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演劇畑出身・玉田真也作品の魅力は“多層性”にあり? 深田晃司監督作品と共通する“距離感”

リアルサウンド

20/8/27(木) 8:00

 玉田真也が監督・脚本を務める映画『僕の好きな女の子』が現在公開中だ。

 お笑い芸人の又吉直樹が書いたエッセイを原作とする本作は、頻繁に会って他愛のない話をするが恋愛関係ではない男女を描いた映画だ。

 脚本家の加藤(渡辺大和)は本心がわからない美帆(奈緒)に思いを寄せながらも、自分の気持ちを伝えることでこの心地よい関係が壊れてしまうのなら、このまま黙っていようと思っていた……。

 脚本協力として参加している今泉力哉が監督した『愛がなんだ』を男性視点から描いたような作品だと話題になっているが、受ける印象はだいぶ違う。『愛がなんだ』が、ヒロインのテルコ(岸井ゆきの)の心情がモノローグで語られるため、観客が感情移入して「これは私の物語だ」と思えるのに対し、『僕の好きな女の子』は、二人のやりとりを突き放した形で見せていく。

 そのため、加藤と美帆の関係性はよくわかるのだが、二人の本音の部分はわからないためムズムズするという仕掛けになっている。美帆の気持ちがわからないのは物語として当然だが、加藤の気持ちまでわからないとなると観ていて不安で「本当はどう思ってるんだ?」とモヤモヤするのだが、そのモヤモヤがピークに達したところで物語が切り替わり、クライマックスへと向かう構成は実に見事である。

 面白いのは、二人の背後に、現代社会の輪郭がうっすらと浮かび上がって見えること。この批評的な突き放した距離感こそ、玉田真也なのだと映画を観て思った。

 玉田は2011年に平田オリザが主宰する劇団「青年団」の演出部に入団。2014年からは「青年団リンク 玉田企画」で演劇作品を上演している。近年では文化人としても大きく注目されている平田オリザは、日本の演劇界を代表する劇作家の一人で、平田が確立した「現代口語演劇」という作劇手法は、岡田利規や三浦直之といった後に続く劇作家に大きな影響を与えている。

 また、青年団の演出部には、劇団ハイバイの岩井秀人や映画『よこがお』やドラマ『本気のしるし』(メ~テレ)で知られる深田晃司も所属しているのだが、『僕の好きな女の子』を観て思い出したのは、深田晃司が監督したいくつかの作品だ。

 二人の映画は、役者や物語に対する距離感がとてもよく似ているのだが、内面には踏み込まず、ひたすら表面を観察する距離感こそ、現代口語演劇の手法を映画やドラマに移植した際に現れた効果だろう。

 以前、筆者がインタビューした際に深田監督は、「みんな簡単に本音を言わない」のが青年団の作劇と既存のドラマの違いで、「日常生活において人は簡単に本音を言わないし、本音だと思って話している本人ですら、それが本心かどうかわかるはずがないという距離感でオリザさんは作っているのだと思います」(引用:ドラマ『本気のしるし』特集1 イベントルポ&深田晃司監督インタビュー(成馬零一) – 個人 – Yahoo!ニュース)と語っていたが、この距離感は『僕の好きな女の子』にも当てはまるのではないかと思う。

 説明的な台詞はほとんどなく、本音を語っているように見える場面ですら真意はわからない。だからこそ観客は二人のことが気になり、じっくりと観察するのだが、その時、観ている側の心に何かが浮かび上がってくる。というのが、深田と玉田の作品に共通する距離感ではないかと思う。

 この距離感は玉田が手掛けるテレビドラマの脚本にも強く現れている。玉田は2019年に動画配信チャンネル「JOKER」を運営する流川(松本穂香)とリストラされたサラリーマンの柳(松尾諭)が、生配信を通して現代人の闇を暴く『JOKER×FACE』(フジテレビ系)を執筆し、市川森一賞を受賞した。今年初頭には、NHKのよるドラ枠でRPG(ロールプレイングゲーム)のファンタジー世界を舞台に育児に悩む魔法使いのメイ(前田敦子)の戦いを描いた『伝説のお母さん』(原作:かねもと)を大池容子と共に執筆。それぞれ、動画配信とゲームの映像をドラマに取り込んだ社会批評性のある意欲作だ。

 一方、先日まで放送されていた全4話の深夜ドラマ『40万キロかなたの恋』(テレビ東京系)は、地球から約40万キロ離れた月周辺で宇宙船の中にAI(人工知能)のユリ(声・吉岡里帆)と共に長期滞在する孤独な宇宙飛行士・高村宗一(千葉雄大)が、元恋人のテレビディレクター・鮎川咲子(門脇麦)とモニター越しに再会する姿を描いたドラマだった。

 本作は新型コロナウイルスの影響で放送予定だった作品が撮影休止となったことで急遽作られたドラマで、宇宙船のシーンはバーチャルスタジオで千葉が一人芝居したものをリアルタイム合成した映像で、三密を避けた撮影方法が売りとなっていた。

 その意味で、宇宙飛行士モノというよりは、リモートドラマの一形態だと言えるのだが、物語もまた、コロナ禍を生きる我々は、これからAIと引きこもって暮らすのか? それでも他者を求めて生きるべきなのか? と問いかけるものとなっていた。

 実況動画やゲームのモニター画面を通して描かれる人々の背後に、我々が生きる社会の輪郭がうっすらと浮かび上がる。この多層性こそが玉田作品の魅力である。

■成馬零一
76年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)がある。

■公開情報
『僕の好きな女の子』
新宿シネマカリテほか公開中
出演:渡辺大知、奈緒、山科圭太、野田慈伸、前原瑞樹、萩原みのり、後藤淳平(ジャルジャル)、福徳秀介(ジャルジャル)、たくませいこ、児玉智洋(サルゴリラ)、秋乃ゆに、濱津隆之、東龍之介、柳英里紗、長井短、朝倉あき、徳永えり、山本浩司、仲野太賀
監督・脚本:玉田真也
原作:又吉直樹(別冊カドカワ総力特集『又吉直樹』内『僕の好きな女の子』)
主題歌:「友達じゃがまんできない」 作詞・作曲 前野健太
制作:吉本興業、TBSテレビ
制作プロダクション:MOTION GALLERY STUDIO、コギトワークス
製作・配給:吉本興業
(c)2019吉本興業
2019/カラー/アメリカンビスタ/DCP/90分
公式サイト:bokusuki.official-movie.com

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