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十代とダンス 第1回 ネット経由で中高生に“発見”される盆踊りの今

ナタリー

18/8/10(金) 21:00

「み霊祭り納涼盆踊り花火大会」の様子。 (撮影:ケイコ・K・オオイシ)

近年、十代の間で爆発的なダンスブームが巻き起こっている。ストリートダンスの普及、発展を目的とした一般社団法人・ストリートダンス協会によると、高校のダンス部の数はこの10年間で900校から1800校へ倍増。高校ダンス部の全国大会である「DANCE STADIUM」の参加人数はここ数年増加し続けているという。

また、高校のチアリーダー部をテーマにした映画「チア☆ダン~女子高生がチアダンスで全米制覇しちゃったホントの話~」や、中学生と社交ダンスの出会いを主題とするマンガ作品「ボールルームへようこそ」(「月刊少年マガジン」)などダンスをモチーフとした作品も人気を集めており、そのブームはさまざまなジャンルに及んでいる。

この連載では十代の間でなぜダンスブームが巻き起こっているのか、各ジャンルの現状を取り上げながら、その背景にあるものを探っていきたい。

ネット時代に入って息を吹き返した盆踊り

神奈川県横浜市鶴見区の一角に佇む曹洞宗大本山、総持寺。この古刹では毎年数万人規模の人々が訪れる「み霊祭り納涼盆踊り花火大会」が3日間に渡って開催されている。来場者の多くは十代の若者たち。彼らのお目当は、夜空を彩る花火大会と総持寺名物である盆踊りだ。お待ちかねの盆踊りタイムでは「東京音頭」などの定番曲もかかるが、一番人気は「一休さん」と「ひょっこりひょうたん島」のテーマソング。その熱狂はすさまじく、「好き好き好き……愛してる」という「一休さん」のサビでは、「愛してる!」という野外フェスばりのコール&レスポンスが巻き起こる。櫓の上で踊りの輪をコントロールするのは二十代の若い修行僧。彼らはマイクを持って来場者を煽り、自身も汗を振りまきながら踊りまくる。

およそ曹洞宗大本山の盆踊りとは思えないその光景を動画で撮影し、何気なくTwitterに投稿したところ、すさまじい勢いで拡散されていき、RTはあっという間に170を超えた(https://twitter.com/OISHIHAJIME/status/755032685483925504)。驚いたのはその拡散スピードではなく、投稿をシェアをしたのがほとんど横浜市各地の中学生だったということだ。筆者のフォロワーの多くはマニアックな音楽リスナーか盆踊り・祭り愛好家。中学生の間で1つの投稿が爆発的に拡散されたケースはこの先にもあとにも覚えがない。

今年で71回目を迎えた「み霊祭り」は、もともとは檀家および地域住民の間で親しまれてきた年中行事の1つだった。だが、平成に入ってから「一休さん」と「ひょっこりひょうたん島」が導入されると、地元の中学生の間でジワジワと話題に。10年ほど前にその動画がYouTubeに投稿されネット上で話題を集めたことで、その人気は一気に爆発した。つまり、先の「み霊祭り」の盛り上がりはまさにネット時代ならではのものなのだ。

盆踊りのスタンダードとなった「ダンシング・ヒーロー」

各時代における盆踊りの盛り上がりとは、総人口が占める子供の割合と関係している。例えば第2次ベビーブームの子供たちが地域の行事に足を運ぶようになる1980年代前半から半ばにかけて、町内会などが運営する地域のレクリエーション的盆踊りは大きな盛り上がりを見せた。その市場をあてにして、数多くのアニソン音頭が世に送り出されたことを記憶されている方も多いことだろう。

だが、彼らが十代後半から二十代になって地元の行事から離れ、65歳以上の高齢者の人口が子供の数を上回って少子社会となった90年代後半になると、盆踊りの多くが下火に。阿波おどり(徳島県各地)や郡上おどり(岐阜県郡上市八幡町)のように長い伝統を持ち、保存会など後ろ盾となる組織が存在するものはともかく、町内会で運営されているような手作りの盆踊りは少子化の影響をダイレクトに受けた。言うまでもなく少子化は90年代後半よりもさらに進んでいるわけだが、その一方で都心部~郊外の一部の盆踊りでは、近年になって十代の来場者が増加傾向にあるという。

その背景には、先に触れた「み霊祭り」に象徴されるようにSNSの存在がある。ネット上で情報拡散されることによって、それまで地域住民の間でしか知られていなかった盆踊りが広く話題となり、県外からも多くの人々がやってくるケースが増加。The Nolans「Sexy music」で踊る高知県香美市物部町の「奥物部湖湖水祭」や、生バンドで踊る神奈川県三浦郡葉山町の「森戸の浜の盆踊り大会」などもその一例だが、もっとも象徴的な例が東海~関東の一部で見られる荻野目洋子「ダンシング・ヒーロー(Eat You Up)」の盆踊りスタンダード化だろう。

※「ダンシング・ヒーロー(Eat You Up)」のミュージックビデオ。こちらは新バージョン。

「ダンシング・ヒーロー」は80年代半ばに愛知県の日本民踊研究会が盆踊りに導入して以降、東海~関東の広い範囲で踊られていたが、全国的に知られるようになったのは、東海地区最大の盛り上がりを見せる岐阜県美濃加茂市の「おん祭 MINOKAMO」の動画がYouTubeにアップされてから。昨年には大阪・登美丘高校ダンス部の“バブリーダンス”のブレイクなどもあり、この夏、「ダンシング・ヒーロー」盆踊りは例年以上の盛り上がりを見せている。

同じ振り付けで踊ることによって得られる一体感

では、中高生は盆踊りにどのような魅力を見い出しているのだろうか? 櫓に提灯のかかる盆踊りの光景がInstagram映えすること、浴衣を着るという行為自体にコスプレ的な楽しさがあること、入場無料の盆踊りが中学生のお財布にも優しいことなど、いくつかの理由を挙げることができるが、これらはあくまでも表面的な要因でしかない。 

冒頭で触れたように近年高校ダンス部の数は急増しているが、そうした人気の背景として、現在の中高生が幼い頃からテレビなどを通じてダンスパフォーマンスに触れていたことが挙げられる。ダンスを売りにしたアイドルグループやパフォーマンスグループは80年代から存在していたが、近年はTWICEやBTS(防弾少年団)などのK-POPグループが各メディアを賑わせ、中高生の間でも高い人気を誇っている。また2000年代初頭から子供・幼児向けのキッズダンスが流行していたこともあって、学校内に幼い頃からダンスを学んでいたという同級生が1、2人いることも珍しくなくなった。そうした環境の変化により、ダンスがより身近なものになっているのだ。加えて、そのように幼少時代からダンスに触れてきた世代の多くは、踊ることにかつての中高生ほどの抵抗感がない。盆踊りリバイバルの背景には、そうしたダンス観の変化がある。

また他者と同じ振り付けで踊られる盆踊りのスタイルが、現代の中高生の感覚にマッチしていることも挙げられる。盆踊りと言っても上級者になるとそこにオリジナリティを加えていくケースもあるし、中には1人ひとりの自由度が高い盆踊りもあるが、ほとんどの場合が同じ振り付けで踊ることに面白さがある。盆踊りの輪の中に入り、一定の振り付けで踊ることによって得られるある種のカタルシスとは、踊り念仏など盆踊りの原点にある宗教儀式から受け継がれてきたものとも言えるかもしれない。

現在の中高生のダンスブームを支えているダンスの多くもまた、盆踊り同様に同じ振り付けで踊られる。高校ダンス部やストリートダンス、よさこいやチアダンス、さらには友人たちとペアルックで同じダンスを踊る“双子ダンス”のように動画コミュニティ経由で人気になったものなど、1人ひとりの踊り手の個性よりもグループとしての統一感が求められるものばかりだ。その根底には、ダンスを通じて自分があるコミュニティに属しているという安心感を得られること、隣の友人との“絆”を確認できること、集団としての一体感を得られることなど、生きていくうえでの漠然とした不安の裏返しとも言える感覚がある。そして、そうした感覚は盆踊り人気の下地ともなっているのだ。

盆踊りは宗教的側面を持つ伝統的なものであれ、地域住民のレクリエーション的目的のものであれ、特定の地域に紐付いたコミュニティダンスという一面を持つ。ネット経由で広く知られるようになった先述の盆踊りにしても、ネットという架空のコミュニティを経由したからこそ爆発的に拡散されることとなった。「み霊祭り」の動画がTwitterであっという間に拡散されたことが象徴しているように、「一休さん」で踊り、その動画をシェアするという行為は、自身が「み霊祭り」を取り巻くリアル / ネットコミュニティの住人であることを再確認するものでもあるのだろう。

ただし、そうした傾向もあくまでも流動的。動画コミュニティの流行が1年ごとに移り変わるように、来年には「一休さん」に変わる盆踊りが爆発している可能性もある。今のところ中高生の盆踊り志向はあくまでも受動的なものだが、ほかのサブカルチャーと結び付くなどして、新しいダンスカルチャーが能動的に生み出されていくことにも期待したい。

<つづく>

文・大石始

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