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『女王の教室』から『ハケン占い師アタル』へ 遊川和彦が“会社”を舞台に描いた時代の変化

リアルサウンド

19/2/14(木) 12:00

 近年、会社を舞台にした作品が増えつつある。2013年の『半沢直樹』(TBS系)の成功以降、池井戸潤の企業小説をドラマ化した作品がヒットしており、テレビ東京の新設枠・ドラマBizでは、『ハラスメントゲーム』といったビジネスを題材にしたドラマが作られている。

 これは、おそらく今の社会の矛盾の多くが会社という場所に集約されているからだろう。特に女性を主人公にすると、男社会の女性差別の問題が露呈することが多く、そういった社会問題に意識的な作り手ほど、会社を舞台にした作品を書こうとしている。

 現在、木曜夜9時から放送されている『ハケン占い師アタル』(テレビ朝日系)も会社を舞台にすることで、様々な社会問題を描こうとしている意欲作だ。舞台となるのは、イベント会社「シンシアイベンツ」のDチームという部署。派遣社員として働くことになったアタルこと的場中(杉咲花)の視点を通して描かれるDチームの面々は、それぞれ問題を抱えている。

 アタルの教育係となった神田和実(志田未来)は自分に自信が持てず、肝心な場面でミスばかりを繰り返す。父親のコネで入社した目黒円(間宮祥太朗)は、空気が読めないお坊ちゃまで、無駄に明るく大声で喋るが、みんなが腫れ物に触るように対応。品川一真(志尊淳)は、上司の上野誠治(小澤征悦)の熱苦しい指導をパワハラだと感じ、仕事を辞めたいと思っていた。

 そんな若手社員に対し、アタルが悩み相談を受ける場面が本作のハイライトとなっている。実は占い師で人の心が読めるアタルは、社員の質問に3つだけ答えてあげることで、彼らの内面へと入っていく。アタルに叱咤激励された社員たちは自分と向き合い、成長していく。

 脚本を担当するのは遊川和彦。『家政婦のミタ』や『過保護のカホコ』(ともに日本テレビ系)などで知られる脚本家で、今作では演出も担当している。遊川の作風は時代ごとに変遷しているのだが、強烈な作家性を発揮するようになったのは学園ドラマ『女王の教室』(日本テレビ系)からだろう。小学校を舞台に謎の女教師と生徒たちの戦いを描いた本作は、『ハケン占い師アタル』に出演している志田未来の出世作でもあり、劇中の名前は本作の神田和実と一字違いの神田和美だった。

【写真】『ハケン占い師アタル』出演中の志田未来

 放送当時(2005年)小学生だった子が、社会人になるくらい時間が経ったと考えると感慨深いものがあるが、当時は学園ドラマが全盛で、『ドラゴン桜』(TBS系)や『野ブタ。をプロデュース』(日本テレビ系)のように、学園ドラマという枠組みを通して、グローバリズムに直面して格差社会となった日本でどう生きるのか? という同時代的なテーマを描いたものが多かった。

 90年代にバブルが崩壊し、年功序列・終身雇用を背景とした昭和的な会社の形態がどんどん保てなくなり、不況のため新卒採用も抑えられる。やがて、00年代になると自由競争の波が押し寄せ、一億総中流という幻想が崩壊し、本格的に格差社会が到来する。雇用はますます流動化し、会社は正社員と派遣社員が一つの職場で働く、目的も役割もバラバラで掴みどころのない場所となっていった。

 そのため、共同体としての会社が希薄化していき、警察や病院を舞台にしないと、組織で働くということが描けなくなっていた。同時にドラマに求められるリアリティの水準も年々上昇し、昔のトレンディドラマのような何の仕事をしているのかわからない、恋愛の舞台としての会社というものは、年々機能しなくなっていった。

 そんな風に会社組織が流動化して不安定な時代だったからこそ『女王の教室』は学校が舞台であり、遊川の代表作とされる2010年代の作品は家族が物語の中心に添えられていたのだが、『ハケン占い師アタル』では、家族は背景に退き、舞台は“会社”で、チームで“働く”ということと真摯に向き合っている。ここに時代の変化を感じる。

 『ハケン占い師アタル』に登場する会社員の名字には目黒や品川といった山手線の駅名からとられているのだが、まるで駅に止まるように、毎話、一人の社員に焦点を当てて、彼、彼女らの抱えている問題を掘り下げていく。

 1~3話では、経験不足から生まれる若手社員の抱える問題を描かれていたが、第4話では上司の上野に焦点が当てられた。過去の成功体験を絶対化するあまり、部下に対して上から目線で振る舞うがゆえに、どんどん孤立していく上野。前回まで「これだから若いやつは」と思っていたら、今度はベテランが抱える問題が辛辣に描かれるのだ。

 この巧みな構成によって、単純な若者批判やおじさん批判で終わらず、どの立場の人にも響く作りとなっている。この視点の多様さこそが本作最大の魅力だ。現代の会社には様々な問題が渦巻いており、そこに集う人々は年齢も性別も立場も目的もバラバラだ。だからこそ様々な問題が露呈しつつあるのだが、本作は、その問題のひとつひとつと向き合うことで、今の時代ならではのドラマとなっている。

(成馬零一)

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