ⅵ TOUR~」で全国24ヵ所24公演を巡る。


取材・文:ふくりゅう(音楽コンシェルジュ)

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