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松本まりか×松下洸平×柿澤勇人が語る役者の業「表現に没頭できなければ、私は生きていけない」

ぴあ

(左から)柿澤勇人、松本まりか、松下洸平 撮影:岩田えり

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「WOWOWオリジナルドラマ向こうの果て」が毎週金曜よる11時~放送・配信中だ。(※5/21午後2:30~第1話リピート放送あり/無料配信)

舞台は、昭和60年の東京。あるマンションの一室で放火殺人事件が発生した。容疑者は、池松律子。殺されたのは、律子の幼なじみの君塚公平。なぜ律子は公平を殺したのか。そこには、律子を取り巻く様々な男たちのドラマと、悲壮な運命が横たわっていた。

本作は主人公・律子に松本まりか、被害者の幼なじみ・公平に松下洸平、そして事件の謎を追う検事・津田口亮介に柿澤勇人と実力派を揃え、大人の鑑賞に耐えうる愛憎ミステリーに仕上がっている。

律子を軸に広がるそれぞれの関係を、役者たちはどのように捉えていたのか。松本、松下、柿澤の3人に話を聞いた。

洸平くんの目が「私の恥部を見ないで」という気持ちにさせてくれた

――律子と公平の関係について松本さんと松下さんはどんなことを感じましたか。

松下 痛みを分かち合える数少ない存在であることは間違いなくて。最後までお互い相手にすがり続けていたのかなと思います。でもそれは意識してそうしていたわけではなく。幼い頃からずっと一緒にいて、他の人にはないつながりを抱えて、きっと無意識のうちにお互いの内面を支え合っていたんだろうなと。だからそれを過度に表現する必要もないのかなと思いましたし、演じているときはその場で起きていることに必死に食らいついていくのに必死で。それがどんなふうに映っているのか、僕もすごく楽しみなんです。

松本 すごく特別な愛情で結びついている関係ですよね。なかなか経験できる関係じゃないし、どうしようもない運命に2人は翻弄されていくんですけど。だからこそ2人の絆や想いというものは、いわゆる普通の恋愛よりもずっと深くて、純粋で。誰もふれられないし、他の人には想像もつかないものだったんじゃないかなと思います。

――演じていて印象的だった場面はありますか。

松本 洸平くんとの初めてのシーンが、律子が公平に暴力をふるうシーンだったんですね。一発目からいきなりそれで、洸平くんから見た私の印象は終わったなと思ったんですけど(笑)。

松下 あはは。

松本 私、台本を読んだ段階では、最愛の人にDVをする気持ちが本当にわからなかったんです。だけど、あそこで洸平くんと対峙したとき、自然と殴りたくなったというか…。

柿澤 大問題だな、それ(笑)。

松本 そう、大問題なんですけど(笑)。不思議なのが、殴られても殴られても、彼はものすごい慈愛に満ちた目で見てくれたんです。その目に「私の恥部を見ないで」という気持ちになって。そうした公平に対する拒絶反応が暴力につながったというか。愛情から来るDVってもしかしてそういうことかもしれないって掴めた気がしたんです。洸平くんのあの穏やかで愛情深い眼差しがなければ、私はもっと無理やり殴っていたかもしれない。すごく自然に殴れたのは、洸平くんがそうさせてくれたから。ありがとう、殴らせてくれて(笑)。

松下 (笑)。手加減なんて必要ないと思っていても、初めましての俳優にいきなりビンタしたり蹴ったりっていうのはやりづらいだろうなというのもわかるので、最初に「思い切り来てください」とだけお伝えして。あとは公平として、「どうぞ気がすむまで殴りなさい。ボッコボコにしてくれていいから、気持ちがおさまったら一緒に帰ろう」という気持ちだけで。2人は、そういう間柄なんですよ。

松本 うん(と、深く頷く)。

松下 ああいうシーンは深く役に入れば入るほど絶対にしんどいはずなんですよ。しかも、いろんな角度から撮るために何度も何度も繰り返さなきゃいけない。そのたびに、また気持ちを持っていくのは本当に大変だったと思うし。僕も初日からとんでもない現場に入ってしまったなと思ったんですけど(笑)。でも、逆にあのシーンが最初で良かったのかなって、今振り返ればそう思いますね。

まりかちゃんからこの作品に懸ける想いが伝わってきた

――そして、柿澤さん演じる津田口は検事として事件を追ううちに、律子に心をとらわれていきます。

柿澤 ひとつの事件にいちいち私情を入れ込んでいたら、年間でものすごい数の案件を起訴しなきゃいけない検事の仕事は務まらない。それでも、津田口が律子に傾倒していくのは、律子の言動はもちろんですけど、津田口自身の生い立ちに関連していて。津田口は姉が親代わりとなり育ててくれたので姉への思いが強い。そんな姉の面影と律子を重ね合わせていくうちに、彼女の隠しているものを知りたいと思うようになっていくんです。

ただ、それを説明的に演じちゃったら面白くないという話は内田(英治)監督ともしていて。あまり考えすぎず、決め込みすぎず、現場でまりかちゃんの演じる律子がどう出てくるのか、それをとにかく楽しもうという気持ちでしたね。

松本 律子にとって津田口は唯一心をはがされる人。最終話にかけて、津田口が律子の奥深くに入ってくるんですけど、正直、自分でもここまで津田口にはがされるとは思っていなかったので、すごくびっくりしましたね。律子の心はいつも公平にあって、そこには誰も入れてやらないという気持ちだった。その閉ざしていた想いを初めて剥がすのが津田口で。公平とは全然違う方向で、津田口もまた律子にとって特別な存在でした。柿澤くんとのシーンは本当に2人だけの世界で。こういう心の繋がり方ってあるんだって、演じていて心がぐわんっとなるような、すごく面白い体験でしたね。

柿澤 (クランク)インの日にまりかちゃんと対峙したとき、この作品に懸ける想いとか背負っているものが一発で伝わってきて。その鬼気迫るエネルギーに刺激を受けましたし、最初はトリッキーな態度で津田口を困惑させていた律子が、話が終盤に進むにつれて、どんどん揺らいでいくんですよ。その姿を見ていると、津田口としても、僕としても、やっぱり入り込んでしまうというか。本来検事としてはその人の人生なんて一切関係なく、ただ事件のことだけをやればいいのに、わざわざ青森まで行って律子の過去を調べようとした津田口の気持ちがわかった気がしました。

答えのないものをずっと追いかけている

――律子の父は民謡一座の歌手、公平の父は三味線奏者。芸事の世界に生きる人間であり、「河原乞食の血が流れている」というような言葉も出ています。3人は演じる者として、逃れられない役者の業や血というものを感じることはありますか。

柿澤 うちはひいおじいちゃんが浄瑠璃の語り手で、祖父が三味線奏者で。芸能一家で育ったんですけど、僕は一切興味がなくて、ずっとサッカーばっかりやってたんです。それが高1のときに『ライオンキング』というミュージカルを観て、これをやりたい!ってなったので、祖父に相談したんですよ。そしたら「芸能の仕事は華やかに見えるけど、金は稼げないし本当にキツい。なぜだかわかるか? この世界は河原乞食だからだよ」って言われたんですね。

松本&松下 へえ〜!

柿澤 昔は芸事をやる人間は人として扱われていない時代があって。お金がなくてどうしようもなくて、パトロンたちに気に入られるためには体を売るか芸を売るかしかなかった。そういう汚い世界だよという話をされて。当時まだ16歳の僕は何もわからなかったんですけど、今になって祖父の言っていたことがわかるというか。簡単な世界じゃないという気持ちはありますね。

松下 まりかさんも勇人も舞台もやってるからわかると思うんですけど、地方公演が全部終わってさ、品川駅で「じゃあまたいつか。さよなら」ってみんなと解散するじゃない? そのあと、ひとりで家まで帰る途中、長い間演じ続けた作品に対してふと「あのセリフ、あの言い方じゃないわ」って思うときがあるんですよ。で、明日試そうと思って、「あ、そうだ。もう終わったんだ…」って気づくっていうね。

そのたびにいつも思うんです、やめられないなって。お芝居は終わりがないし、答えが永遠に見つからない。それこそ勇人と『スリル・ミー』という作品を8年近く一緒にやっていたけど、やってもやってもわからなかったし。本当、答えのないものをずっと追いかけているなって思うし、それが役者の宿命なのかなと。

柿澤 舞台もそうですし、映像もそうですけど、辛いこともたくさんあるのに、なんでこんな頑張ってるんだろうって思うんだけど、でもまたやりたくなるみたいな。まりかちゃんとの最後のシーンで律子がめちゃくちゃ泣くわけですよ。これだけエネルギーを使う芝居をやると、もう疲れて嫌にならないかなって、ちょっと心配になったんですけど。まりかちゃん自身、この1年休みがなかったって言ってたじゃない? それでも歯を食いしばってやってきたんだと思うけど、不意に投げ出したくなんないのかな、とは思う。

松下 確かに。まりかさんの原動力は何?

松本 私は15歳で初めてドラマに出て。そこからずっとお芝居がやりたいなと思っていたんですけど、長いこと仕事があんまりなかった時期があった分、表現することに飢えているんだと思います。それが、この1年で一気に20年分の仕事量をやった気がして。この作品の撮影のときも、1日立っていられるかどうかギリギリの状態だった。そんな状態で律子をやることが本当はすごく嫌でした。

何がいちばん嫌かと言うと、中途半端になることが嫌だった。だから、とにかく自分のすべてを注いでやらなきゃという気持ちでした。そうすると、死ぬほど疲れるんですけどね。でも、それくらい集中した方が掴めるものがあるし、そうやって表現に没頭できなければ、私は生きていけないんだと思います。

今は1回無になりたいです(笑)

――表現することに飢えていた松本さんが、この1年で一気に20年分の仕事量をやって。表現への飢えは今も変わらないですか。それともお腹いっぱいですか。

松本 正直ちょっと余裕がほしいです(笑)。癒しがほしいですね。吹きさらしの雑巾みたいな感じになっていたので。1回無になりたいです。これからも表現をしていくために、何もない状態になりたい。

松下 そうか…。僕の場合は音楽もやっているので、それがいい切り替えになっているのかもしれない。どんなに俳優業が忙しいときも、曲をつくらなきゃと義務感を抱くことはなくて。早く曲をつくりたいって自然とそういう気持ちになるんですよね。そうやって曲づくりをしている時間が、僕にとって無になれる時間なのかも。

――柿澤さんは表現することへの飢えを感じることはありますか。

柿澤 僕は俳優陣とのお酒に飢えていますね(笑)。

松下 (笑)。でもそうだよね。

柿澤 それもこの仕事をやっている楽しみのひとつというところもあるので。1月も舞台をやっていたんですけど、一緒に飲んだりとか、まったくなかったから。今回も本当はみんなとご飯とか行きたいけど行けなかったから、そういう楽しさへの飢えがありますね。

松本 確かにそれはあるかも。誰かと楽しんだり、普通に笑い合ったり。そういうことに私もすごく飢えているのかもしれないですね。

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「WOWOWオリジナルドラマ向こうの果て」は毎週金曜よる11時~放送・配信中(※5/21午後2:30~第1話リピート放送あり/無料配信)

撮影/岩田えり、取材・文/横川良明、ヘアメイク/(松本まりか)paku☆chan(松下洸平)五十嵐将寿(柿澤勇人)松田蓉子、スタイリング/(松本まりか)mick(松下洸平)渡邊圭祐(柿澤勇人)椎名宣光、衣装協力/(松下洸平)S'YTE

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