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『夢中さ、きみに。』映像化の狙いは? 原作へのリスペクトと「交差点」のアレンジ

リアルサウンド

21/1/28(木) 8:00

 第23回文化庁メディア芸術祭漫画部門新人賞や、第24回手塚治虫文化賞短編賞など、数々の賞を受賞した和山やま氏の人気漫画を原作としたドラマ『夢中さ、きみに。』(MBS)が、関西ジャニーズJr.のユニット「なにわ男子」の大西流星の主演により、1月7日から放送されている。

 同作で描かれている、マイペースで自然体の高校生たちの何気ない「日常」は、緩やかだけど眩しくて、ちょっとへんてこで、愛おしい。

 実はこの作品がドラマ化されると聞いたときから、良作になる予感を抱いていた。

 期待大なのは、山田裕貴主演の『ホームルーム』や、『30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい』(テレビ東京系)でブレイクする前の赤楚衛二が出演していた『ねぇ先生、知らないの?』など、意欲作を連発してきたMBSの深夜ドラマ枠「ドラマ特区」で放送されること。しかも、『Nのために』『アンナチュラル』『グランメゾン東京』『MIU404』(全てTBS系)などの塚原あゆ子氏が監督を務めるのだから、間違いない気がする。

 また、出演者には『映像研には手を出すな!』出演の福本莉子や、『荒ぶる季節の乙女どもよ。』出演の前田旺史郎、横田真悠など、MBSの姉妹枠「ドラマイズム」でおなじみの顔触れが並ぶ。大西とは別パートのもう一人の主人公ポジションには『仮面ライダーゼロワン』(テレビ朝日系)の高橋文哉、さらに若手実力派としてトップクラスの望月歩なども出演するという、気合の入った布陣である。

 とはいえ、少々気がかりだったのは、和山やま氏の作品に流れる独特なローテンションの空気感と、不思議な「間」によるおかしさが、実写で再現できるのかということ。

 結論からいうと、ドラマ化では作品の魅力を尊重し、最大限に生かしつつも、ギャグテイストは原作比では大幅減、そのかわりに青春の甘酸っぱさやキラキラ感が大幅増量された別の空気感や味わいとなっている。

 しかし、これはドラマ化の一つの正解だと思う。なぜなら、佐々木倫子の『動物のお医者さん』(白泉社)をはじめ、映像化がどうしても困難な、独特な間や空気感のおかしさ、淡々としたギャグが散りばめられた作品はあるもので、それを生身の人間たちが演じると、過剰になったり、やかましくなったりしてしまうことが多いからだ。

 和山氏の作品にも同様の傾向を感じていたが、その点、本作ではマンガをそのまま忠実に映像化することはおそらく狙っていない。

 原作は、中高一貫校に通うミステリアスな高2男子・林美良を中心とした物語4編と、中学時代にモテ過ぎたことで起こった事件のトラウマから「絶対モテない」演出をして過ごしている二階堂明の物語4編からなる全8編の短編集だ。

 しかし、ドラマでは原作の短編の登場順も変え、「こんなに1話で出してしまって、話がもつのか」と思うほどの贅沢な盛り込み方をしていた。現時点までは原作にないオリジナルストーリーは登場しておらず、第3話では第4話の「予告編」的な遊びの映像をさしはさんでいる。ドラマオリジナルキャラを登場させ、暴走させて間を持たせるなどしないのは、原作へのリスペクトゆえだろう。

 しかも、原作では独立したパートで綴られる交じり合わない人々の日常がなんともおかしいのだが、ドラマでは「お嬢様女子校に通う読書好きのオタク」松屋めぐみを演じる福本莉子をつなぎ役にして、交差点でそれぞれの人々が交錯する立体感を持たせている。これはドラマならではの面白さだろう。

 和山氏の漫画では、公園で考え事をしている人物の背後で散歩中の犬がフンをしていたり、スマホをいじる人物の脇で妹が宿題をしていたり、家で弟妹の相手をしている人物の手に妹がクレヨンで落書きしていたり、窓際にハトがいて、会話しながら与えた干し芋をハトが後に吐いていたりする。もともと同作では、教室ではあまり光のあたらない、ちょっと変わった高校生たちをクローズアップしているが、さらにそうした人たちの背景にあるモノや人など、細部に至るまで細やかに愛情たっぷりにささやかな光をあてている。

 だから、登場人物の言動にクスリとさせられる一方で、ひそかに妙なことをしている背景や脇の人に思わずクスリとしてしまうことも多いのだが、淡々とした静かな絵1枚に盛り込まれた情報量の多さを、そのままドラマの画で再現すると、視聴者には発見されないまま流れていってしまう可能性が高い。

 その二次元ならではの時間の流れ方や空気感をそのまま三次元に持ち込むのではなく、「交差点」という場所を軸にして人と人とのつながりを作り、立体化させるとは、非常に面白いアレンジだ。

 ちなみに、原作では中学時代にモテまくったことがトラウマとなっている二階堂の思い出について、かつての同級生女子・佐藤が「中1の頃なんかは特にジャニーズジュニアみたいに可愛くってさ~」と語るシーンがある。しかし、本物のジャニーズJr.を主演に据えながら、二階堂役にするのではなく、ミステリアスな不思議ちゃん・林にしたのは、意表を突いている。しかし、目が合った同級生に「本を読んでた僕がかわいかった?」と聞くくだりなどは、「あざとカワイイ男子」大西のキャラが存分に生かされている。

 逆に、モテを必死で封印して陰キャになっている二階堂を演じている高橋文哉の素晴らしさは、回想シーンの坊主頭が何より、彼が美形であることを際立たせてしまっていること。

 何かと技ありな演出・構成・戦略にちょっと唸らされる『夢中さ、きみに。』。いよいよ次は修学旅行だ。楽しみでならない。

■田幸和歌子
出版社、広告制作会社を経てフリーランスのライターに。主な著書に『KinKiKids おわりなき道』『Hey!Say!JUMP 9つのトビラが開くとき』(ともにアールズ出版)、『大切なことはみんな朝ドラが教えてくれた』(太田出版)などがある。

■放送情報
ドラマ特区『夢中さ、きみに。』
MBSにて、 毎週木曜24:59~
テレビ神奈川にて、毎週木曜23:00~
チバテレにて、毎週金曜24:00~
テレ玉にて、毎週水曜24:00~
とちテレにて、毎週木曜22:30~
群馬テレビにて、毎週木曜23:30~
見逃し配信:TVer、MBS 動画イズム、GYAO
見放題独占配信:TELASA、au スマートパスプレミアム、J:COM オンデマンド、milplus
出演:大西流星(なにわ男子/関西ジャニーズJr.)、高橋文哉、福本莉子、坂東龍汰、楽駆、前田旺志郎、望月歩、河合優実、伊藤万理華、横田真悠ほか
原作:和山やま『夢中さ、きみに。』(ビームコミックス/KADOKAWA刊)
監督:塚原あゆ子、高野英治、宮崎萌加
脚本:喜安浩平、濱田真和
主題歌:なにわ男子(関西ジャニーズ Jr.)「夜這星」
オープニングテーマ:Broken my toybox「Hello Halo -ReLight-」(Universal Connect)
チーフプロデューサー:丸山博雄
プロデューサー:尹楊会、松本桂子、塩村香里
制作:TBS スパークル
製作:「夢中さ、きみに。」製作委員会・MBS
(c)「夢中さ、きみに。」製作委員会・MBS
公式サイト:https://.mbs.jp/muchusa_kimini/
公式Twitter:@MuchusaKimini
公式Instagram:muchusakimini

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